日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (19)

2022年11月06日 05時00分12秒 | Weblog

 夏休み。小雨上がりの昼さがり。
 涼風が心地よく流れる庭の芝生で、大助は廊下にラジオのカセットを用意して「佐渡おけさ」のCDを流して、タマコちゃんを相手に盆踊りの練習をしていた。
 彼は、素足になり手拭を頬かぶりして鼻の前で結び浴衣の尻を帯に挟んで、まるでドジョウ掬いの踊りのように曲に合わせて、思いつきのまま自己流の時々片足をケンケンする様に上げて、二・三歩おきにタマコちゃんと両手を合わせ、その際、背丈の低いタマコちゃんに合わせるように腰を前かがみにすると、その滑稽な姿にタマコちゃんが面白がってキャァ~キャァ~と笑い声を上げて、真似をしながら嬉しそうに相手をし、二人ともご機嫌で遊んでいた。
 彼にしてみれば、昨年の夏休みに、理恵子の里に遊びに行ったとき、丁度、村の盆踊りの最中で、促されて踊りの輪に入れて貰ったが、他の人達の様に上手く踊れなかったので、今年こそはと思い練習に余念がなかった。

 
 理恵子は、織田君から明日オートバイで多摩川の堤防辺りをドライブに行くと誘われており、彼女はオートバイに乗った経験も無く、どんな服装で行けばよいのか自室で珠子と相談していたが、庭の方が余りにも賑やかなので、珠子が窓から覗いて見たところ、二人が面白そうに遊んでおり、その仕草が愉快なので思わず声を出して笑い出し、理恵子を呼んで二人で暫く眺めていたが、理恵子が
  「きっと、夏休みに田舎に遊びに行ったときの練習だわネ。大ちゃんは、意外と負けず嫌いなので、熱がはいっているのョ」
と言うと、珠子が
  「姉弟でも、あの子は亡くなった父親に似ているのかしら・・、何処かひょうきんなところがあり、明るい性格は良いのだが、時々、私が冷や汗をかくほど恥ずかしい思いをさせられることがあるヮ」 
  「町内の人達にも可愛いがられているようだが、これでもう少し勉強にも励んでくれたら、母もわたしも安心できるんだが・・」
と、半分ぼやきながらも内心は喜んでいる様であった。
 
 
 二人は、団扇で扇ぎながら見ていたところ、珠子が
  「そうだヮ。大ちゃんに、服装のことを聞いて見ましょう」 
  「あの子、そこいら中を遊び廻っているので、若しかしたら、案外、適当な服装を知っているかもョ」 
  「こんなときこそ、彼の知恵を拝借すべきだヮ」
と言いだして、理恵子を連れて庭に降りて行くと、二人が近ずいたことにも気付かずにいた大助に、珠子が
  「大ちゃん、さっきから見ていたが、なんの踊りか判らないが、とっても面白いヮ」  
  「途中で止めさせて悪いんだけど、一寸、相談に乗ってくれない」
と声をかけると、タマコちゃんが
  「大ちゃん、大変だヮ。変なことをしていて、また、珠子姉ちゃんに叱られるカモョ!」「ワタシ カエロ~ット」
と、吃驚して大助の着物の袖を引っ張ったので、珠子は
  「タマコちゃん、違うの、チガウノョ、心配しないでネ」
と言ったところ、大助は
  「いま、忙しいんだょ~」 「邪魔しないでくれよ」
と、つれない返事をしたので、珠子が
  「理恵ちゃんのことで、相談したいのョ?」 「どうしても駄目なの・・」
と言うと、大助は
  「アッ! 理恵姉ちゃんのことかい」 「僕で良ければ、何でもしてあげるよ」
と急に態度を変えて、理恵子の方に向かい愛想よく笑顔で返事をしたので、珠子が
  「ウゥ~ン この子ときたら憎くったらしい・・」
と、少しばかりすねたが、要件を話すと、大助は理恵子に対しニコット笑いながら
  「なァ~んだ、そんなことか」 「明日の朝、僕が用意してあげるから安心しなよ」
  「それより、いま、盆踊りの仕方を教えてくれないかなぁ~」 「僕、良く判らないんだよ」
と、理恵子に頼むので、彼女は自分の故郷で古くから踊られている盆踊りに、いつのまにか、都会に仕事や勉強に出ている若い人達がお盆に帰って来たとき、踊りの終わり頃になると、誰が教えたとゆうことでもなく、自然にフォークダンス風な踊りを取り入れて愉快に踊る様になり、きまった踊り方はないらしいが、男女が入り混じって、内側と外側に互いに逆廻りして、軽く弾んだ足を降ろししたときに、向かいあった人同士で上げた両手の掌を合わせて、首を左右どちらかに少し傾ける様にすることが、踊りの要点であることを説明して、故郷の盆踊りを想起しながら答えてやった。

 そのうちに、珠子も加わり一緒に練習をしながら
  「この踊りって、見知らぬ人達同士でも自然にコミュニケーションがとれて、首をかしげるところなど、とっても可愛いらしさもあり良いわネ」 
  「なんだか、去年の夏に見たとき、いま流行りの一種の婚カツみたいなところがあり、素朴なところがいいヮ」 
  「わたし、明るい気分になれて心が開く様で、素敵な夏の風物詩だと思うヮ」
と言いつつ、彼女も大助同様に夏休みを楽しみに待っている風だった。

 東京の北部のほうでは、集中豪雨があり生活にも支障が出たようだが、幸い大田区の方は豪雨からはずれ、遊びつかれた四人の周りに夕闇が静かに訪れてきた。 

 

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