MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2005 「このままでは日本の財政は(必ず)破綻する」と言える理由

2021年11月01日 | 社会・経済


 日本の財政を預かる財務省の事務次官、矢野康治氏が「文芸春秋」誌(11月号)に寄稿した論文「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」が大きな話題となっています。官僚が政治家に対して異論を唱えたことを問題視し、与党国会議員の中には更迭を求める声もある一方で、氏の主張に同意を示す経済人や同調するメディアなども多いようです。

 矢野氏はこの論考において、今回の衆議院議員選挙や自民党総裁選挙における新型コロナウイルスの経済対策にまつわる政策論争を「バラマキ合戦」と批判し、このままでは国家財政が破綻する可能性があると訴えています。「10万円の定額給付金のような形でお金をばらまいても、日本経済全体としては死蔵されるだけだ」「(財源の議論も行わず)バラマキ合戦が展開されているのは、欧米の常識からすると周回遅れどころでなく二周回遅れ」などと言う記述はまさに挑発的で、ある意味気持ちよさまで感じるところです。

 そうした中、今回の矢野氏の寄稿に対する批判の多くは、「財政を預かる官僚の態度としてどうなのか」という部分に向いている観があります。しかし、現実にいま議論すべき最大の問題が(氏の主張するように)「このままいけば日本の財政は本当に破綻するのかどうか」にあることは、誰の目にも明らかです。

 果たして、財源を顧みない(政治主導の)消費活性化政策によって、日本の財政は破綻に至るのか。10月16日の「東洋経済オンライン」に慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績(おばた・せき)氏が、『「このままでは国家財政破綻」論は1%だけ間違いだ』と題する論考を寄せているので、ここで紹介しておきたいと思います。

 今回の矢野康治氏の主張は、日本の財政状況を懸念する人々からは「当然の指摘」であると受け止められている。経済同友会の桜田謙悟代表幹事などは「書いてあることは事実だ。100%賛成する」と記者会見で述べていると、小幡氏はこの論考に記しています。矢野氏の論文は、主張というよりは事実を書いたまでのこと。まさにそのとおりだと思うが、(しかしその一方で)矢野氏の指摘は実は99%しか正しくないというのがこの論考における小幡氏の見解です。

 では「間違っている1%」とは何か。それは「このままでは破綻する」のではなく、日本財政は「必ず破綻する」ということだと氏は話しています。「北斗の拳」のケンシロウ風に言えば「お前はもう死んでいる」というところでしょうか。小幡氏はそう断言できる理由として、以下の7つを挙げています。

 第1に、日本政府は戦後、財政が悪化する中で一度も借金を減らしたことがないという現実があることです。1980年代後半のバブル経済期においてすら、借金は増え続けてきた。もちろん小泉純一郎政権の際も、2013年以降の「アベノミクス期」においても借金は増え続けたと氏は説明しています。

 第2に、現在の低金利時においてすら、赤字が急激に膨らみ続けている状況を考えれば、金利が上昇したら、さらに借金の増加スピードは増していくということです。景気がよくても、低金利でも借金は増え続けてきたし、これからも増え続けていくだろうと氏は考えています。

 第3に、今後、借金返済の条件は(おそらく)悪くなる一方だということです。人口は減り続け、高齢化は進み、さらに勤労者世代は減り続ける。高齢者がどんなに働いても、日本全体の所得を上げるのはおそらく100年は難しい。例え出生率が上がったとしても、政府収入が増えるにはかなりの時間を要すると氏はしています。

 第4の理由として、「経済成長が先だ」と言うが、たとえ画期的な成長が実現したとしても、国家財政の収入が1.5倍になるには、制度的に増税を実施しなければ無理だと氏は指摘しています。

 新型コロナウイルスによって、単年度の借金増加が約100兆円におよんだ。従来は「コロナ前」であっても、赤字額は40兆円あり、景気がいちばんよいときでも30兆円程度。一方、税収は近年で景気がいちばん良い時期でも60兆円程度なので、赤字がなくなるためには、約1.5倍の収入(税収)が必要になるということです。

 そして、第5は「高い経済成長が実現すれば、GDP(国内総生産)と政府負債の比率がGDPの大幅上昇によって下がる」という主張は、実際には実現しないことだと氏は言います。

 アメリカですら、高成長で借金を減らそうという主張は存在せず、リーマンショックやコロナショックに対して大規模な財政出動をしても、危機後は速やかに財政出動を手仕舞い、同時に増税の議論を行っている。その理由は、経済成長で借金を減らすことには限度があり、借金や赤字が多いままでは、次の危機において大規模な財政出動ができなくなるからだということです。

 続く第6の理由として、氏は、今後見込まれる財政支出の内容が、高齢化による年金支出などの「増える要因」ばかりであることを挙げています。こうした制度は利害関係者が、多く政治的な力を持っている。簡単に歯止めが効きそうにない医療保険制度など、効率が悪い制度であっても単純に利害が見えてしまうため、現実的、政治的な対応がほとんどとれないということです。

 そして、最後の7つ目となる日本財政の最大かつ最も致命的な問題は、政治に借金返済の意思がまったくないとしか思えないことだと氏は指摘しています。思えば日本政治は、1990年以降、一度も借金を減らそうとしたことがない。「プライマリーバランス」の確保すら1980年代のバブル崩壊以後、実現したことはなく、政府債務の減少には遠く及ばないということです。

 もとより、政治にその意思がないのだから、積みあがった借金が減ることはない。そして、前述の第1から第6の理由により、歳出は増え続ければ、日本の財政に破綻する以外の結果はありえないというのが小幡氏の見解です。

 さて、ここで「そうか、日本の財政は破綻するのか…」と、それで済めばよいのですが、だからといって外国に逃げたり、資産をすべて移したりすることができるのは、恐らくほんの一握りの富裕層だけでしょう。一方で、コロナで「大きく傷ついた」とされる日本経済ですが、その割には税収が過去最大になったり、国民の金融資産や企業の内部留保が大きく増えたりと、景気の良い話も耳に入ってきます。

 まずは現状を細かく分析し、これ以上の無駄遣いをしないこと。経済ばかりでなく、社会の混乱を招かないためにも、(有権者の足元の投票行動だけでなく)次の世代を意識したポイントを押さえた財政運営が求められていると、私も小幡氏の指摘から改めて感じるところです。
(「#2006 バラマキの責任はどこにあるのか」に続く)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿