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秘闘 : 私の「コロナ戦争」全記録 (岡田 晴恵)

2022-05-29 11:54:32 | 本と雑誌

 いつも聞いている大竹まことさんのpodcastの番組に著者の岡田晴恵さんがゲスト出演していて、本書も話題として取り上げられていました。

 ご存じのとおり岡田さんは現在は白鷗大学教授ですが、元国立感染症研究所で感染症パンデミック対策に従事した経歴を持っています。新型コロナウィルス感染症発生当初からテレビのワイドショーや報道番組を中心にマスコミに登場する機会も多く、その露出の多さ故か、様々なプレッシャーも受けて来られました。それらの中には、学術的な観点からの正当な批判・反論もあれば、謂れのない中傷も含まれていたことだと思います。

 本書は、その岡田さん自身が著したものなので、本人のみが知る真実もあれば、少々バイアスのかかった表現も含まれていることでしょう。

 その点を踏まえつつ、本書で紹介されている新型コロナウィルス感染症対策における検討や実行にあたっての実態をいくつか書き留めておきます。

 まずはイントロ的なコメントから。
 中国武漢で感染症の発生が発覚した当初、厚労省から政治家への説明役は岡部信彦氏(川崎市健康安全研究所・所長)が担っていたと伝えられていました。

(p41より引用) 田代氏はウイルス学で最悪のシナリオまで想定して、健康被害をいかに小さくするかという対策を提言していたのに対し、岡部氏は「まあまあまあ、そういうこともあるかもしれないが、パンデミックはめったに起こりませんから」と、ウイルス学やサイエンスの論拠はないけれど、行政上の落としどころを心得て、田代氏の発言の火消しをしていた。結果、対策は行われないままになる。

 ここに登場する田代氏とは、元国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の田代眞人氏です。ちなみに、岡部氏は、新型コロナウィルス感染症拡大を機に、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード・構成員、内閣官房参与等にも就任しています。

 そして、この新型コロナウィルス感染症対策の検討にあたって、いわゆる「専門家」が続々と登場してきます。
 2020年2月、まず組織されたのは「新型コロナウィルス感染症対策専門家会議」でした。

(p89より引用) 座長は国立感染症研究所所長の脇田隆字氏、副座長は尾身茂氏であった。私は、厚労省にいた尾身氏とは長い付き合いだし、脇田所長も感染研の所長であるから知っている。彼の業績は肝炎ウイルスだ。C型肝炎の細胞上での培養の成功はノーベル賞に匹敵するものだと思う。
 ただ、尾身氏の専門であるポリオも脇田氏の肝炎も、呼吸器感染症ではない。ウイルス屋といっても肝炎と呼吸器感染症では、ウイルス学の中では全くの分野違いである。SARSもパンデミック・インフルエンザもやったことがない人がそんなポジションに座るというのは、先生たち自身も不安極まりないだろう、と思った。この人事のしっぺ返しを一番くらうのは国民なのだから、同情ばかりしていられないが。
 さらに他のメンバーを見ると、やはり岡部信彦氏も名を連ねていた。また、彼にお得意の楽観論と火消しを繰り返されると危険だな、という不安がよぎる。

 そして、予想どおり“専門家”の方々は、自らの専門外の“忖度” をし始めました。
 大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長は、ワクチン接種に関する議論の様子をこう語ったそうです。

(p246より引用) 「はあ、そうですね。ワクチンの専門家の挙動が政治的なんです。だから、リスクについては言わないんでしょう。 壮大な博打を打っている訳ですから、怖いのはわかってるんですが、 そこは言わない。私、ワクチン学会の理事会でこの新型コロナワクチンのADEについて言うたんですわ。でも、理事の誰も反応しない。無視です。 これはひどかった。 ワクチン学会の理事ですら政治的だと思いました」

 こういった状況の中、的外れ?な施策を進める分科会・専門家会議のメンバーに対して発せられた田代氏(元国立感染症研究所)の火を噴くような激烈な言葉です。

(p260より引用) 「サイエンスもポリシーもないからだ!だから怖くも何ともないんだ!そうだろう?普通の神経して、論文読んで、ウイルス学が出来ていたら、こんな対策、やっていられるか!専門家会議でも分科会でもアドバイザリーボードでも、誰か一人くらいマトモな奴がいて、尻まくって、正論言って辞めるかと思ったら、誰も辞めない、言わない。無責任極まりない」

 第4波、2021年のゴールデンウィークのころ、岡田さんの言葉は、コロナ禍への対応スタンスの相違を越えて響きます。

(p274より引用) もう、みんな東京アラートなんて忘れている。だから、どうしてこうなったかも検証されない。忘却の果てに、同じ間違いを繰り返すのだ。繰り返される緊急事態宣言の度に、流行規模も感染者数も大きくなる。それを変異ウイルスの出現のせいだけにしてはいけない。

 さて、本書を読み終えての感想です。
 とても興味深い様々なエピソードが紹介されていましたが、どうにも気になったところ。今回の新型コロナウィルス対策の責任者たる厚労大臣との関わりの部分です。

 これだけ専門性も高く国民生活に極めて大きな影響を与える課題の検討において、この本で語られているような個人レベルの情報交換が実質的に相当のウェイトをもっているのだとしたら、やはりそれは検討の「仕組み」や「方法」が間違っているのだろうと思います。

 本書にあるように「公式の検討機関」がその人選の不具合で正しく機能していないのなら、リーダーたる人間が決断すべきことは、メンバー変更等の人事も含む検討体制の抜本改革です。「あの人たちの言うことは・・・」と内輪で言い合っているようでは全くダメでしょう。機能不全の愚痴をこぼす時ですか? 今、私たちが直面しているのは、そういった程度の危機ではありません。

 

 


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