■太田記念美術館 生誕190年記念『豊原国周』(2025年2月1日~3月26日)
終わった展覧会だが書いておく。2025年が豊原国周(とよはら くにちか、1835-1900)の生誕190年となることを記念した回顧展。国周は幕末から明治にかけて役者絵の第一人者として君臨し、月岡芳年や小林清親らと並ぶ人気絵師として活躍した。芳年や清親に比べて紹介される機会の少なかった知られざる巨匠・国周の画業を約210点の作品で紹介する。
正直、私は名前を聞いてもピンと来なかったが、作品を見ていくと、ああこの絵柄の人か、と分かるものも多かった。やっぱり魅力的なのは役者絵である。細い眉、切れ長の釣り目に小さすぎる瞳、高い鷲鼻、唇の薄いへの字口。こう並べると、国周以外の役者絵にもだいたい当てはまってしまうのだが、最も特徴的なのは極端な三白眼の目かなあ。作り過ぎない躍動感と臨場感のあるポージングもカッコいい。髪の乱れ、着物の柄や背景も丁寧で、どれも手抜きがない。金目銀目の巨大な蝦蟇を背景にした『天竺徳兵衛 尾上菊五郎』は、むかしから私のお気に入りの作品である。
明治の歌舞伎界の消息がいろいろ分かるのも面白かった。背広姿で空に舞い上がる気球乗りスペンサーを菊五郎が演じた『風船乗評判高閣(ふうせんのり うわさのたかどの)』は、河竹黙阿弥の脚本で明治24年初演。西南戦争を題材にした『西南雲晴朝東風(おきげのくも はらうあさごち)』では団十郎が「西条高盛」を演じた(面長で美男)。『初代市川左団次の誉堂龍蔵』は美丈夫が雪の中で小さいクマ(子グマ?)を投げ飛ばす図で、近藤重蔵をモデルにした芝居らしい。こういう忘れられた演目を知るのはちょっと楽しい。
■静嘉堂文庫美術館 豊原国周生誕190年『歌舞伎を描く-秘蔵の浮世絵初公開!』(2025年1月25日~3月23日)
初期浮世絵から錦絵時代、明治錦絵まで役者絵の歴史をたどる。冒頭には江戸時代17世紀の『歌舞伎図屏風』(二曲一隻)。解説に「3人の幼女が舞台で踊っている」と書かれていて、え?と驚いてしまったが、室町末期から江戸初期にかけて「ややこ踊り」といって、2~3人の子供が舞台で扇を持って踊る芸能が流行し、これを基に出雲の阿国が「歌舞伎踊り」を創始したと言われているのだそうだ。描かれた3人は(現代語で)幼女というほど幼くはなくて、まあ少女というところ。しかし日本人は、この時代から少女の群舞が好きだったのか。
浮世絵も、江戸初期の鳥居派から北斎、豊国(国貞)を経て、豊原国周まで、変遷を追える展示になっていた。岩崎彌之助夫人・早苗が愛玩した『錦絵帖』は以前にも見たことがあったが、中身は圧倒的に国周作品が多いのだな。
なお、今年の大河ドラマにからめて蔦屋重三郎関連資料を展示したミニコーナーが設けられており、その中に『蔦屋重三郎墓碑拓本』があったのにはびっくりした。東浅草の正法寺に建てられたものだが、碑は震災・戦災で失われ、現存していないという。
冒頭は「喜多川柯理本姓丸山称蔦屋重三郎」で始まる。
この拓本の由来は特に説明されていなかったが、よく持っていたなあ、静嘉堂。まさかこんなふうに脚光を浴びるとは思ってもいなかっただろう。