これは宝物のようなアルバム。80年代モノを夢中になって掘り出していた頃、所謂Hit Chartを賑わしていた英米の音楽の余りの退屈さと類型的で奇をてらっただけの80年代サウンドには、幾つかの例外を除いて少々ゲンナリしていた。でも、そういった流行モノには目を向けず、Rugh TradeやFactory、Cherry Red、といったIndependent Record Labelから登場したScritti PolittiやThe Raincoats、Young Marble Giants、A Certain RatioやNew Order、The Pop Group周辺は非常に刺激的かつ魅力的であった。またBen WattやTracey Thorn、2人が組んだEverything But The Girl、さらにLevel 42やIncognito、Central Lineといった所謂Brit Funkの面々、勿論、Paul Weller兄貴のStyle Council周辺やSadeといった辺りは最高であったのは言うまでもない。上述の
Young Marble Giants解散後にVocalistのAlison Stattonが結成したのがWeekendというJazzやBossa Nova、SambaなどBrasil音楽に影響を受けたバンドであった。そのバンドのメンバーでProduceも担当していたギタリストのSimon BoothことSimon EmmersonとSax奏者Larry StabbinsがWorking Weekを結成する。StabbinsはChris McGregor’s Brotherhood of Breath、John StevensのSpontaneous Music Orchestra
やSpontaneous Music Ensemble (SME) にも一時在籍したり、Keith
Tippettと演奏していた実力者で、70年代にはCentipedeやKeith Tippett's ArkなどでSaxを吹いていた。また、Mike WestbrookのSolid Gold CadillacやTony Oxley Quintet、London Jazz Composers Orchestra、Peter BrötzmannのAlarm Orchestraでも演奏していたという。2人は84年にJulie Tippetts、Robert WyattとTracey ThornをFeatureした7", Single“Storm Of Light / Venceremos”をリリースすると、Juliet RobertsをVocalに迎えた本作『Working Nights』でアルバム・デビューするのであった。Acid-Jazzなる言葉が生まれる前に誕生した彼らはBritish Jazzの伝統の血が流れてCanterburyも経由していたのだった。
『Working Nights』はWorking Weekが85年にリリースした1stアルバム。1曲のCoverを除き全てSimon BoothとLarry Stabbinsの作品で、2人以外のメンバーはドラムスにWeekendの『La Varieté』でも叩いていたRoy Dodds、ピアノに3 Mustaphas 3でも活躍するKim Burton、Ian Carr's Nucleusの80年作『Awakening』でベース弾いていたChucho MerchanとドラムスのNic Franceが参加しているのが興味深い。またChris McGregor's Brotherhood Of Breath、Jubulaの名ベース奏者Ernest Mothle、PercussionにNucleusやHenry Cowにも参加していたMartin DitchamにJoao Bosco De Oliveira。正にBorderlessな、文句なしの英国の腕利きMusicianでバックを固めている。
アルバム1発目はMarvin Gayeの名曲“Inner City Blues”。Juliet RobertsのSoulfulなVocalも最高だが、Ukの香り漂うStringsが当時を思い起こさせる気分である。Chucho Merchanのウネるベースもご機嫌である。
これまた英国らしい翳りと抒情溢れるBallad“Sweet Nothing”。ここでも情感を込めて歌い上げるJulietのVocalと寄り添うStringsが絶品である。
高揚感に満ち溢れた“Who's Fooling Who”。Julietのご機嫌なScatも飛び出す。
異国情緒漂うイントロから惹きこまれれてしまう“I Thought I'd Never See You Again”。
“Autumn Boy”も英国の香りが漂う詩情に満ちた楽曲をJulietが情感豊かに歌い上げている。Soprano SaxとStringsが効果的だ。
“Solo”も哀感漂うLyricalな英国風味がキモ。
Chilieの軍事政権に銃殺された40歳の若さで幕を閉じたVictor Jaraに捧げられた“Venceremos”。後世に語り継がれるべき名曲であり、BorderlessなUK Jazzの結晶ともいうべき傑作であろう。
アルバム最後を飾るのはLatinの香りが心地良いインスト曲“No Cure No Pay”。
◎Sweet Nothing/Working Week
(Hit-C Fiore)