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惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか? アルマ望遠鏡による惑星誕生現場の大規模観測

2021年09月23日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回、東京大学と国立天文台の国際研究チームが実施したのは、5つ若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”を対象としたアルマ望遠鏡による大規模計画でした。
そして、惑星の形成現場において重水素を含む分子とイオン化率の分布を、これまでになく高解像度に描き出すことに成功したんですねー

特に重水素を含む分子は、地球に存在する水の起源を探るカギになる物質です。

なので、惑星が生まれる現場で重水素の分布を普遍的に明らかにすることは、太陽系の天体と太陽系外惑星の誕生過程を理解する上で欠かせないステップになるようです。

原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤

様々な化学組成を持っている太陽系の天体たち。

なぜ、このような化学組成に違いが出ているのでしょうか?

天体は原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤“原始惑星系円盤”の中で作られます。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

この“原始惑星系円盤”は場所によって化学組成や物理状態が異なっているんですねー
なので、それぞれの天体が作られた場所によって化学組成が違ってくるわけです。

このことから、“原始惑星系円盤”内での化学組成や物理状態を明らかにすることは、惑星形成の基礎になるわけです。

“原始惑星系円盤”内での分子の分布

“原始惑星系円盤”には多様な分子が含まれていて、それぞれの分子は特定の波長の電波を放出しています。

この電波の多くは数ミリメートル程度の波長を持ち、アルマ望遠鏡で観測することができます。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。(Credit: M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)

今回の研究で実施されたのは、アルマ望遠鏡を用いた大規模観測計画“MAPS”。
“原始惑星系円盤”に含まれる分子が放つ電波を高解像度にとらえることを目指しているんですねー
MAPSはMolecules with ALMA at Planet-forming Scales(アルマ望遠鏡による惑星形成スケールでの分子研究)。

この計画で目標とされていたのは、およそ20種の分子の“原始惑星系円盤”内での分布を約15天文単位の解像度で描き出すこと。
観測されたのは、5つの若い星(おおかみ座IM星、ぎょしゃ座GM星、AS 209、HD 163296、NWC 480)の周囲にある“原始惑星系円盤”でした。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。

アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。
アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Cataldi et al./Aikawa et al.)

アルマ望遠鏡を使うことで見ることができたのは、惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか。
なかでも、地球上の生命の起源にも関連する窒素有機化合物の分布を調べることが、今回のプロジェクトのワクワクするポイントだったそうです。

これまでにも、“原始惑星系円盤”内での分子の分布を調べる研究は行われてきました。

でも、これほどの高解像度・高感度で多様な分子の分布を明らかにするのは今回が初めてのこと。
“MAPS”では、HC3N、CH3CN、c-C3H2などの複雑な有機分子の“原始惑星系円盤”における分布も明らかにしています。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/D. Berry (NRAO), K. Öberg et al (MAPS))

さらに、“原始惑星系円盤”の内側の領域では想像していたよりも10倍から100倍も多くの大型有機分子が発見されています。

その科学的特徴は太陽系の彗星に似ています。
大型有機分子は、宇宙に豊富にある一酸化炭素などの単純な炭素含有分子と生命の素になるより複雑な分子の間をつなぐ存在として、とても重要になります。
“MAPS”の観測結果は20本の論文にまとめられアメリカの天体物理専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ”のMAPS特集号として出版される。

惑星形成にも大きく影響を及ぼすイオン分子の分布

今回の研究では、“原始惑星系円盤”におけるイオン分子の分布も明らかになっています。

今回のHCO+分子の観測によると、“原始惑星系円盤”の半径100天文単位より外側のイオン化率は、中心星表面の磁気活動で生じたX線が円盤上空のガスを電離させていると考えると良く説明できました。
一方で半径100天文単位より内側のイオン化率は低くなっていました。

これは、“原始惑星系円盤”の内側ほどガスの密度が高くなっているためだと考えられます。

“原始惑星系円盤”のガス中にイオン分子が多いと、磁場の影響で円盤からガスが流れ出したり、円盤の回転の勢いが弱められてガスが中心星に向かって落下しやすくなったりと、円盤内での惑星形成にも大きな影響を及ぼすことになります。

今回、N2D+の観測からは、円盤の中心面付近のイオン化率は天体によって異なる可能性も示唆されていて、今後より多くの円盤の観測も待たれます。

高い感度と解像度を持つアルマ望遠鏡を使った“原始惑星系円盤”の観測結果。
さらに、彗星など太陽系物質の分析・観測結果を比較することで、私たちが住む太陽系の形成過程の謎に迫っていけるはずです。


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