77)懲りない依存症

キャディの平山が辞めてから純平は久々にパチンコに行った。昔は随分とスロットなどもやったが、最近では忙しくて殆どパチンコ屋に足を向けることは無かった。
ところが5号機だけれど吉宗の新機種が入ったので行ってみようと研修生の太田に誘われた。
彼は根っからのスロット好きで、攻略法にも詳しかった。
勿論、純平のゴルフ場の近くにはパチンコ屋などまったくの無い田舎だった。

そこで、太田と美浦のトレセンの近くにある大きな郊外型のパチンコ屋に行くことにした。こんな田舎町で駐車場にぎっしり車があるのはパチンコ屋だけと相場が決まっていた。
日本中央競馬のトレーニングセンターのあるこの街は、茨城の片田舎の街でも活気があった。調教師は別として、厩務員や売れないジョッキーがこのパチンコ屋によく顔を出すらしい。

そんなことはどうでもいいのだが、純平と太田は新台の吉宗のスロットコーナーに行った。ところが2~3日前に入ったこの機種は、座るところが無いほど満席だった。
「マスター、これじゃ、当分空かないね」
「そうだな・・他のスロットじゃやる気にもなれないので、しばらくパチンコでも打つか?」と純平が言った。

二人は、スロットコーナーからいったん離れてパチンココーナーに行った。
「海物語りも仕事人も倖田來未もたいしたこと無いからダイナマイトでもやりますか?」「うん、どうでもいいけどな。俺は、パチンコはかったるいな」と純平はボヤいた。
「そうだ、マスター、デンジャーならどうだろう?」
「デンジャー?なんだよ、その機種は?」
「権利物だけど一発来ると連荘してダイナマイトの比じゃないですよ」
「そうか、そんなに凄いか?」
「来れば5~6万円は、すぐ稼げますよ」
「また、調子のいいこと言って寝ている子起こすようなこと言うなよ」と純平はまんざらでは無い気になった。

スロットでもパチンコでもそうだが、はじめてやる台はその機種の癖が分らないので大体は負けてしまう。ところが久々に足を運ぶお客には、店の方針でお客に出血サービスを試みる。
最初に客に大勝をさせて、いい気持ちにさせてから後からケツの毛まで抜く戦法だ。

今の時代は、目まぐるしいコンピューターシステムの発達で裏ロムなど使わなくてもお客の座った台の出玉を調整するぐらいは、ボタンひとつの操作で車のドアを開けるぐらい簡単に出来る。大体パチンコ屋に足げく通うお客は、バカが多いので店の戦略にまんまと嵌り、鴨がネギを背負って来るようなものだ。
それが証拠に店員の顔を見ると摩られて熱くなっている客を横目で見て「しっかり金を置いて行け」というような顔をしているから機会があったらよく観察してみるといい。

新装開店のこの店は、結構賑わいもあってそれなりに出玉を多くしていたようだ。ところがこの太田の勧めるデンジャーという機種の所に行くと通路にドル箱が山積みになっていた。
「おお、凄いじゃないか、今日は出しているね」と純平が驚いていた。
「ねえ、凄いでしょう」と太田が得意げに言った。
やはり、この機種は人気があり空いている台が少なかった。
二人は空いている台を探していたが、奥の方でドル箱を山積みしているおばちゃんを見てびっくりした。

三日前に辞めたキャディの平山良美がルンルン気分でタバコをふかしながらハンドルを握っているではないか?
二人は愕然として、サラ金に追われ会社を辞める羽目になった彼女が、性懲りもなくまだパチンコをしていたなんて夢にも想像が出来なかった。
「マスター、駄目だね・・平山は・・?」
「そうだな。退職金が出たので、またパチンコに狂い出したな。ギャンブルをする奴は、金を見せたら猫に鰹節で喜んで使ってしまう。ああ、早く辞めさせて良かったな。あれじゃ、またサラ金に追われて地獄行きだ。旦那にあれだけ殴られても治らないし、職を失ってまでもやるんじゃシャブ漬けと同じだ」
「どうします?声かけましょうか?」
「よせ、あんな女と係り合うな。貧乏神を背負わされたらこっちが地獄に落ちる」と純平は、太田が声を掛けるのを阻止した。

日本中に広がるパチンコ屋の数は、ゴルフ場の数より多いだろう。1時間も出なければ2万円も使ってしまうパチンコに興じていたら働く気力など薄れてしまう。冬場のゴルフ場だったら2万円もあれば、2回もプレーが出来る金額だ。確かにゴルフ場は金にはならないが、最低6時間も遊べるんだ。
その癖、ゴルフ場の料金は高いなどとよく文句が言えるもんだ。
そんな奴は、ゴルフなどやる資格もない。四角四面のパチンコの台にしがみついて地獄を見ろと言ってやりたい。

朝から晩までパチンコに狂ったら月にして40~50万円は負けるだろう。毎日やれるパチンコは乞食博打の典型だ。10年もやったら家が建つほどの負けになる。賢い人は手を出さないのが賢明だ。パチンコ依存症で人生を狂わした人間を何人も見てきた。懲りないキャディの平山の今後の人生は、完全に地獄に落ちると純平は思った。情をかけてやったところで「同じことを繰り返す人間」に明日はない。

貧乏神を背負ったキャディの平山を見た純平と太田は、新機種の吉宗を打たずして、美浦のサウナに行くことにした。
サウナに入り、マッサージにかかって飲み食いしても1万円あればお釣りが来る。太田は、スロットコーナーの新機種の吉宗を打ちたかったようだが、今日は悪いものを見たと、純平は強引に太田をサウナに連れて行った。サウナで汗を掻いて裸のお付き合いが出来れば、その方が明日も活力にもなると思っていた。

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