涙ぽろぽろ、
日本の戦国時代の
濡れ衣を着せられ、実子さえ死に追いやる命懸けの上下関係に、
理不尽さに、ただ悲しく。
信康はテレビの鎌倉殿で言うところの上総広常であり、義経であり、範頼であり、冠者殿(源義高)そのもので、もし武術に長けていなければ、もし抜きん出ているところがなかったら、もし家康の嫡男でなければ殺されずにすんだはずなのに、信長から眼をつけられてしまったが最後、徳川の"御家"を守るために…
謀反の疑いをかけられた最初の驚き、理不尽さに苦しむ様子、父・家康の計らいとその先の情勢をも読む賢さと潔さに、
号泣でした。
久しぶりの歌舞伎座、
いつもの3階席ではなく一等席は素晴らしくて近くて、信康の無念、家康の苦渋、それぞれの眼に涙を浮かべ悔しさがあふれでてくる様子がつぶさに見え、その迫力に、より物語に浸ってしまいました。
信長の娘婿として、武将として、活躍することを目指し武芸に励もうとする信康、
母と妻との確執、嫁姑問題が城内をざわつかせていると知ると母にやんわりと訊いたり、妻に優しく訊いたりと見かけも振る舞いも美しい染五郎さん。
鎌倉殿の13人であっという間にその魅力に惹き入れられたように客席も信康贔屓に充満します。その愛らしい美しい妻に中村莟玉さん。いつも通りの可愛らしさ。
嫁姑問題は端から観れば可笑しいくらいなのに本人たちは深刻で辛いし、信康からみれば、どちらも大事な人だし、
と、序盤はホームドラマ風に楽しく眺めていられたのにどんどん悪い方向にしか向かっていないことがわかってくると、周りの嘆きや思いよりも政治的な立場を客観視して決断をする若者の長けた考え方、苦悩が。
冒頭の鷹狩りの成果から信長に支えるため、より強くなろうと意気込む若者と、
もしもこの先も生きられるのなら、鷹に狙われる小さな鳥を狩ることはもう決してしない、あの小さな鳥の気持ちがわかるからと誓う信康自身の対比。
短い幽閉期間により重ねた熟慮がみられ、その姿はまだ実際には17歳の若者であるにもかかわらず、ほんもののおとなのような決意が伝わってきました。
役者魂、役者道だと思います。
六月大歌舞伎第二部 齋藤雅文・演出『信康』
以下、
歌舞伎関連Webページより