「隔世の感」4月19日
『新卒教員 負担軽減へ 文科省対策案』という見出しの記事が掲載されました。『文部科学相の諮問機関・中央教育審議会特別部会で議論している公立小中学校での教員不足解消策の素案が判明した』ことを報じる記事です。すごい内容です。
記事によると、『若手教員の離職や休職を防ぐため、新卒1年目には学級担任をさせないなどの案を盛り込んでいる』『新卒教員(略)教科担任とし、持ち授業数も減らす』『小学校高学年で実施されている教科担任制を中学年でも導入』『教諭と主幹教諭の間に若手教員をサポートする新ポストを創設』『学級担任手当(略)も検討事項』『「教職調整額」について現行の給料月額の4%から10%以上に引き上げる』などの内容です。
問題だらけ、副作用への配慮が見えない内容です。まず、「新卒の学級担任を~」ですが、中学校では現在も行われている取り組みであり、小学校への導入が目玉ということになります。大きく2つの問題点があります。まず、学級数を減らすわけではないのですから、担任の確保が難しくなります。仮に1校に2人の新卒が配置された場合、それまでTT教員や加配教員として配置されていた教員から2人を学級担任にしなければなりません。TT教員や加配教員は、それなりにその立場に相応しい専門性をもっている(建前では)はずですから、その代わりを新卒が務めるのは難しいでしょう。校長は校内人事の苦慮することになります。
また、新卒の立場から言えば、学級経営や保護者との対応といった教員に必須の技能を身に付ける機会を奪われることになります。鉄は熱いうちに打て、です。白紙の状態の新卒のうちに試行錯誤してこそ、学級担任としての技能が身につく、理屈ではなく体で覚えることができるのです。ですから、新卒のときに学級担任をさせないということは、新卒の1年目が、無駄になる可能性が高いのです。
次に、新卒1年目は教科担任というのも問題があります。いくつかの学級で算数なり国語なりを教えることになるわけですが、それは何人もの先輩教員に「気を遣う」ことを意味します。「○○さんの算数の授業がつまらない、って言っているんだけど」「○○三の授業の後、子供が落ち着かないんだよね」などというつぶやきに対応するのは神経が疲れます。かえって心を病む新卒が増えるのではないでしょうか。
新卒への配慮とは直接関係がありませんが、教科担任制の中学年への拡充は、子供の発達段階から見て、人間関係ができている学級担任の下で授業を受ける方が精神的に安定し学習成果が上がるという、従来の考え方の否定につながります。そのことについて、国立教育研究所等による検証は済んでいるのでしょうか。
最後に、若手教員をサポートするポストの新設と学級担任手当の創設ですが、このことが実現すると学校には、校長・副校長・主幹・サポート教員・学級担任・非学級担任の新卒という階層ができることになります。それはかつて「鍋蓋型」と呼ばれ、管理職以外は皆横並びの「教員」であった学校組織の上意下達型組織への変貌が完成するということを意味します。そのことへの賛否は立場によっていろいろあるでしょうが、学校組織が変質することは確かです。文科省がそのことを意識していないはずはありません。そのことを承知の上で議論が進んでいるのかが気になります。
素案について、記事では現職教員の声が紹介されていましたが、教委や校長・副校長等の見解がほとんど紹介されていなかったのはなぜなのか、少し引っ掛かりました。