この間、net newsでこんな記事を見つけました。

 

『「空に星があるように」「いとしのマックス」などのヒット曲を生んだ荒木一郎さん(79歳)が自伝的小説を書いた。それが『空に星があるように 小説 荒木一郎』(小学館、3300円・税込み)だ。60年代半ば、テレビドラマの脇役から映画俳優、スター歌手へと階段を駆け上がった19歳から25歳までを描いている。』

 

なぜこの記事に反応したかと言いますと、少し前に行きつけの自宅近くの古本屋さんで、2016年に交遊社から出版された『まわり舞台の上で 荒木一郎』と言うインタビュー本を見つけて読んでいたからです。

 

結構分厚い本なんですけど、面白かったんですよ〜。芸能好きなら興味深い話が満載で読み応えがありました。

 

荒木さんがピアノを引いているところを横から撮ったモノクロ写真がカバーに使われていて、それがカッコイイんですよ〜。この本を読んでみようと思った動機の一つがそれです(笑)。

 

この本の中に「自伝的小説」を書きたいと言う記述があったんですよ。それが完成したんだなと思いました。

 

僕がこの本を読む前に『荒木一郎』さんのことで知っていたことといえば…

 

◎お母様が女優の荒木道子さんと言うこと。

文学座出身の新劇の俳優さんで、僕なんかは年齢的にそんなにたくさんの作品を見ている訳ではありませんが、庶民的なお母さん役ではなく、山の手の裕福なご夫人といった役柄をよくされていた印象があります。高倉健さん主演の『昭和残侠伝 死んで貰います(1970年)』とか、権高い大使夫人『華麗なる一族(1974年)』とかが印象に残っています。山口百恵さん主演の『炎の舞(1978年)』にも出てらしたんじゃないかなぁ。独特の台詞回しをされる方でしたね。

 

◎1966年に『空に星があるように』で歌手デビューされ、60万枚を超えるヒットとなり、第8回日本レコード大賞新人賞を受賞されたと言うこと。

 

◎『第18回NHK紅白歌合戦』(1967年)で『いとしのマックス』と言う曲を歌っている荒木さんを観て、カッコイイ曲だなぁって思っていたこと。

 

昔、NHK-BSで年末になると『懐かしの紅白歌合戦』と言うタイトルで現存する紅白歌合戦の映像を通しで放送してくれていたんです。

 

その時、観たんです。この年は、ジャッキー吉川とブルー・コメッツの『 ブルー・シャトー』が大ヒットした年で『いとしのマックス』もGS風のメロディーなんですけど、とっても洒落ていて、他の出場歌手にはない新しさを感じたんです。

 

◎桃井かおりさんのマネージャーをされていたこと。

 

桃井さんは、歌手活動も積極的にされていた時期があり、その時のマネージャーが荒木さんだったんです。アルバムのプロデュースもされていました。桃井さん主演の『夕暮まで(1980年)』と言う映画があります。原作は吉行淳之介さんのベストセラー小説。その映画の主題歌が『哀しみのラストタンゴ』と言う曲で、僕は大好きな曲なのですがこの曲の作詞・作曲が荒木一郎さんなんです。

 

荒木一郎さんに対して僕はこんな程度の知識しか持ち合わせていませんでした。

 

僕は長年、『哀しみのラストタンゴ』と言う曲を聴き続けていて、こんな良い曲を作れる人ってどんな人なんだろうか?とずっと興味を持っていたので、この本を読んでいろんな事が腑に落ちて、納得できて、読んでいる間はとても楽しい時間を過ごす事ができました。

 

お母様が女優だからと言うこともあったでしょうが、16歳、高校生の時、NHKドラマ『バス通り裏』でデビューされ役者の道へ。

 

その後、自信が作った歌と語りで構成したラジオ番組から火がついた1966年に発売したレコード『空に星があるように』が60万枚を超える大ヒットとなり、 第8回日本レコード大賞新人賞を受賞し、67年には紅白歌合戦に初出場。

 

東映の、中島貞夫監督のデビュー作『893愚連隊』に出演したときの打ち明け話や、新人歌手として人気絶頂のタイミングに出演した大島渚監督の『日本春歌考』撮影時のエピソード、羽仁進監督『愛奴』の主役降板劇などの逸話の数々。

 

吉永小百合さん、岩下志麻さん、十朱幸代さん、大原麗子さん…。同時代の銀幕スターも想い出を彩る存在として実名で登場します。

 

女優の榊ひろみさんとの恋愛と結婚生活、1977年、当時30歳のクラブ歌手の女性から「レッスン中に性的ないたずらを受けた」と東京地裁に提訴され、130万円の損害賠償を請求された事件のこともきれいごとでない部分も飾ることなく話されています。

 

そんな超売れっ子時代の当事者しか知り得ない秘話を淡々と語ってらっしゃいます。

 

決して自分が成してきた功績や実績を声だかに自慢されることもなく、ただ求められたから、全力でそれに応えて来ただけとインタビューに冷静に答えてられる荒木さんは素敵です!

 

近年は表舞台ではお見かけしませんが、シンガーソングライターとしてステージに立てばホールを満席にする人気と実力の持ち主であり、楽曲の数も膨大で名作揃い。色んなアーティストにカバーされることも多いですよね。

 

歌手、俳優、作曲家、小説家、プロデューサーなど多彩な顔を持つ一方で、マジック評論家、オーディオマニア、将棋はアマ四段と本格的な趣味でも知られる荒木さん。不思議な人です。

 

僕の中で、荒木一郎という人はどこか掴みどころのない人だったんです。でもこの本を読んで昭和の芸能史の王道を歩いて来られた方ではないですけれど、自分のやりたいこと、好きなことだけをやってきて、やるからにはキッチリ答えを出してきたしなやかな男らしさをとても感じました。

 

荒木さんは、少年時代、美空ひばりさんやプレスリーを聞いて育ち、中学生のときからドラムを叩き、高校でモダンジャズバンドを結成。渋谷や六本木を遊び歩いていたそうです。

 

スマホもSNSもインターネットもない時代。自分がその場所にいかなければ人にも出会えないし、なんの経験も体験もできない時代…。人との関わりを強く求める気持をみんなが持っていた時代だったんじゃないですかね。

 

今は外に出なくても、バソコンの中だけで仕事が完結できてしまう時代だし、僕なんかは荒木さんの少年時代はとても楽しそうだなぁなんて思ってしまいます。

 

何かを作るってそんな経験や体験って大事なんじゃないかなって思いますよ。僕はね。楽器を弾けなくても、部屋で一人で作曲もできちゃいますからね〜今は。

 

ドラマ『悪魔のようなあいつ』で共演した沢田研二さんについて荒木さんが語った言葉です。

 

『沢田っていうのは、ナベプロによって作られたスターであり、要するにイエスマンだから、基本的には「はい、分かりました」っていうところでしか動かない人じゃない? 沢田とはもちろんドラマ作る中でもずっと一緒だったから話はするけれども、常にお利口さん。全然、自分の意見を述べない。ショーケンとか松田優作でも何でもいいけど、そういう主張のある人間を撮ってるんだとなんでもないシーンでも面白くなると思うんだよ。だから久世さんがあれをやってるのはどうなのか、現場では不思議な感じがしたよね。沢田はそういうことに関しては一切ノータッチなの。何にも言わない。だからそういうところであの人はスターになれたんだよ。俺とはまったく真逆の人だから俺と話してても、普通に友達としては話せるんだけどなんていうか面白味のない人。』

 

桃井かおりさんについてはこう話されています。

[桃井に憧れてた岸本加世子と]会うたんびに「今日はかおりさんは一緒だったんですか?わーうらやましい」「うらやましくねえよ!大変なんだから」とかやってたわけだよ(笑)。そしたら『ちょっとマイウェイ』で加世子がかおりと一緒になったわけじゃない。1ヵ月もしないうちに気持ちが壊れて、もう2度とやりたくないって言ってた。八千草薫も「2度とやりたくない」ってなったでしょ。黒柳徹子さんなんかももう冗談じゃないってなって…これは『徹子の部屋』のときだけど。

 

例えば、テレビドラマのリハをやってて、いきなり不機嫌になって「ちがう、おかしい」とか言い出してリハがストップしちゃう。ディレクターとか、かおりが何を要求してるのか分からないから、みんな黙ったまま困るわけじゃない。そうすると僕が出ていくしかないから出てって「カメラはこっちから撮ったらいいんじゃないの?」って、かおりが気に入らないところが分かるからね。とりあえず演出家も無視して、カット割りとか作っちゃう。そうするとかおりが不機嫌を取り下げて「うん」ってなるから人は俺の言うこと聞いたように見える。でもそうじゃないの。桃井かおりのやりたいことを知ってるだけなんだよ。レコーディングスタジオでも。

 

[桃井を]プロデュースしてマネージメントやったことはすっごく勉強になったよ。修行させてもらってるみたいなもんで。そういう意味ではすごく感謝してる。

 

桃井さんは気難しいと言われていたエピソードです。

 

この本は他にも興味深い話がたくさん出てきます。

 

でも暴露本じゃないんですよ〜。荒木さんの目から見た、荒木さんが関わった人たちの表には見せない顔を正直に語ってるだけなんです。

 

最後に荒木一郎さんがものづくりに対してどう向き合っているのかを語った言葉です。

 

五木寛之みたいな人が、自分の苦悩を絞り出していく、てなことを言ったり書いたりしてるけど、そういうのは一切ない。音楽もそうだけど苦悩して書くんだったら書かない方がいいっていうのがあって。やっぱり自分の中からある種のほとばしりっていうか、「したいな」と思うことをやってく方がいいの。なんか、そんな無理して作ったものを人に渡すっていうのはちょっと自分の趣味ではないよね。

 

自分の心情を吐露する気が全然ないから、もし自分の心情を語るんであれば、その語ることが相手の役に立ってなければなんの意味もないっていうふうに考える。「自分の気持ちなんか人は聞きたいわけがない」ってとこからしかものを見ないから。

 

「自分」を語るよりも「自分」を作品化して、それで人が喜ぶっていうエンターテインメントの方がいい。

 

エンターテインメントって『娯楽・気晴らし』ってことですもんね〜。荒木さんの言うこともよく分かります。

 

『まわり舞台の上で 荒木一郎』の550ページの内訳は、メインとなる荒木一郎さんへのインタービューが450ページ。それ以降は活字が二段組となって、コラムニストの亀和田武さんと荒木さんの対談があり、映画評論家の野村正昭さんと音楽評論家の小川真一さんによる荒木さん評があり、荒木さんの出演作品、出したレコード、本などの詳細なデータが纏められ、最後に荒木さんによる各音楽作品へのコメントが、インタビュー形式で載っている荒木一郎大全集です。

 

荒木一郎さんに興味のある方はぜひ読んでみてください。色んな発見がありますよ。