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遥か昔の宇宙における物質の化学進化に迫る! 小マゼラン雲にホットコアを初検出

2023年05月27日 | 宇宙 space
今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて地球から約19万光年の彼方に位置する矮小銀河“小マゼラン雲”において、“ホットコア”と呼ばれる生まれたばかりの星を包み込む分子の雲を世界で初めて発見しました。

ヘリウムより重い元素(炭素、窒素、酸素など)は、恒星内部の核融合反応により長い時間をかけて合成されるので、宇宙が誕生したばかりの頃には、ほとんど存在していませんでした。

このような重い元素の少ない環境における星形成や、それに伴う物質の化学進化の様子は未だに多くの謎に包まれているんですねー

小マゼラン雲は重い元素が少なく、今から約100億年前の環境に類似しているので、昔の宇宙の物質進化を研究するための良い実験場といえます。

今回の研究で発見された小マゼラン雲のホットコアは、通常の環境のホットコアと比べて、複雑な有機分子がはるかに少なく、またその分布にも大きな違いが見られています。

このような違いは何を意味しているのでしょうか?
重い元素の少ない昔の宇宙での物質進化や星形成過程の多様性を示唆する重要な手掛かりになるのかもしれません。
この研究を進めているのは、新潟大学自然科学系(理学部)の下西隆準教授、東京工業大学の田中圭助教、バージニア大学のYichen Zhang研究員、国立天文台の古家健次特任助教の国際共同研究チームは

赤ちゃん星を包む温かいガス雲

冷たく巨大なガスの塊の中で赤ちゃん星“原始星”が誕生すると、星は周囲のガスやチリを温め始めます。

その原始星を繭(まゆ)のように包む温かいガス雲は“ホットコア”と呼ばれています。
まぁ~ 暖かいといってもマイナス150度前後から室温程度ですが…

ホットコアの中では、星の材料となる星間物質が非常に豊かな化学進化を遂げることが知られています。
実際、天の川銀河内の多くのホットコアでは、水や複雑な有機分子を含む様々な分子がっ見つかっています。
天文学では、メタノールのように6個以上の原始からなる有機分子を“複雑な有機分子”と呼んでいる。
なので、ホットコアの研究は、星形成の物理過程を理解するだけでなく、星形成に伴う物質の化学進化を理解するうえでも重要だと考えられています。

小マゼラン雲は、太陽系近傍に対して炭素や酸素などの重元素の存在量が約10%から20%と少ないことが知られています。
天文学では、水素とヘリウムよりも重い元素のことを“重元素”と呼び、水素に対する重元素の割合は重元素量と呼ぶ。重元素は恒星内部の核融合反応により合成され、恒星の死に伴い星間空間へと放出される。なので、星の生と死のサイクルが十分に繰り返されていない初期の宇宙では、現在の宇宙に比べて重元素量が低かったと考えられている。
このような重元素の少ない環境は、ビッグバン直後の誕生したばかりの宇宙に存在した銀河と類似していて、小マゼラン雲ははるか昔の宇宙における星形成過程や物質進化の様子を探るうえで重要な現場のひとつといえます。

研究チームでは、これまでに大マゼラン雲や天の川銀河の外縁部といった重元素の少ない領域における星形成および物質進化に着目し、これらの領域をアルマ望遠鏡で観測することによりホットコアを発見してきました。

でも、星形成活動が活発な近傍銀河の中でも、特に重元素が少ない小マゼラン雲では、これまでホットコアは見つかっていませんでした。
天の川銀河には、周囲を公転している“衛星銀河”が50個以上見つかっていて、大マゼラン雲と小マゼラン雲もその衛星銀河に含まれている。どちらも、かつては小さな棒渦巻銀河だったと考えられている。

小マゼラン雲に見つかったホットコア

そこで、研究チームが始めたのは、大・小マゼラン雲内の約40の大質量原始星をアルマ望遠鏡により系統的に観測するプロジェクト“MAGOS(MAGellanic Outflow and chemistry Survey)”でした。
日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。
今回の小マゼラン雲におけるホットコアの発見は、MAGOSプロジェクトにより取得されたデータおよびアルマ望遠鏡のアーカイブデータを組み合わせて得られたものでした。
小マゼラン雲で発見された2つのホットコア。各パネル内は、原始星周囲のダスト“星間チリ”、二酸化硫黄分子、メタノール分子からの電波放射をとらえた画像。背景はヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”による小マゼラン雲の赤外線画像。(Credit: 新潟大学)
小マゼラン雲で発見された2つのホットコア。各パネル内は、原始星周囲のダスト“星間チリ”、二酸化硫黄分子、メタノール分子からの電波放射をとらえた画像。背景はヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”による小マゼラン雲の赤外線画像。(Credit: 新潟大学)
小マゼラン雲で発見されたホットコアの物理・化学的特性を詳細に調べてみると、興味深い特徴が見つかっています。

これまでに知られていた通常の重元素量環境では、原始星付近の暖かくコンパクトで高密度なホットコア領域は、星間有機分子の一種であるメタノールの輝線により検出されてきました。
個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線として観測される。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
一方、今回の研究で小マゼラン雲内に見つかった2つのホットコアでは、どちらもメタノール分子は比較的低温で広がった領域に由来していて、ホットコアの高温ガスからの寄与は非常に小さいことが分かりました。

また、天の川銀河内で一般的に用いられるメタノール輝線の代わりに、小マゼラン雲の天体では二酸化硫黄の分子輝線を用いてホットコア領域を検出できること、これも今回の研究で明らかになったことのひとつでした。
ホットコア“S07”の二酸化硫黄“SO2”(左)とメタノール“CH3OH”(右)の分子輝線の積分強度の比較。二酸化硫黄の分子輝線のほうがコンパクトかつ高温で、ホットコアが効果的に追跡している様子が分かる。(Credit: Shimonishi et al. 2023)
ホットコア“S07”の二酸化硫黄“SO2”(左)とメタノール“CH3OH”(右)の分子輝線の積分強度の比較。二酸化硫黄の分子輝線のほうがコンパクトかつ高温で、ホットコアが効果的に追跡している様子が分かる。(Credit: Shimonishi et al. 2023)
今回の研究成果により明らかになった小マゼラン雲の原始星の興味深い特徴は、遥か昔の宇宙で起きていた物質進化や星成型過程の多様性を解釈する重要なカギになります。

現在の天の川銀河の星・惑星形成領域で起きている星間物質の豊かな化学進化は、宇宙史を通して普遍的な現象だったのでしょうか?

星・惑星形成領域における物質進化の理解は、惑星へと取り込まれ得る生命材料の多様性の究明にもつながります。

今後、アルマ望遠鏡やジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測が進むことで、過去の宇宙と現在の宇宙における星・惑星形成過程およびそれに伴う物質進化の様子の違いがより詳細に明らかになることが期待されています。


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