脳性まひ者 しんやのひとりごと

脳性麻痺による両上下肢機能障害と共に生きる筆者が、折にふれ、浮かぶ思いをつづる。

ネットサービスが 使えなくなっていく!?

 ネットバンキングは、振り込みなどの手続きが、うちにいながらにして済んでしまう。パソコンさえ操作できれば、ヘルパーの訪問を待って頼む必要がない。
 家賃の支払い、ネットショッピングへの振り込み手続きなど、ほとんどひとりでできていた。
 銀行のセキュリティー強化対策で途中から、仕様が変わった。ログイン後に、ワンタイムパスワードを打つ手間が増えたのである。
 それだって、Eメールでパソコンに届くから問題ない。割り箸をつけたサンバイザーをかぶってやるぼくは、モニターに表示されているのをみて、頭を動かしながら入力するだけである。
 ところが、また変わった。
 セキュリティーをさらに強化するための仕様変更を知らせるメールが届いて、
「なんじゃ、こりゃ」
 パソコンで振り込みをするとき、これからは専用アプリを入れたスマホを同時に操作してお使いください、という意味のことが書かれていた。
 ワンタイムパスワードは、スマホのほうに表示される。しかも1分ごとに変わるから、その前に入力せよ、ということらしい。
 このぼくの、自由のきかない体で、どのようにすればそれができるんだ。
 考えてみたが、自分でやるのは、もうあきらめるしかなかろう。かりに決まった時間に訪問するヘルパーさんに、手伝ってもらうとする。
「え~と、ワンタイムパスワード入力ね」
「すぐ変わるんで、速く、お願いします」
「え、もう、タイムオーバーなの?」
 何回かヘルパーさんがチャレンジしてくれたあと、
「あ~んもう、これ、むりだわ~」
 となるのは、目に見える。
 たしかに、この社会は善人ばかりではない。どんな便利なサービスが現れても、悪用する人がいる。その防犯対策として手間がかかるようになってくるのは仕方がない。
 けれど、困るのは障害者ばかりではあるまい。この生活を支えてくれているヘルパーさんだって、高齢化してきている。そう、もうおじいさん、おばあさんが大半を占める社会なのである。ネットサービスが、こんな俊敏さを求めるほうへシステムが進んでいっては、追いつけなくて、利用できる人がいなくなってしまわないか。
 ほかのサービスのセキュリティー対策も、強化されていくことだろう。ショッピングサービスはどうか。ドラマの見逃し配信サービスは、どうか。YouTubeは、どうなるか。
 体が不自由でも気兼ねなく、ひとりで楽しめていたことまで、これから少なくなっていくんじゃないか。ちょっと、心細い。