油屋種吉の独り言

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フラジャイル。  プロローグ

2024-05-05 17:50:35 | 小説
 ある日曜の早朝。
 T川の河川敷に近い団地の一角に、中学二年
生になったばかりの真弓の家がある。
 どの家もまるで兄弟姉妹のよう、よく似てい
て見分けがつきにくい。
 土手の八重桜の花が散ってしまい、朝な夕な
に人々が散策する小道をおおっている。
 人影はまばら。
 見るからに年老いた茶色の犬に、年老いた男
の人がおぼつかない足取りで付き添っているの
が、ダイニングルームの窓から見える。
 台所と居間を仕切るのは、長さ数メートルの
カウンターだけである。
 時刻は、午前六時ちょっと前。
 母の陽子が食事のしたくに忙しい。
 いつもの休日らしくない。髪をきっちり整え
ている。
 広めのフライパンの中には、すでに焼かれた
卵が黄身を真ん中にして、白身が丸く広がって
いる。
 それぞれの白身が折り重なっていて、ちょっ
と窮屈そうだ。
 平たくて白い皿が四枚、すでにカウンターの
上にのせられている。
 オール電化にするには、予算が足りなかった
ようで熱源はガス。
 味噌汁用のなべと、湯を沸かすためのやかん
が、でんとガス台の上にのっていて、盛んに湯
気をあげている。
 ひまわり模様のエプロンをした陽子は、白い
上着の袖を、二重三重にまくりあげ、ほっそり
した左手を上手に使い、キャベツのみじん切り
に挑んでいる。
 近くのコンビニで買ってきたらしい牛肉コロッ
ケが四つ、それぞれに銀色の小さな袋に詰めら
れた中濃ソースをともない、ちんまり茶色の紙
に包まれ出番を待っている。 
 やかんがピイピイ音を立てだした。
 「お母さん、お母さんそこにいるのっ」
 トントンと軽やかに二階から降りてきたのは
娘の真弓。
 衣服は、上着もズボンもともに薄青色。
 ジャージ姿である。活発なお嬢さんらしくテ
ニス部に所属している。
 頭髪に寝ぐせがついた長い黒髪を、左手でか
きあげながら、母の陽子を目でさがした。
 
 
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2 コメント

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Unknown (sunnylake279)
2024-05-05 19:13:26
こんばんは。
朝の爽やかで慌ただしい光景がひしひしと伝わってきました。
何気ないようで、何かが起こりそうな予感がしました。
次の場面が気になります。
続きを楽しみにしております。
Unknown (marusan_slate)
2024-05-06 17:35:12
こんばんは🌇
…ほんと凄い!!!
自分で考えられて、
本になるじゃないですか(*≧∀≦*)
そしてジャガイモが
食べたいと思った、
自分でした😊
ステキな夜を☆★☆
テル

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