深山州 マンション管理士最近のマンション管理新聞で「クローバー管理の年間新規受託が1,000戸を超え、2021年4月からの1年間で業界20位」というランキング記事を見て、改めて「ほぼ福岡県内だけでここまでお客様に支持されるクローバー管理は凄い、20年戦い続けてきた松原さんは凄い」と思った話、、、では身内ののろけ話なので、ここは冷静に書いてみる。


僕はもともとマンション管理士(メルすみごこち事務所)として15年前に起業し、そして6年前に松原さんと共同代表で、クローバー管理(福岡)の首都圏版、クローバーコミュニティ(マンション管理会社)を起業しています。

マンション管理組合を「助言・コンサルティング」で支えるマンション管理士の会社と、「日々の実務」で支える管理会社の両方の立ち上げを経験しました。

ハッキリ言って「管理会社を立ち上げ、軌道に乗せること」はマンション管理士のそれと比べてとても大変です。
もちろん性格や得意・不得意はありますが、僕の個人的な感覚で言うと、管理会社を軌道に乗せるほうが軽く100倍は大変です。僕一人だったら絶対に管理会社を立ち上げていません。

仮に「管理会社が軌道に乗る」の定義を
  1. スタッフが忙しい時や欠けた時に役員がバックアップしなくて良い体制ができる
  2. 役員の給料(役員報酬)が払えるようになる
とすると、6年前に起業したクローバーコミュニティは、未だこの両方を満たしていません。つまり
  1. 未だに僕が現場に行くことは多い(好きでやっていて、かつ車やバイクでドライブを兼ねるし、スタッフやお客様とのコミュニケーションが楽しいので全く問題なし笑)
  2. 役員報酬はゼロ(私も松原さんも手弁当)
です。クローバーコミュニティへのお問い合わせで理事会に出席し、会社の説明をすると、すべての管理組合から「あなたの言う管理会社は理想的だけど、中間マージンや修繕工事リベートを取らなくて、委託料収入だけで本当に会社はやっていけるの?黒字なの?」

と聞かれます。ですので「黒字です。ただし役員は手弁当です」と答えています。話のネタにもなるので敢えて堂々と笑いながら話しています。
お陰様で40管理組合から管理業務を受託しており(2022年6月現在)、計算では50管理組合まで受託が広がると役員報酬も少し頂けそうです。もっとも、僕としては役員報酬は永久にいらないし「いや〜手弁当なんですよ〜」という小ネタが使えなくなる方が嫌なのですが笑

クローバーコミュニティは他の管理会社とは違って「エレベーターや消防設備点検などの専門業者費用から中間マージンを一切取らない」「修繕工事から一切のリベート(バックマージン)を取らない」を是としているので、他の管理会社と比べて収益性が低く、黒字化が遅れていくことになります。
でもそれが良いんです。汚い金を得るくらいなら、常にお金に対し身ぎれいでいて、お客様にも堂々と言いたいことを言わせてもらうほうが「精神的なギフト」が大きいじゃないですか。


■立ち上げが大変「管理会社」
管理会社の本分は「管理組合のお金(管理費や修繕積立金)」を扱い「マンションに異常がないように日々マンションを守る」ことにあります。
  • 会計・出納業務
  • 建物や設備の保全に関する業務
  • 24時間対応
  • 管理員や清掃員のマネジメント
  • 協力業者との連携
といった、日々切れることのない業務を継続させることが必須の仕事です。立ち上げからいろんな機能を併せ持っておかないと、そもそも事業が成り立たないんです。最初からある程度のスタッフが必要ですし、24時間備えるだけの「待機時間」も仕事のうちです。僕も最近こそなくなりましたが、管理員や清掃員や急に休んだ時の代行として入ることもあります。

これをゼロから立ち上げるって凄いことだと思いません?

松原さんの出した本にも書いてありましたし、彼からも昔よく聞きましたが「とにかく最初の3年はほぼ自分ですべての管理業務をやってきた」「枕元に携帯を置いて24時間対応に備えてきた」と聞いて、これはすごい!と同年代で戦う同志として最も尊敬します。

そんな彼から7年前に「福岡で積み上げてきたクローバー管理の実績と理念を首都圏に持っていきたい。クローバーコミュニティを一緒にやりませんか?」と言われて、NOとはとても言えませんでした。それくらい彼をリスペクトしています。

一方で、マンション管理業は「ストック型ビジネス」ですから、一度損益分岐点を超えれば、あとは受託が増える分だけ収支が向上していきます。収益に応じて人材を増やし、より優れたシステムを導入し効率的な経営ができるようになります。軌道に乗ってしまえば強い業界、ということが言えます。

「平成の失われた30年間」でほとんどの業界の経営が停滞する中で、管理会社は倒産することなく右肩上がりであったことや、マンション分譲大手のリクルートコスモス(現コスモスイニシア)の経営が落ち込んだ時に子会社であった管理会社(コスモスライフ。現大和ライフネクスト)が大和ハウスへ高額で譲渡できたのも「管理会社は損益分岐点を超えれば、経営は常に安定しているし伸びていく」ことの証左ではないでしょうか。


■軌道に乗せてからが大変「マンション管理士」
管理会社とは真逆で、マンション管理士は「入口は簡単」「軌道に乗せることもできる」が「軌道に乗せてからが大変」というのが、僕が15年間マンション管理士事務所を経営して痛感することです。

マンション管理士の本分は「管理組合の知恵袋」を担い「管理会社に対するセカンドオピニオンとして、時に組合運営のコンサルタントとして、理事会運営を頭脳でサポートする」ことにあります。

通常の業務は
・理事会や総会へ出席して助言する
・メールや電話(最近ではグループチャット)で理事の相談にのる
・管理会社からの提出資料や工事提案などに対するチェックを入れる
というのが基本で、現場に行くことは基本的に理事会や総会のときだけで、あとはオフィスワークが中心。基本は管理会社がアクションしたことに対するチェックや理事会が考えていることの整理などを行います。

平たく言えば、マンション管理士は「助言業」です。助言する人の能力だけが拠り所の仕事です。
創業時(16年半前)、僕一人での起業でした。「マンション管理士、やります!」と名乗りを上げ、ホームページを作り、携帯電話を持ちパソコンがネットで繋がれば、すぐに立ち上げることができます。僕も最初は自宅の6畳間がスタートです。

そしてマンション管理士を軌道に乗せるのも、管理会社のそれと比べたら格段に楽です。
なにしろ自分一人(家族)が食べていければ良い規模まで売上を増やせれば、経費はほとんどなし。多くのマンション管理士からは「それができないんだよ」と言われそうですが、あくまで管理会社の立ち上げとの比較で言えば、マンション管理士の立ち上げは格段に楽、といえます。

僕の場合、たまたまマンション管理士としての起業時期が早くて目立ったのと、幸運なことに法人化して2年目にテレビ番組「ガイアの夜明け(テレビ東京系列)※」に取り上げられたことでお問い合わせが増え、軌道に乗るのは2年程度と比較的短期間でした。


一方で、マンション管理士は管理会社に比べると「ストック型ビジネス」とは言えません。

契約形態として最も多いのが、当社では「理事会アドバイザー」と呼んでいる「年間顧問業務」です。
年間契約ですので管理会社と同じ1年契約、1年更新で、ここまでは管理会社(管理委託契約)と同じ。

管理会社と大きく異なるのは「管理会社が管理組合の運営に必要不可欠な日常サポート」つまりビジネス的に言うと「ニーズ商品(マストのサービス)」を売っているのに対し、マンション管理士は「ピンチの時に助ける知恵袋」つまりは「ウォンツ商品(無くてもやっていけるけど、あったら良いサービス)」を売っています。
そのため「知恵が要らなくなったら不要」「知恵袋の能力が低ければ不要」「管理組合に知恵がついたら卒業」という「必ずしも継続ありきのビジネス」ではないのです。

また、マンション管理士は基本的に「個人の力量」が商品の全てです。管理会社のような「個人よりも組織」が求められていません。

僕一人が個人経営している分には(つまりは家族が生きていく分には)自分の力量で、自分が抱えられる分だけの顧客を持てば良く、経営は比較的楽でした。
しかしお客様が増え、僕一人で管理組合へ回れなくなると、別のマンション管理士を派遣しなければなりません。その管理士の力量がお客様の希望に達しないと「使えない」「お金がもったいない」「いらない」で契約終了になります。

「よし、軌道に乗った!」と思ってからの約5年間は「アリ地獄」でした。仕事は獲得できても、派遣する人材が管理組合にとってNGだと、結局僕が出ていくか、契約が終了するか、、、という毎日で、売上は全く増えない代わりに負荷だけが増えていきました。しまいには僕自身もワーカーホリックになり、体調が低下し、自ら顧問先に良い提案ができなくなり契約が続かなくなる始末。お客様に迷惑をかけてしまいました。

僕自身に人材を育てる意識や、マンション管理士としてのポテンシャルを秘めている人材を探し出す意識と能力が欠けていたのが一番まずかったのですが、「軌道に乗ってから」つまり自分ひとりで食べていけるようになってから「企業規模を拡大したい!もっと多くの管理組合の知恵袋になりたい!」と思うと、途端に伸び悩むんです。

メルすみごこち事務所も、クローバー管理やクローバーコミュニティと同様に「中間マージンや修繕工事リベートは一切受け取らない」というクリーン&お客様に無駄させない主義ですから、収入的には余計に大変です。「侍(士)は貧しい」はマンション管理士に置き換えると言い得て妙です。特に僕自身、昔は商売人(経営者)としての感覚が薄く、周りが「儲かってるんじゃないの?」と思っているのとは正反対で辛かったですね。

飯が食えているマンション管理士が「個人事業主の粋を出ない」のは「一人で経営するのが最もリスクが低い」「組織を大きくしてもスケールメリットが少ない」ということの裏返しなのだと思います。

メルすみごこち事務所は、ここ5年でマンション管理士事業が経営的に落ち着き、マンション管理士の事業も少しずつ人材が育ってきたので、これから再び成長軌道に乗せます。

いま、新人のマンション管理士を対象に面白い研修制度を作っている最中ですが、僕が味わったアリ地獄の苦労をさせたくないので、一人で飯が食えるマンション管理士をたくさん作っていこうと言う考え方です。まぁアリ地獄の苦労を味わったほうが経営者として、人間として、一皮むけて良かったんですけどね。

あなたがマンション管理業界で立ち上がろうとしているなら、どっちで立ち上げますか?

深山 州(みやま しゅう)
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