吉村フキ子『漱石と夢』(世界創造社、1941年)が入荷しました~「スメラ民(みたみ)文庫」とは何か?

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 さて、今回紹介するのは以下の画像のとおり、昭和の戦時中のある団体が刊行していた、シリーズ物の1冊です。思ったより珍しく、かつ興味深いものでしたので、以下お読みくださると幸いです。

スメラ学

 吉村フキ子『漱石と夢』(世界創造社、1941年)です。まず、印ですが、こちらは「皇軍慰問書籍 第三次百万冊献納運動 毎日新聞社」と刻印されています。そして、表紙下端に「スメラ民(みたみ)文庫」とありますが、これはいったい何なのでしょうか。そこで『漱石と夢』の裏表紙にある、既刊リストを眺めてみました。それが次の画像です。

スメラ学

 一見して、江戸時代の国学や尊王攘夷運動に関わる人物を取り上げたものや、戦時下という時局を反映して『産業戦士』、『戦争経済』、『仏印事情』など戦時経済や占領地情勢を扱ったタイトルが並んでいることがわかります。そのため、単なる国粋主義団体かなと思ったわけですが、そういった予断をいったん持つと、妙に浮いたタイトルが目に付くのです。

 たとえば、『世界ユダヤの首都ニューヨーク』、『ユダヤ世界制覇』といった、ユダヤ陰謀論と思しき既刊本があるようです。他方で、「スメラ民」とは何だ?と思ってウェブ検索したところ、スメラ学塾なる海軍軍人・末次信正を代表とする団体があったことを知りました。とすると、このスメラ学塾は、おそらく戦時中日本の植民地主義とユダヤ陰謀論が交錯したような話題を扱う軍部とつながりのある団体で、その出版事業として「スメラ民文庫」というシリーズを刊行していたのだと想像されます。

 このことに気づいて、ウェブ検索したところ、次の記事がヒットしました。インターネットメディアのリテラの記事、「原節子の知られざる素顔! ナチスとの関係、ユダヤ陰謀論の極右思想にはまり『謀略だ』と映画中止要請の手紙を」(2015年12月30日)( https://lite-ra.com/2015/12/post-1840_2.html )です。謎多き大女優・原節子の周辺事情に着目した同記事には、スメラ学塾にふれた部分があります。以下に引用します。

 「スメラ学というのは、戦時中の日本において高級軍人や学者、文化人などの間に一定の支持者を持っていた論で、その趣旨はメソポタミアのシュメールが西方に移動し、日本で神武天皇をいただく神政国家を作り上げたこと、ユダヤ金融資本に支配されたアメリカなどと対決し、日本がスメラ文化圏を作り上げるべき、というものだった。」

 …( ゚Д゚)と荒唐無稽な世界認識もさることながら、「一定の支持者を持っていた」のが、スメラ学であり、そうした「学説?」を広めていた団体が、スメラ学塾だということです。そして、同団体の主たる刊行物が「スメラ民文庫」だということが、ひとまずリテラの記事によってわかりました。

戦時下の新聞

 ところで、戦争とは物量を競い合う世界であり、かつ変えようのない地理的条件の制約の下での争いとなります。そこでは、徹底して合理的な思考が求められるはずです。けれども一方で、戦時下日本の国民的な熱狂の一部に、日本の軍事的な膨張とユダヤ人のパレスチナ入植とを重ね合わせるような突飛で好戦的な世論があったこともたしかです。当時の世論の一部にすぎないとはいえ、著名な海軍軍人とのつながりを持っていたスメラ学塾のような団体の影響力は過小評価できないでしょう。

 そして、そのような当時の風潮の実態は、たとえば外交政策・軍事政策の決定過程を詳細に追った研究では、扱いきれない性格のものです。戦時下の日本をより理解する切り口として、スメラ学塾に着目し、その重要なシリーズ刊行物である「スメラ民文庫」を分析する研究が出てくることを望みます。

※戦時中の新聞については、次の過去投稿もご覧ください。
昭和戦中期の新聞を読み解くための書籍を紹介します(くまねこ堂ブログ、2021年1月16日)
https://www.kumanekodou.com/26369/

 なお、前掲の吉村フキ子『漱石と夢』は投稿時現在、国立国会図書館デジタルコレクションでは館外閲覧ができない書籍となっています。ご関心ございましたら、ぜひくまねこ堂までご一報ください!

小野坂


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