緑のカーテンとゴルわんこ

愛犬ラム(ゴールデンレトリバー)との日々のあれこれと自然や植物、
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「限界から始まる」 上野千鶴子、鈴木涼美 往復書簡

2021年11月29日 | 

今、読み始めた本「限界から始まる」という上野千鶴子と鈴木涼美の往復書簡をまとめたものがなかなか面白くて、他に読みかけ本がいろいろあるのにほったらかしにして、読み続けています。

上野千鶴子さんの書かれるものはパワーとインパクトがあり、圧倒されながら読んでいます。鈴木涼美さんという往復書簡の相手の方の書かれたものを読むのは初めてです。まだ若い方で、30代そこそこでいろいろな経歴をもった人で簡単に説明できないのですが、そのお二人の「手加減なしの言葉の応酬!」という本の宣伝文句が誇張ではない内容です。

上野千鶴子さんは、私と同じ団塊の世代、政治の季節だった60年代、ウーマンリブが出てきた70年代、大学入学も同時期であの時代の同じ空気を吸ってきた方なのだなと思いながら読み進めています。往復書簡の相手である鈴木さんは30歳代、親子のような年齢差のお二人が放つ言葉の応酬は、スリリングなところもありますが、やはり「上野先生、この事についてどう思われますか?」というやり取りが多くなりがちで、肉を切らせて骨を切るようなガツンとくる論戦にはならないようです。

読み進めるうちに、自分の対男性観や「おんな」性に関していろいろ考えさせられました。セクハラという言葉もなかった時代に働いていた身にしたら、少々の事なら笑ってやり過ごしてきたような事も、上野先生に文字化、言語化されるとこういうことだったのかなと教えられた思いです。

「おんなのくせに」と言われるのが一番嫌いだった少女期から、一応男女平等の旗印のもとに学校教育を受けてきた私たち世代は、社会に出ようとしたとたんに、入社試験の面接で「女性には25歳定年制がありますが、どう思いますか?」と質問され、その踏み絵を靴のヒールで踏みつけながら、「おんな」を売り物にしたくないが女性として大事にされる面は享受していたいという矛盾した思いを抱いて社会人スタートしたように思います。

お堅い?女子大生だった私は、いかに自分の中の「おんな」を削っていけるかとバタバタと苦闘していた頃に、今村昌平監督の「赤い殺意」という映画を見て激しい衝撃を受けました。春川ますみが演じる主人公の、まさに「子宮で考える」ような生き方と周りの男たちが逆立ちしても彼女にはかなわないふがいなさぶりに、あー、おんなでいていいんだと背中をどやしつけられた思いがしました。私にとっては天啓のような映画でした。小津安二郎、溝口健二、黒澤明らは当時も世界中から尊敬を集める名監督として認められていましたが、こんなに素晴らしい監督が日本にはいる、こうした優れた日本映画を紹介する仕事をしたいという思いから、日本映画の保護や海外への紹介を業務とする仕事につきました。私のターニングポイントは、あの「赤い殺意」を見た日だったと思います。

鈴木涼美さんからの手紙に上野千鶴子さんが返事を出す形での往復書簡が、いくつかのテーマにそってやりとりされる様子を読んでいて、女親から受ける影響の大きさに驚かせられました。私自身も確かに父親からより遥かに母親から大きな影響を受けて育ったと思いますが、中学高校と学年が進むにつれ、友達や先輩、教師から受ける影響が大きくなり、いつの間にか一人で育ったように生意気になり母親を忘れてしまうような生活になっていきました。鈴木涼美さんは児童文学者として理知的な生き方をされた母親へのアンチテーゼとしてかのように、ブルセラ女子高生からAV女優、キャバ嬢などの母親たちが眉をひそめる「お仕事」を学業のほかに続けてこられた方です。慶応大学から東大大学院にすすみ、修士論文「AV女優の社会学」が出版されるという稀有なケースとなり、日経新聞社記者を経て作家として活躍されています。「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」「愛と子宮に花束を」「おじさんメモリアル」「女がそんなことで喜ぶと思うなよ」などの本を出し、いろいろな方々との対談なども多くされているそうですが、私はどれもまだ読んでいません。

鈴木涼美さんの書かれた言葉の中で、「私は今若い女性から『AVに出るか迷っている』と相談を受けると、AV女優を引退することはできるが、元AV女優を引退することはできない、と答えるようにしています。」という文が一番残っています。彼女がいわゆる世間から受けてきたであろう視線や扱いを想像して心が寒くなるような、痛々しさを感じる一文です。上野千鶴子さんの言葉では、「若い時にはドブに捨てるようなセックスをたくさんしてきた」という言葉でしょうか? 30歳代の鈴木さんの真摯な問いかけに上野さんが真正面から答えているやり取りのなかでの一言です。

鈴木さんから「なぜ男性に絶望せずにいられるのですか?」と問いかけられた上野さんは、実際の良き人との出会いや読んだ本の中での出会いだと答えています。この若い女性(70台の私からしたら、娘と同年代の若い女性と思えます)がその過ごしてきた時間の中で、上野さんの答えたような出会いがなかったことが痛ましく感じられます。男性に対する激しい嫌悪感や侮蔑にたじろいでしまうほどです。

お二人の間でやり取りされた往復書簡のテーマは、以下の12項目です。最初は、まだ堅苦しいごつごつしたやり取りだったのがだんだんに温かな交流になってくるところも読みごたえがあります。

1 エロス資本

2 母と娘

3 恋愛とセックス

4 結婚

5 承認欲求

6 能力

7 仕事

8 自立

9 連帯

10 フェミニズム

11 自由

12 男

上野千鶴子さんの少し前の本、「上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください」もとても面白く、魅力的な本でしたが、この本はこれだけSNSが発達した時代に、往復書簡という極めてアナログな昭和の時代のような形式によりお二人の優れた知性がぶつかりあい、刺激されあう様子を読者が一緒に手紙を読ませてもらいながら追体験できるようにした編集者の勝利だと思います。また上野千鶴子さんが私たちの世代にいてくださってよかったなぁとも、しみじみ感じました。

 


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