見もの・読みもの日記

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御舟の魅力/小林古径と速水御舟(山種美術館)

2023-05-30 22:54:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展『小林古径と速水御舟-画壇を揺るがした二人の天才-』(2023年5月20日~7月17日)

 冒頭には、この季節にふさわしい古径の『菖蒲』が展示されていた。私は凛として透明感のある古径(1883-1957)の作風が大好き。一方、御舟(1894-1935)は、やや奇を衒った作品が多い気がして、あまり関心がなかった。ところが、実は二人が11歳の年齢差にもかかわらず、親しく交流していたこと、どちらも歴史画・人物画から画業をスタートさせたこと(古径の師は梶田半古、御舟の師は松本楓湖)を会場のパネルで初めて認識した。

 本展は前後期あわせて、古径46件、御舟22件を展示する。古径のほうがずっと長命なので、作品数も多くなるのは当然のことだ。ほとんどは山種コレクションだが、桃山ふう(?)の華やかな少女たちを描いた『極楽井』は見慣れない、印象に残る作品で、東京近美の所蔵品だった。展示室の突き当りの壁には、連作『清姫』が上下二段に(交互になるよう)並んでいた。全8面展示は5年ぶりとのこと。どれもいいが、間奏曲的に挟まれる『熊野』とフィナーレの『入相桜』の静かな風景が特に好き。

 御舟は『錦木』を初めて見て、なるほど、こんな質実な人物画を描いていたんだ、と納得する。白い着物に黒い角笠をかぶった男性(たぶん)が、ロウソクのような錦木を捧げ持っている。「錦木」は、むかし中古文学の授業で歌枕として覚えた。『翠苔緑芝』は、やっぱりヘンな絵だと思う。御舟の代表作『炎舞』は第2展示室に掛かっていた。初めてしげしげと眺めて、不動明王の火炎光背を思わせる伝統的で工芸的な炎の描写と、渦巻きながら立ち上る煙(上昇気流)の写実的な描写の掛け合わせがおもしろいと思った。煙のまわりを群れ飛ぶ蛾の仲間たちは、羽根の輪郭がぼやけており、せわしい動きを感じさせる。

 古径は大正11年(1922)に渡欧し、大英博物館で東晋・顧愷之の『女史箴図巻』を見て「高古遊絲描」と称される線描の妙に魅了される。ヨーロッパで古代中国の絵画を学んでくるというのが、この時代らしい。御舟も昭和5年(1930)に渡欧、帰国後はエキゾチックな異国の風景を描いたりもしているが、興味深いのは、墨画にわずかな色を加えた花の絵を次々に試みていること。『牡丹花(墨牡丹)』は墨色の大輪の牡丹に淡い緑色の葉とつぼみを配したもの。椿、桔梗、秋茄子なども、この手法で描いている。

 昭和10年(1935)御舟は腸チフスを発症し、40歳で急逝した。会場には古径の描いた御舟のデスマスク(個人蔵)も展示されていた。広い余白を残す紙の下のほうにスケッチしたもの。作品らしい体裁にはなっていないが、当座の写生そのものではなく、あとから慎重に線を選んで清書したものらしい。薄目を開いているような、閉じ切らないまぶたに迫真性を感じた。

 ほぼ年代順に構成されている本展は、御舟亡き後、当たり前だが古径の作品だけになる。見応えのある名作揃いだが、なんとなく寂しい。


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