−−なんて日だ。

 

泊まる気満々でやってきた江藤と、チキンになった俺。

すったもんだの形勢逆転の押し問答の末、裸足で飛び出した江藤を連れもどし、なんとか落ちついて話ができる状態まで持ち込み誤解は解けたが、さてどうやって話を発展させよう。

本当、俺、もう完全ホープレス。

 

ここで、男を見せねば、ザ・絶対安心彼氏、真壁俊!

お前がいっぱしの野郎だって見せつけてやれ。

お前の未来は今日にかかってる!

 

って、俺なんで、いったい誰にこんな力説してんだ?!

 

ザ・野郎が憧れる嫁さん候補&スーパー理解力のある俺の彼女、江藤蘭世!ならわかってくれるよな?

 

なーんて、昔読んだポパイとオリーブの漫画のようにはいかねえな。どっちかってーと、ルパンと不〜二子ちゃ〜んの方がいいんだけどな。って俺、いつから劇団ひとり漫才になったんだ?

 
 

あほらし。

 

 

もとい!

今までクールに振舞おうとしてきた俺。でも、俺、無口でも根暗でもなんでもなく、ごく普通の18歳の男なんだけど。

それに、江藤の中で理想像が崩れようと、俺がどう出ようが江藤は俺を受け止めてくれる(だろう)。そして、また逆も真なり。

いささか、他力本願チックになってしまってるが、ずっと葛藤し続けた正直な気持ちをぶちまけようと腹をくくった。ここまでくりゃ、出たとこ勝負だ、と。

 

つべこべつべこべ、今日の俺、頭の中でしゃべりすぎ!黙ってろ!

ああああーー、と・に・か・く!!

とにかく話そう。

 

 

「あのね...」

 

江藤が口火を切った

 

「最近ずっと真壁くんが怖くてどうすれば良いか分からなかったの」

 

予想通りのセリフが飛び出した。

いきなり俺がありのままをぶちまけて核心をついても、江藤は心を開かないだろう。

 

俺だって悩んだんだ。それくらいは分かってる。今日はとことん納得いくまで付き合うぜ 。

 

「俺が怖い?」

 

「うん」

 

「俺さ、二人きりでいる時は気持ちを隠さなくてもいいと思ってるし、江藤もそうであって欲しい」

 

「私もそう思ってるよ。そもそも私の気持ちなんて真壁くんにだだ漏れなんでしょ?」

 

「そんな四六時中聞いてねえよ」

 

「やっぱ、聞いてるんじゃない!私もその力欲しいなー」

 

「それはダメだ!」

 

「なんでよー。じゃあ、私の力と交換しようよ」

 

「それも無理。お前こそ色々しでかしてくれたじゃん。てか、話戻そうぜ」

 

脱線してる場合じゃねえ

 

「もう一度確認させて。真壁くんって私の彼氏なんだよね?」

 

おい!!さっき公表しようって、俺言ったよな?

 

「ああ。俺はそう思ってるけど。お前は違うのか?」

 

「私もそう思ってるけど、でも、真壁くん人気者だからイマイチ自信持てなくて」

 

「お前は何も考えず自信持ってろ」

 

「じゃあ、今日、私が泊まるのなんで迷惑だと思ったの?」

 

「いや。迷惑とかそういうんじゃなくて…」

 

「じゃあ、なあに?」

 

「俺のこと幻滅して、聞かなきゃよかったなんて思うなよ。俺も正直に話すから」

 

「うん」

 

「同じ部屋で寝るのに何もしないっていうのは無理。俺、自分を抑える自信なんてねえよ」

 

「それはね、最近ずっとそうなのかな?って感じてた」

 

よし、ここまできたら今まで悶々としてきたこと全部伝えるんだ。

 

「お前は俺とどうしたいんだ?」

 

「私は真壁くんと時にはケンカしたり、でもすぐに仲直りしたりしてずっと楽しく同じ時間を過ごせたらいいなー、って」

 

「俺のそう思ってるよ。でも、そういう表面的なことではなくてさ。一緒にいる時間が増えると俺はもっと江藤とは違うレベルでお前を求めてしまう」

 

「…」

 

「お前が欲しい。何よりもお前が欲しい。それが、正直な気持ち」

 

「…」

 

「江藤にその準備がないのに無理にすすめるのは意に反しているからさ、お前に心づもりがないのに、ここに泊まりたいって言うならなら俺は城にでも泊まるよ。お前んちの階段使わなくても、俺、テレポートできるからさ、正直に言え」

 

「…」

 

「分かった。嫌ならそれでいい。でも、江藤に対する気持ちは変わらないし、俺が浮気したらどうしようなんて考えなくてもいいよ。江藤、お前の気持ちを聞かせて欲しかっただけだから」

 

言いたいことの半分くらい言ったぞ。なんか少しだけスッキリした。

さあ、これからどういう展開になるのか皆目見当もつかねえが、江藤にも喋らせなきゃ。

 

「ねえ、真壁くん。男の子って女の子と二人っきりになったら、したくなってどうしようもなくなるって本当?」

 

おいおい、いきなりそんな質問すんなよー!

 

「身も蓋もないけど、そうだよ。でも、そう思えるのはお前だけ。俺、江藤といるときはいつでもどこでもそういうふうになりたいって思ってる。多分、一度一線超えてしまったら俺、自分が抑えきれなくなって江藤をいつも求めてしまうだろう。でも、俺、江藤に嫌われるの怖くて今まで悶々としてたんだ。でも、できれば特権を与えて欲しい」

 

「そう…」

 

そう言って江藤はまた黙りこくった。

やっぱ、そういう反応になるよな。相当パニクってんだろうな。

俺が下手に沈黙を破るより、江藤が話し始めるのを待とう。

 

 

 

しばらくの沈黙の後、江藤が話し始めた

 

「私もそういうこと嫌じゃないよ。本当はね、いつかはそういう日が来るなと思ってた。真壁くんが怖いっていうより、恥ずかしって気持ちの方が大きかったの。真壁くんのせいにしてごめんね」

 

「恥ずかしい?」

 

「だって、私、自信がないの。男の子の大好きなセクシーでナイスなボディじゃないし。真壁くんも私を見たらきっと幻滅して、また私の元から去ってしまう」

 

「俺って、そんなに信用ねえの?そんなの俺が気にすると思うのか?」

 

「違うの?」

 

「ああ」

 

「本当に本当?」

 

「お前、しつこいぞ!もし、俺がそういうこと気にするやつなら、お前と付き合わねえだろ?」

 

と、いたずら気味に言ってウインクした

 

「もう、真壁くんの意地悪!」

 

この会話をし始めてしばらく経つが、ようやく二人の間に笑みが漏れた

 

 

 

「なあ、今日はどうしたいんだ?もう、この時間に家に帰るのも親父さんたちが心配するだろうから、お前はここに泊まれ。俺はさっきも話したように」

 

 

 

城に行く、と言いかけたところで、江藤が俺を遮った

 

「もう、決めた!私、ここに泊まる!真壁くんと一緒に!!」

 

オーマイガッ?!そういう展開考えてなかった!!!

 

「お前、自分が言ってる意味わかってるのか?」

 

「わかってるよ。そこまで馬鹿じゃないもん!」

 

「じゃあ」

 

「うん!蘭世は今日、真壁くんと“えっち”します!」

 

と言って、どっかの国の兵隊みたいな敬礼をした

 

ウオーーッ、まじっすか!

願ったり叶ったり。いやいや、そうじゃなくてー。

江藤は腹をくくったようだが、それに反比例してドキがムネムネしてきたぞ。

親父ギャグと言われようが、マジやべー!

 

江藤に悟られないようにこの胸の高まりを鎮めなきゃ。

えーーーと。

俺は台所の方に目をやった。

 

 

これだ!

少しでも一人になれる時間が得られるものは!!

 

「お前、風呂に入ってこいよ」

 

「えーー、真壁君も突然やる気満々?」

 

やる気って…。俺が気を使って使わないようにしてた言葉をー!

 

「ちげーよ、風呂に入って気分転換しろよ。別に気が変わってもいいからさ。それにお前、靴もはかず外走り回った足で俺の布団汚す気か?」

 

とウインクしておどけてみせけど、俺の心臓、今夜、バコバコしまくりだ。

江藤にバレてないよな?

 

「はーい!あ、そうだ、真壁くんも一緒に入る?」

 

と言って江藤がウインクした。

 

 

入りたいです!

でも、さすがにハードル高すぎますぜ、蘭世師匠。

 

豆鉄砲食らったような顔した俺に

 

「うそよ。覗かないでね、真壁くん」

 

と言って江藤は風呂に行こうとした。

あ、風呂の準備してねえや。

もういいや、今夜は魔力全開で。

俺は、力を解放して風呂掃除して湯をはった。

 

♪ルルル〜♪

 

江藤の春色の浮かれた鼻歌が聞こえてくるんですけど。

 

たまんねーな。

俺の脳中では白馬の王子的な優しい天使と超下世話な黒い悪魔が、この後のプランについて勝手に色々討論してるんですけどね。

 

もっと、アロンの体験談を聞いとくべきだったか?

ああ、アロンを手本にとか考えてる俺って、本当、どうしようもねえ。

 

お、牛乳でも温めて飲むか。

眠れない夜に効果的とか保健のクラスで習ったかも。

俺って、マジ、チキンだー。頭いてー。ガーッ!

 

台所まで来てしゃがみこんで頭をかきむしってると、

 

「おっさきー。いいお湯だった〜。真壁くんも入りなよ〜。スッキリするよ〜」

 

本当にさっぱりスッキリした江藤が出てきた。

その濡れ髪、たまんねえな。マジ、こいつ小悪魔かも。

 

「あ、ああ」

 

なんか主導権持ってかれちゃいました、僕。

頼り甲斐のある彼女で嬉しいです。

全てお任せしちゃおうかな、君に。

 

ちげーだろ!

真壁俊、ここは男らしく、行け!

 

「俺も入ってくるわ」

 

風呂のガラス戸越しに鼻歌まじりにドライヤーで髪を乾かす音が聞こえてくる。

俺はいたたまれなくなって、風呂に潜った。

 

今日の俺、頭の中でもよく喋る。

ああ、3年分くらいジムで扱かれたくらいどっと疲れた。

もう、落ちるように眠りたいぜ。

違った。

これから、ラスボスと試合だ。

気合い入れて念入りに洗っとくか。


 


 

もう、逃げらんねーぜ。

腹をくくれ、俺!

 

一応、お行儀よくパジャマを着て、

 

いざ出陣!

GO!!