化学物質について、一般的にはその暴露量が問題であり、人工物であろうと自然物であろうと関係ないと言われている。スイス生まれの医師・錬金術師であるパラケルスス(1492~1541)も「あらゆるものは毒性がある。毒性のないものは存在しない。ただ、服用量だけが毒か薬かを区別する。」と言っている。

しかし、近代~現代の社会においては、その暴露量が圧倒的に増加していることが問題である。人工化学物質の生産量は70年で400倍となっており、その変化は地球上のあらゆる生物が何億年もかけて積み重ねてきた変化よりも圧倒的に速い変化であり、当然適応しきれず、様々な問題が発生している。

もはや、化学物質の人工/自然の善し悪しの次元ではなく、市場拡大に飲み込まれた人工物質の大量生産という思考を見直さなければ、解決へと向かえない。

人類滅亡ハンドブック(アローク・ジャー/著、長東竜二/訳)より引用
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1930年から2000年までの間に、人造の化学物質の年間生産量は100万トンから4億トンに増加している。過去の数十年だけでも、われわれは8万個近い新たな化学物質をつくりだし、おそらくは毎日のように「出会っている」にもかかわらず、そのほとんどは目で見ることができない。

中略

もう1つの厄介な汚染物質が、ホルモンに類似した「環境ホルモン」(リンク)だ。
「テストステロンのようなホルモンの分子構造をみると、炭素が輪をつくっていますが、ポリ塩化ビフェニル(PCB)(リンク)のような農薬の多くに見られるのも、まさしくそうしたパターンなのです」と、アルバート大学の生物学教授、アンドルー・デローシャーは語る。

動物たちは、進化の過程で体内に侵入する自然発生的な化学物質に対処する術を身に着けてきた。だが、人造の化学物質が開発され、環境に解き放たれるペースの速さは、壊滅的な影響をおよぼしている。「こうした人造の化学物質に、対処できる生命体はいません」とデローシャーはいう。

中略

動物の体内で、農薬や汚染物質の濃度がある一定線を超えると、その動物はすぐさまに死んでしまう。もっと少量でも、繁殖力を弱めたり、成長を妨げたりすることがある。
生理的な面から見ると、動物の生体機構は汚染物質の分子と、自分自身のホルモンの分子を見分けることができない。おかげで、侵入する分子に対処する自然防御機能が過度にはたらきはじめ、汚染物質以外の分子も破壊してしまう。その結果として不均衡が生じ、ホルモンは成長や発育を調節しているため、否応なく身体に異常が生じるのだ。