アルタイの片隅で:李娟著のレビューです。
☞読書ポイント
アルタイってどんなところ?
世の中知らない場所が本当にたくさんあるってことは、読書生活を通じて毎度知ることのひとつだ。今回も「アルタイ」って自分の世界地図には存在していなかった場所、つまり自分の中になんの知識もない、風景さえも思い浮かばないところだ。
あらためてアルタイはどんなところか記しておこう。
アルタイ共和国は、アジアの中央に位置するロシア連邦内の自治共和国。隣接するロシアのアルタイ地方とは異なる。住民の60%がロシア人、30%がアルタイ人、6%がカザフ人である。(Wikipediaより)
とても小さな共和国ではありますが、ロシア、中国、カザフスタン、モンゴルと隣接しているという位置にあるので、このような民族構成も頷ける。読後に地図で確認したわけだが、あらためて本書に出てきた民族関係が解ったような気がする。本当はこれらのことを本書を読む前に知っておくべきだったのかもしれない(笑)
さて、アルタイの知識もなく読み進めてしまったわけだが、もちろん何も知らなくても本書に流れているアルタイの空気感は十分堪能できる。
一番印象的だったのは、やはり金銭的なことや、時間の感覚みたいなものが、わたし達のそれとはだいぶ違うということ。借金(お店での商品購入の付け)ひとつ取ってみても、貸す方も借りる方もかなり大雑把。ノートに書き留めるだけの取引きは、下手したら返ってこない可能性だってある。季節ごとに移動しながら生活する人々もいるので、次の機会まで覚えているかもあやふやだ。
しかし、著者の一家が営む雑貨店兼裁縫店の経営が傾くようなこともなく成り立っている。借りた方も時間はかかってもちゃんと返しにくる。その辺の感覚はなんだろう。寛容と言うか、人を信じることと言うか、今いる自分の生活では考えられない世界に見える。ひょっとしたらアルタイの人々が見せてくれたものは、人として普通のことなのかもしれないとハッとさせられたりもした。
気温マイナス30℃、極寒のなかの水汲みとか、視界良好の大地でのトイレの苦労話など、不自由ゆえの生活シーンもたくさんあるけれど、お店に来る老若男女とのコミュニケーションの楽しさや、共存している動物の姿など、人々の生き生きとした様子が伝わって来る。著者のお母さんの「金魚」の飼育の話など思わず笑ってしまう話も多数。
遊牧の生活をしている人々が多いせいか、人付き合いも私達が想像する以上に独特なものがあるんじゃないかと思う。ましてや異なる民族がともに生活する社会である。読みながら同じ時間を生きている人々であるのに、どこか違う時間を生きている人々のように思えた不思議な感覚は、彼らがこのような私達と異なる環境で暮らしているからかもしれません。とにかくのんびりしながらも、「へーー」「えぇーー」と興味深い話が次々登場した。
ただ一つ難点は、翻訳が自分と合わなかった。スルスル読み始めると転ぶ...って感じで、なにかひっかかりを感じるのだ。助詞の使い方がまずいのか?とか、明らかに自分の妹のことを書いている文章に、いちいち「うちの妹」と書いたりするあたりに、なかなか慣れず止まってしまう場面が終始あった。もう少しすっきりした文章だと、本来の瑞々しい風景が伝わってきたのになぁ...と少々残念である。
【つなぐ本】本は本をつれて来る