ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

「100年先よりこの1年」主義

2023-06-04 08:47:01 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「近視眼的」5月30日
 『人文系博士課程の今 新しい価値の創造担う』という見出しの記事が掲載されました。東京大大学院教授今橋映子氏へのインタビュー記事です。このインタビューは、『人文系の大学院博士課程で学ぶ学生が減少に一途をたどっている。学問への理解を世間から得られにくく、専門性を生かした就職も難しい状況だ』という現状認識と問題意識から行われたものです。
 今橋氏によれば、こうした現状はわが国だけのもので、欧米でも、中国や韓国でも、人文系大学院博士課程の者は高く評価されているとのことでした。その上で、今橋氏の次の言葉に注目させられました。
 『人文系の博士課程で学ぶ意義を教えてください』という記者の問いに対して、『「言説の問い直し」だと思うんですね。常識や慣習を問い直す、ということです。例えば、ジェンダーの多様性やSDGsの思考方法などはまさしくそうです。歴史的過去を探るのもまた、現在の私たちの思考を照らすためとも言えます。この分野の学問は基本「今」ではなく、「100年後」に到達すべき新しい思想や言説を探求し、価値づけする作業を担っています』と答えていらっしゃったのです。
 私はこのブログで、理系の教科の充実については論じられることがあっても、文学や歴史、教科で言えば国語や社会について充実させるための議論が行われることがない現状について、異議を唱えてきました。国語が話題になるのは、文学を削り実務的な文章を増やすというような人文系軽視としか言えないものですし、社会が話題になるのは歴史修正的な史観からの異議申し立てで、これも歴史軽視とでもいうべきものでしかありません。
 私の思いと、今回の記事の問題意識は重なるところが多いと思います。そして今橋氏のお話によって、我が国で人文系軽視の風潮が強いのは、「今すぐ派」が社会の大勢を占めていることによるのだということが分かってきたように思います。100年後はおろか、20年後、30年後に役立つものであっても、「そんな先のことはどうでもいい、来年どうするか、再来年どうするか、それが大事だ」という発想が社会の大勢を占めているのです。
 財政再建の問題、少なくとも今年や来年に破綻することはなさそうですから、与党も野党も国債発行で負担を先送りすることに異を唱えません。LGBTQの問題、とりあえずサミットまでに法案提出という格好をつけておけばそれでOK、そこから先は見通せません。原発再稼働、核廃棄物の処理が行き詰ることは確実ですが、それは何年も先の話、今の優先順位は低いで済ませます。地球温暖化、目の前のサミットを乗り越えることが大切、実現できるかどうかは分からないがアンモニア混焼の文言さえ残れば今は批判をかわせるから上出来。一事が万事、こんな状況です。
 こうした中では、100年先を見通して、「たわ言」を言う人文系は邪魔なだけ、なのです。でも、そんな先送り思想だけでは、行き詰まりは必至です。やはり、義務教育段階から、人文系再興の動きを始めるべきだと思います。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「べからず集」を作ってみても | トップ | 可愛いなんて言われたくない »

コメントを投稿

我が国の教育行政と学校の抱える問題」カテゴリの最新記事