見もの・読みもの日記

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茶会の再現/燕子花図屏風の茶会(根津美術館)

2022-05-21 21:36:07 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 特別展『燕子花図屏風の茶会 昭和12年の取り合わせ』(2022年4月16日~5月15日)

 根津美術館、5月の恒例といえば『燕子花図屏風』の公開である。毎年見ているので、今年はいいかなあと思いつつ、やっぱり見ておくか、と思って、日時指定入館券を購入しようとしたら、連休中はあっという間に売り切れていた。連休明けの10日から15日まで、延長開館(夜7時まで)を実施してくれたおかげで、なんとか見に行くことができた。

 本展は、昭和12年(1937)5月5日を初日とし、77歳を目前にした根津嘉一郎が、青山の自邸で開催した茶会の取り合わせを再現し、『燕子花図屏風』を楽しむ趣向である。展示室に入ると、茶事の流れに従って、待合席→本席(懐石→炭手前→中立→濃茶)→薄茶席→浅酌席→番茶席のセクションが立てられ、当日披露されたお道具や書画が並ぶ。いずれも、現在の根津美術館コレクションとして見慣れた名品だが、茶席での具体的な使われ方が分かるのが面白かった。

 たとえば、絵変わりの『阿蘭陀藍絵花鳥文四方向付』は、半月形の折敷に乗せて、きす、蓮根、椎茸、防風(セリ科の植物)の胡麻和え(?)を供すのに使われた。華やかな正法寺椀(佐野長寛作)には、ふく子と冬瓜と花柚。私好みの『呉州青江赤壁図鉢』には、締めカツオ。この、うつわとお料理の取り合わせもアートの一部だと思うので、茶会記のパネルを眺めていて飽きなかった。

 懐石の床の間には『藤原兼輔像』(時代不同歌合絵断簡)が掛けられ、食事が済むと、客たちは茶室を出て休憩。銅鑼の合図で再び茶室に入ると、床の間は、小堀遠州作『一重切竹花入(銘:藤浪)』に掛け代わっている。なるほど、茶会の取り合わせって、空間デザインだけでなく、経時的なストーリーも大事なのだな。茶会記によれば、初夏の花、オオヤマレンゲが生けてあったらしい。合図の銅鑼(東南アジア、17~18世紀)は、雲州松平家伝来で「天下一の銅鑼」の定評ある名品。「大小大小大中中大」の七つの音を鳴らすというのが面白かったので、調べたら、茶会の合図としての鳴らし方なのだそうだ。

 濃茶のあとは、広間に移動して薄茶席、続いて大書院の浅酌席(酒宴)に移動した人々を待っていたのが屏風の名品。右に応挙の『藤花図屏風』、中央に『吉野図屏風(吉野龍田図屏風のうち)』、左に光琳の『燕子花図屏風』が配されていたという。展示では、中央と左を入れ替え、中央に『燕子花図屏風』を展示していたのは、ちょっと残念な気がした。真っ白な桜の花盛りを描いた『吉野図屏風』を、二つの金地屏風の間に置いて見たかった。

 根津嘉一郎は、ほとんど茶会記録を残さなかったが、この茶会はインパクトが大きかったため、参加者である畠山即翁が記録を残したり、高橋義雄が『茶道月報』(昭和12年7月号)に寄稿したり、最終的に主催者側が会記を作成して、参加者に配ることになったそうだ。ところで『茶道月報』という雑誌、5月19日から始まった、国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」で閲覧できる対象に入っている! 私はまだ利用者登録をしていないのだが、俄然、使ってみたくなった。

 2階の展示室5は「画賛の楽しみ色々」を特集。因陀羅筆『布袋蒋摩訶問答図』の画賛によると、蒋摩訶は布袋の背中に目があることを発見し、弥勒菩薩の化身であることを確信した場面であるという。そんな緊迫したシーンだったのか。『藤原惺窩閑居図』は狩野山雪筆。山雪、好きな作品が多いんだけど、なかなか、ぱっと見て山雪だと判別できない。藤原惺窩もおもしろい人だなあ。号の北肉山人の意味が分からなくて、調べてしまった。冷泉為恭筆『時鳥図』は、しどけない姿の公子が色っぽい。参考出品の『玉藻前物語絵巻』『矢田地蔵縁起絵巻』も見ることができ、だいぶ得をした気分。

 展示室6は「立夏の茶事」で、「光琳旧蔵とみなされてきた」という信楽茶碗が印象に残った。光琳作の赤楽茶碗にすごくよく似ていた。

 庭園の菖蒲は、盛りを過ぎていたが、まだ花は残っていた。あと、塀の外のマンション(?)に大きな猫がいるのに驚いた。あれは侵入してきたりしないのだろうか。


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