真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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自由主義史観研究会の人たちの憲法論

2021年11月22日 | 国際・政治

 「教科書が教えない歴史 明治~昭和初期、日本の偉業」藤岡信勝/自由主義研究会(産経新聞社)の「日本国憲法」に関わる文章の最後は、藤岡信勝教授自身が、「奇妙な文章の九条二項」と題して書いています。下記の文章です。
 私には、自由主義史観研究会の憲法論にも、歴史認識同様受け入れ難いものがあるのですが、下記の文章についても、二つの問題点を指摘したいと思います。
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                奇妙な文章の九条二項

 この「日本国憲法」シリーズを終えるにあたって、次の二つのことを確認しておきたいと思います。
 その第一は、日本国憲法の成立過程にたとえどのような問題があったろうと、日本人はそのもとで半世紀近い年月を過ごしてきた、という事実の重みです。この憲法のもとで日本人は経済の復興をなしとげ、高度成長を達成し、豊かな社会を築き上げてきたのです。このことは、、それ自体として尊重しなければならないでしょう。
 しかし第二に、だからといって日本国憲法が万全のものだと思い込んだり、その条文に少しでも手を入れることは許されないと考えたり、さらには憲法改正の議論そのものをタブーにしたりするのは、まったく正しいことではありません。
 現在の日本国憲法が、全体としてアメリカ占領軍に押し付けられたという性格を持つことはあきらかです。それにともなう欠陥や悪影響も大きなものがあります。その欠陥に目をつぶっていては、日本人はいつまでも精神的に自立できません。なぜなら、それは、国の最高法規を自分たち自身で検討することができない、ということを意味するからです。
 そこで、そのような検討のための一つの提案をしてみます。それは、いろいろな前提や思い込みを排して、虚心坦懐に日本国憲法を読んでみることです。ここでは、問題が集中している憲法九条についてそれを実行してみます。憲法第九条の第二項はつぎの通りです。
《前項の目的を達するため、陸海空軍其の他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない》
 第一文は、普通の日本語としてすなおに読めば、どう考えても軍備をもつことを禁じています。
 現行の教育課程では小学校六年生で憲法を学習します。ですから、日本国の憲法は、小学校六年生くらいの国語力ですなおに解釈できるものであるべきではないでしょうか。憲法の専門家が特別な理屈をこね回さなければ正しい解釈ができないというのは、とてもおかしいことです。
 1990年(平成二年)からの湾岸戦争の時期に憲法の学習をしたある小学校六年生の女子児童は、その感想を次のように書きました。
「わたしは、憲法はおかしいと思います。戦争は放棄、武力はもたない。自衛隊はつくるで、言っていることと行っていることが矛盾していると思う。これは、憲法の書き方に問題があると思います。せめられてしまったら国を守らないとせめほろぼされてしまうから、自衛のための戦争はやむをえないし、しょうがないことだから、もう少し書き方を工夫して『侵略戦争はしてはいけないが、自衛の耐えの戦争はやむを得ない』などということをくわしく書けばよいが、今の憲法は少しおかしいと思います」
 第二文も、虚心坦懐に読むと奇妙な文章です。だれがだれの交戦権を「認めない」のかがあいまいなのです。自分の権利を自分が「認めない」などという言い方は日本語として成り立ちません。
 だから、唯一可能な読み方は「アメリカ占領軍」が「日本国」に対して「日本国の交戦権」を「認めない」ということです。そうすると、この規定は戦争直後の一種の懲罰的な性格をもった条約のようなものだと考えざるを得ません。
 この九条をおしいただいている限り、日本人が精神的に自立できないのは当然だと言わなければなりません。
                                                  (藤岡信勝)
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 藤岡教授は、”現在の日本国憲法が、全体としてアメリカ占領軍に押し付けられたという性格を持つことはあきらかです。それにともなう欠陥や悪影響も大きなものがあります。”と書いていますが、私は、その”欠陥や悪影響”の具体的な内容が、きちんと示されていないと思います。
 だから、”その欠陥に目をつぶっていては、日本人はいつまでも精神的に自立できません”というのも、適切ではないと思います。

 上記の文章の問題点の一つ目は、日本国憲法の第九条を問題にしながら、なぜ、第一項を省略し、第二項だけを取り上げるのか、ということです。
 第一項は”日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する”という内容であり、第二項は、第一項を受けて、”前項の目的を達するため、陸海空軍其の他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。”という内容です。

 だから、第二項の”陸海空軍其の他の戦力は、これを保持しない ”は、無原則に戦力の保持を禁止するものではなく、”前項の目的を達するため”の戦力を保持しないと解釈できるので、現在、自衛隊の存在が合法化されているのではないかと思います。第二項だけを取り上げれば、この”前項の目的を達するため”という縛りが意味を失い、”どう考えても軍備をもつことを禁じています”ということになってしまうのだと思います。
 また、昭和21年(1946)年8月、憲法改正草案を審議する日本政府憲法改正小委員会において、第九条二項の冒頭に”前項の目的を達するため”という文言を挿入する修正が行われたことを見逃してはならないと思います。
 この修正は、日本政府の帝国憲法改正小委員会委員長だった芦田均の提案によるもので、「芦田修正」といわれているようですが、GHQ草案は、そのまま日本国憲法になったのではなく、こうした重要な修正が加えられていることも見逃してはならないと思うのです。
 だから、第二項だけを取り上げるのは、この重要な修正を無視して、憲法改正を意図するねらいがあるからではないか、と私は想像します。

 二つ目の問題は、”第二文が奇妙な文だ”という捉え方です。私は、藤岡教授が、戦前・戦中の軍人や政治家などの指導層と同じように、国民が制定した憲法によって、国民が国家権力を縛るという立憲主義の考え方を受け入れていないのではないかと思います。
 明治憲法は、”第三条、天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス”が象徴するように、国民を縛る法でした。でも、日本国憲法は反対に、私たちの権利・自由を守るために国を縛る法だといわれています。
 例えば、日本国憲法二十条に、”国及びその機関は、宗教教育其の他いかなる宗教的活動もしてはならない”とありますし、二十一条には、”検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない”というような条文があります。これらは、憲法が国を縛るものであることをはっきり示しているのではないかと思います。
 だから、”だれがだれの交戦権を認めないのかあいまいだ”という藤岡教授の主張は、国民が制定した憲法によって国家権力を縛るということ、言い換えれば、国民が国家の交戦権を認めないということを視野に入れていない主張ではないかと思います。

 だから、”現在の日本国憲法が、全体としてアメリカ占領軍に押し付けられたという性格を持つことはあきらかです。それにともなう欠陥や悪影響も大きなものがあります。”という主張が、客観的な事実や国民の思いを尊重していると思えないのです。
 悲惨な戦争に強引に引き込まれ、塗炭の苦しみを味わった一般の国民は、戦後の平和を歓迎しましたし、現在の日本国民の多くも、”占領軍に押し付けられた”というような意味での憲法の改正など望んではいないと思います。
 その憲法を、過去の客観的事実を無視して貶め、改正しようとする人たちは、安倍元首相と同じように、日本の戦争を正当化したいという思い、そして、東京裁判における戦犯や公職を追放された戦争指導層の名誉を回復したいという思い、また、経済力や政治力だけではなく、軍事力も外交に生かせるようにしたいという思いなどがあるのではないかと想像します。でも、それはハーグ陸戦条約不戦条約世界人権宣言核兵器禁止条約などの国際法の歩み、発展に逆行するものであり、また、反国民的な気がするのです。

 


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Unknown (しんのすけ)
2021-12-12 17:18:09
この記事に同意します 憲法が押し付けであるかどうかを議論すること自体
馬鹿ウヨ連中の狡猾なワナに嵌るようなものです

冷静に考えれば、「押し付け」という言葉自体が恣意的なのです、なぜならば
人権の尊重(女性参政権や労働組合の合法化)および民主化は押し付けられてやっと
実現できたくせに何が「押し付け」なんでしょうか

押し付けられてやっとこ、できなかった事が出来た事 それ自体を恥じるべきなんです

「一銭五厘の赤紙一枚で 国民を死地においやる」
「補給すら受けさせずに餓死する兵の方が多い」
「敵の捕虜になるぐらいなら死ね」

こんな事をいけしゃあしゃあと恥も知らずにのたまうような国家体制には
もし敗戦がなかったら民主化なんて あと何十年かかったか想像すらできないのです


そして 肝心かなめの「戦争放棄」だけは、押し付けに非ず
幣原喜重郎とその周辺が提案したという事が 最近になって判ってきていますから
「押しつけかどうか」 なんて、どうでもいい事なのだと私は思います
(幣原たちは、自分たちが天皇の立場を決めた張本人という そしりを恐れて
あくまでも連合国から押し付けられた事にしておいた、と言うのが真相らしい)
ありがとうございます (syunrei hayashi)
2021-12-12 22:56:16
しんのすけ様

 コメントありがとございます。ふだん、反日ブログだとか、ゴミブログだとか言われていますので、心強い気持ちになります。
 戦争指導層の思いを受け継いでいる安倍元首相を中心とする政権中枢や彼等を支持する右翼だけが、日本国憲法を押し付け憲法だと言って騒いでいるのだと思います。
でも、経済界に絶大な力を持つ政治権力が、あの手この手で、官僚やマスコミ、学者や若者を取り込み、日本の右傾化が進んでいるように思います。
 それが、特に韓国に対する敵対的な主張となって、あらわれているように思います。

 だから、一人でも多くの人に、正しい情報に基づいて、考えてもらいたいと思い、情報発信を続けています。がんばります。ありがとうございました。
Unknown (Unknown)
2021-12-14 12:42:12
ああ そうですねえ こういう「ネトウヨにとって都合の悪いサイト」は
運営するのが大変だったと思います でも いずれ良い意味で報われる日は来ます
何せ今やネトウヨの嘘とデマは 次々と暴かれ、ネトウヨの巣窟と呼ばれるサイトでも
ネトウヨをあからさまに非難罵倒するコメントが目立ちますから
(実は私もその一人で・・・)

やっぱり ツイッターやSNSの普及で「普通の一般人」が ネットの世界に
続々参入しているのが大きいでしょう
ネット掲示板が ネトウヨの独壇場だった時代は もうお終いですので今後は
好意的なコメントは増えるでしょう
Unknown (しんのすけ)
2021-12-14 12:44:10
ああ 名前 入れ忘れました
納得です (syunrei hayashi)
2021-12-14 19:03:29
しんのすけ様

 再びのコメントありがとうございます。

>やっぱり ツイッターやSNSの普及で「普通の一般人」が ネットの世界に
続々参入しているのが大きいでしょう
ネット掲示板が ネトウヨの独壇場だった時代は もうお終いですので今後は
好意的なコメントは増えるでしょう

 なるほど。納得です。
 ただ、歴史家や研究者が、貴重な資料をもとに、大事な論証をしているのに、意外と知られていないことが多々あり、そういう意味では、私のような一般市民が、それらを掘り起こして発信する意味はあるでしょうから、がんばります。ありがとうございました。

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