油屋種吉の独り言

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誰か、助けて。 プロローグ

2021-10-19 22:13:11 | 小説
時刻は、午前零時。
一台の軽乗用車が速度を出きるだけゆる
めて、山あいの街を走り抜けていく。
アパートを出てから、どれくらい走った
だろう。
運転席のS子はそんなことを考えてみよ
うとするがすぐまた、そんなことはどうで
もいいような気がしてくる。
助手席に横たわっているNは、彼の好き
な物を思う存分に食べたせいか、すやす
や眠っている。
小学二年生。ようやく学校に慣れた。
楽しげにあれこれと、学校で起きたこと
を話すNの横顔を見ていると、S子はふと
数年前に別れた夫の面影を見いだし、う
ろたえてしまう。
S子は、今のNの寝顔が愛しい。
いつものベッドに連れて行ってやりたい
気持があるにはあるが、一方で、そう思う
じぶんを否定するじぶんがいるのがうとま
しい。
おかしな気分だ。
コロナ禍で仕事がなくなったり、体調が
悪かったりで、どうかしているのだろう。
外はまだ、充分に暗い。
霧が出はじめた。
めざす川が近いのだろう。
気温は氷点下二度。
凍てつきそうなフロントガラスに、突然
小さいがまぶしい程のライトが当たったと
思ったら、くるくるまわりだした。
 昨日からほとんど眠れてないS子は、取
り乱しまい、あやうく大声をあげそうになっ
てしまった。
それが検問の始まりだと気づくのに、かな
り時間がかかった。
運転席の窓に、黒い帽子をかぶった、いか
めしい面がまえの男の顔がせまった。
しゅうっと、S子は窓を開けた。

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