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ホットジュピター“WASP-76b”は光輪が確認された初の系外惑星かも? 虹色の円が何重にも重なる大気現象のメカニズム解明へ

2024年04月19日 | 系外惑星
最も研究されているホットジュピターの一つ“WASP-76b”では、金属鉄の雨が降るような極端な環境があると推定されています。
でも、観測データのすべてを科学的に解釈できる訳はなく、多くの謎も残されているんですねー

今回の研究では、“WASP-76b”の謎の一つである、“ターミネーターゾーン(昼側と夜側の境目)”における反射光の非対称性について調べています。

その結果、“WASP-76b”では“光輪”と呼ばれる大気現象が発生しているかもしれないというユニークな結果が得られました。

もし、この結果が正しい場合、“WASP-76b”は光輪の発生が確認された初の太陽系外惑星(系外惑星)になるそうです。
この研究は、ポルト大学のLlivier Demangeonさんたちの研究チームが進めています。
図1.“WASP-76b”で発生している光輪のイメージ図。(Credit: ESA & ATG)
図1.“WASP-76b”で発生している光輪のイメージ図。(Credit: ESA & ATG)


恒星に常に同じ面を向けている惑星の激しい気象現象

金属鉄の雨が降っていると推定されるのは、うお座の方向約640光年彼方に位置する系外惑星“WASP-76b”です。

質量は木星よりもやや小さいガス惑星で、中心星(恒星)“WASP-76”の周りをわずか1.8日で公転しているホットジュピターです。(太陽系で一番内側を回る水星でも公転周期は88日になる。)

恒星から“WASP-76b”までの距離が、約500万キロ(太陽から地球までの30分の1)しか離れていないので、“WASP-76b”は潮汐力によって恒星に常に同じ面を向けて公転しているようです。
この現象は、月が地球に同じ面を向けているのと同じですね。

この現象を“潮汐ロック”といい、主星と向き合う昼側と反対の夜側が固定されることで、“WASP-76b”は昼側と夜側とで1000℃以上という極端な温度差が生じる環境となり、昼側から夜側に向かう猛烈な大気の流れがあると考えられています。(※1)
※1.“WASP-76b”の昼側の気温は、観測値では約2200℃(2500±200K)。でも、ターミネーターゾーンで鉄の雨が降っているという推定の元となった中性鉄(イオン化していない鉄原子)の存在度を説明するには、昼側では2400℃以上、夜側では1400℃以下の気温が必要となる。
図2.系外惑星“WASP-76 b”のターミネーターゾーン(イメージ図)。昼側から運ばれた鉄の蒸気が、低温の夜側で冷えて雨粒となって降り注ぐ様子が描かれている。(Credit: ESO, M. Kornmesser & L. Calçada)
図2.系外惑星“WASP-76 b”のターミネーターゾーン(イメージ図)。昼側から運ばれた鉄の蒸気が、低温の夜側で冷えて雨粒となって降り注ぐ様子が描かれている。(Credit: ESO, M. Kornmesser & L. Calçada)
この激しい気象現象によって、昼側で蒸発した金属鉄が大気の流れに乗って、ターミネーターゾーンで凝縮することで“鉄の雨”が降っていると推定されています。

太陽系では決して見られないこの気象現象は、まったくの憶測で考えられたものではなく、多くの観測データを統合して得られたものです。

ただ、まだ適切な解釈が与えられていない観測データもあるんですねー
その一つが、ターミネーターゾーンの明るさの違いです。

本来、ターミネーターゾーンの明るさは、どの場所を見ても同じはずです。
でも、実際に“WASP-76b”で分かったのは、東半球のターミネーターゾーンの方が西半球のターミネーターゾーンよりも明るい、という違いがあることでした。

これまでの研究で使われる惑星の大気循環モデルでは、この差を説明することができていません。


局所的に光が増すような大気現象

今回の研究では、“WASP-76b”のターミネーターゾーンの明るさの違いについて、ヨーロッパ宇宙機関とスイス宇宙局が打ち上げた系外惑星観測衛星“ケオプス(CHEOPS)”の観測データを用いて進めています。

“ケオプス”は2020年からの3年間で、“WASP-76b”の観測を合計で23回行っていました。
また、研究チームでは“ケオプス”の観測データと他の宇宙望遠鏡(“TESS”、“ハッブル”、“スピッツァー”)の観測データを比較。
これにより、“WASP-76b”から来る反射光の光学的性質について正確な分析を行っています。

その結果分かったのは、東半球のターミネーターゾーンからくる反射光には、特定の狭い方向かつ非常に狭い範囲から来たものが含まれていることでした。

つまり、東側のターミネーターゾーンでは、局所的に光が増すような大気現象が起きていることになります。
このような光学的現象は地球でも起きていて、“光輪(グローリー)”と呼ばれています。

光輪は、虹色の円が何重にも重なっていて、一見すると虹に似ています。
でも、生じるメカニズムはそれぞれ異なっていて、光輪と虹は別の現象になります。(※2)
※2.一般的な虹は水滴の内部で屈折・反射した光が色(波長)ごとに分解されることで生じる。これに対し、光輪は虹が生じる時よりもずっと小さな水滴で発生し、より複雑な現象(水滴の近くを通過する光で生じるトンネル効果と干渉)によって発生すると考えられている。
また、地球で光輪が観測されるときは、光輪がしばしば観測者自身の影を囲っている状態で発生し、光輪と影がセットになったものは“ブロッケン現象”と呼ばれています。
図3.地球で発生している光輪をとらえた衛星画像。(Credit: NASA Earth Observatory image by Joshua Stevens, using MODIS data from LANCE/EOSDIS Rapid Response)
図3.地球で発生している光輪をとらえた衛星画像。(Credit: NASA Earth Observatory image by Joshua Stevens, using MODIS data from LANCE/EOSDIS Rapid Response)
光輪は、これまで地球と金星(※3)で観測されていますが、今回の研究が正しければ、“WASP-76b”は光輪の発生が確認された初の系外惑星になります。
※3.金星の大気には水がほとんど含まれていないので、金星の光輪は地球とは別のメカニズムで生じていると考えられる。金星大気には硫酸が豊富に含まれているが、純粋な硫酸では観測された現象を説明できないと考えられる。硫酸の滴の中心部に塩化鉄が含まれているか、あるいは滴の外側を単体の硫黄の殻が覆っていることで生じるとする説があるが、詳細は判明していない。
光輪として観測される光は非常に狭い角度に集中するので、“WASP-76b”と“ケオプス”が完璧な配置で並び、かつ光輪が発生する大気現象が揃わないと観測できません。
このような条件が、これまで他の系外惑星で光輪が観測されてこなかった理由となります。


光輪が発生するメカニズムの解明

地球では光輪の発生は珍しく、その上短時間で終わってしまいます。

“ケオプス”による“WASP-76b”の観測期間は短いので、高い頻度で光輪を観測するには、光輪が発生する大気条件が長期間維持されているか、高頻度で大気条件が揃っている必要があります。
でも、“WASP-76b”で光輪が発生するメカニズムの詳細は、ほとんど判明していません。

地球の光輪は大気中の水滴によって発生しますが、鉄も蒸発する“WASP-76b”の大気中に水滴があるとは考えられません。
でも、金属鉄が雨として降っているとすれば、水滴ならぬ“鉄滴”が光輪の発生に関与している可能性はあります。

ただ、高温の“WASP-76b”では、もっと複雑な大気化学現象が想定されます。
なので、研究チームではそれほど単純ではないと考えています。

高温で蒸発する物質(※4)がいくつか滴の候補として挙げられていますが、今のところどれが正しいのかは分かっていません。
※4.金属鉄のほかに、二酸化チタン(Ti02)、酸化アルミニウム(A1203)、チタン酸カルシウム(CaTi03)、硫化鉄(FeS)が候補に挙げられている。
また、“ケオプス”の観測データの解釈については、光輪以外で説明できる可能性も残されています。
このことから、“WASP-76b”で光輪が発生しているかどうかを確定するには、より多くの観測結果が必要となります。

“WASP-76b”が真の意味で光輪の発生が確認された初の系外惑星となるのでしょうか? それとも否定されるのでしょうか?
このことがはっきりするまでには、もう少し時間がかかるのでしょうね。


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