講演「なぜ日本人技術者が海外ファッション業界で評価されるのか」概要 7−3 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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講演「なぜ日本人技術者が海外ファッション業界で評価されるのか」概要7-3


7-3. 日本アパレルの技術者育成への示唆3

<作り手と消費者との距離感を再考察する>

国内の技術者育成と国内デザイナーの育成は並行して重要なことだと述べました。高い技術力もそれを使いこなすだけの人材(洋服の場合は主にデザイナー)が存在しなければ意味を持ちません。しかしながらレベルの高い仕事にはそれ相応の代金がかかります。デザイナーはそれを支払えるだけの経済的余裕が必要不可欠です。つまり技術者の育成を追求していくと、豊富なアイデアと創造性、そして経済的に安定しているという両条件を兼ね揃えたデザイナーが求められるということになります。創造性に関しては個々に依るところが大きいので今回は置いておくとしても、経済的に安定するということは実現するのは容易なことではありません。創造性の高い製品をどう消費者に浸透させて消費してもらうのか、作り手と消費者の距離感をどう縮めていくのか。これが今現在の大きな問題点だと思います。

さて、今日本は服があまり売れないと言われています。様々な要因が考えられるでしょうが、根本的には”着る機会”が減ったということなのだろうと考えます。以前に記したように、ヨーロッパでは家族で夜食事に行ったりするときでも特別な装いで出かけることが普通にあります。この習慣があるために少なからず洋服を買うきっかけが増えることは間違い無いでしょう。状況や会う人会う場所に応じて装いを変えなければならないという認識をみんな持っているのです。そういった習慣は日本にはやや馴染みが薄いかもしれませんが、しかしながら、この様な何かしらの”着るきっかけ(消費するきっかけ)”を社会が作り上げることは不可能ではありません。”服を着る機会”、”人から見られる機会”を意図的に増やすのです。その中の可能性の一つとして東京コレクションが挙げられます。私からすればまだまだ芸能人やファッション業界の人達が自分たちの職業の特異性を披露し合う排他的な会合といったような印象をしばしば受けますが(それはヨーロッパも似通っていると思いますが)、せっかくの年に2回のファッション大イベントですから、ここに一般の消費者をより参加してもらえるように、つまり服を着る機会(消費する機会)を与えるように、より開けた場所になる様に工夫することはそれ程難しいことではないでしょう。日本はそもそもヨーロッパに比べて人と人との格差・身分の差が小さいところが特徴です。ヨーロッパの高級ブティックに入れば、表立っては見えなくとも差別を感じることもあります。それが良いか悪いかではなく、ヨーロッパ人はブランド物はお金に余裕のある人・身分の高い人のためのものという意識が明確にあります。これは彼らの歴史的に根付いた感覚であって、そのような区別的意識をそのまま日本にそのまま持ってくることは賢いやり方だとは思いません。ですからコレクションウィークを業界人+αだけで終わらせるのではなく、一般消費者参加型の消費者とブランドの距離が近い日本ならではのファッションウィークを提案すべきではと思います。さらに、東京コレクション自体がもっと”ものづくりの国日本”世界にだけでなく日本国内にこそ発信するような場所になれば、世界から見てもその特異性に注目されるのではないでしょうか。例を挙げると、ファッションウィーク機構が機屋さんを選出し、機屋さんにコラボレーションしたい新人デザイナーを選んでもらい、それらの組み合わせによるファッションショーを企画するというものです。”ファッションショーはデザイナーがいてこそだ”という何となく存在する空気を日本的に変え、デザイナー主導のショーではなく、技術者主導のファッションショーを発表するのです。技術者にも光が当たり若手のデザイナー発掘の場所にもなり得るでしょう。これは日本的な手法の一つだと思います。ファッションウィークだからと言って何もヨーロッパと同じようなことをしなくてもいいのです。むしろ日本だからこそできる可能性を試していく必要があるのだと思います。この様に国内での認知・消費の活性化のきっかけ作り(日本のファッションを盛り上げる仕掛け)は様々な所でまだまだ存在する様に感じます。”日本の可能性”の大きさに業界人各々が気づきそれを消費者にも伝えていく、みんなで日本のファッションを盛り上げ、同じ方向を向いて前進することが必要なのだと考えます。

では”日本の可能性”とは何でしょう。それは上記しましたが日本という国は世界も認める”ものづくりの国”なのだということを再認識することだと私は考えます。海外で生活していると現地の人と日本のことについて話すことが多々ありますが、彼らのほとんどは”日本の製品は品質が良い”という認識を持っています。この場合はおそらく車であったり電化製品のことを指していることが多いのかもしれませんが。いずれにせよ日本の製品には”モノが作られる過程(=技術)”に大きな信頼が置かれているわけです。この点は多くの日本人自身も同じ認識をもっているでしょう。中身の見えにくい”メイドインジャパン”を連呼するのではなく、作る過程や作っている人そのもの(=技術者)にこそ焦点を当て、表に出し、それらを積極的に語りかけることで消費者により歩み寄り、”ものづくり(特に技術者そのもの)を大切にする国”という姿勢を訴えるのです。技術者が主体になって日本のファッションを動かして行くぐらいの姿勢でもいいのかもしれません。この様な姿勢は海外の人はもちろん、日本人の心にも大きく共感されるであろう要素ですから、これを通じて消費者の心を捉え自国で愛される製品作り、そして人材作りを実行して行けばいいのだと思います。

第8章は 『最後に』です



<参照用既出リンク>

はじめに
第1章 ファッションのグローバル化 
第2章 世界で活躍する日本人 
第3章 日本人の海外で評価される一般的な特性
第4章 3Dデザイナーの存在
第5章 ヨーロッパのファッション業界の実態、ものづくりに対する意識の違い
第6章 ”日本人が重宝されている”の否定的側面
第7章1項 日本アパレルの技術者育成への示唆1<海外での経験者を国内で積極的に採用する>
第7章2項 日本アパレルの技術者育成への示唆2<海外進出重視のビジネスモデルと並行し、国内マーケットの刷新を図る>

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