ルーシーに首ったけ③(その男激震番外編)

「ルーシー、中ちゃん達にカルバドスをロックで」
「は~い、ママ」

店の奥から一人の女性が現われた。

「中島さん、いらっしゃい」
「今晩は! 今日もお綺麗ですね!」

なんだその上擦った声は!

「えっと、そちらは」
「殿里です。中島の同僚です」
「はじめまして。ルーシーです」

確かに綺麗な女性…ではない。
女性にしかみえないが、俺の目は騙されない。
男だ。
ママと違ってオカマやニューハーフと呼ばれる部類とは全く違うが、性別は男だ。

「ルーシーさん、お綺麗ですね」
「ありがとうございます。ルーシーと気楽に呼んで下さい」
「じゃあ遠慮なく。ルーシー」

遠慮しろよ、と中島が肘(ひじ)で俺を突く。

「中島さんもイケメンですけど、殿里さんもちょいワル系のイケメンですね。女性にモテるでしょ」
「トノは女が放っておかないから」
「中島だってモテる」
「ええ。中島さんはこの店でも女性のお客さまに人気ですから。ママも大好きみたいですよ」
「…ルーシーは?」

恐る恐るという感じで中島がルーシーに訊いた。
あぁ…そういうことか、と俺は確信した。

「もちろん好きです。さ、どうぞ」

琥珀色の液体とロックアイスが入ったグラスが俺と中島の前に出される。

「中島がカルバドスが好きとは知らなかった」
「俺の好きな果物が林檎(りんご)だって知ってるのに?」
「だからって林檎のブランディが好きとは思わない」
「今日から覚えて置いてくれ。俺はカルバドスが好きだ」
「覚えておくよ。カルバドスに乾杯~」
「乾杯」

グラス傾けながら、俺はルーシーをチラッとみた。
ルーシーが特別中島に興味をもっているようには見えない。
さっきの「好き」もとくに深い意味がないのがわかる。
言われた中島がどう捉えたかは謎だが。

「ルーシー、ちょっとぉ~」

ママの太い声に呼ばれルーシーがカウンターから消えた。

「彼女、どう思う!?」

あぁ、来た。

「どうって、何が?」

すっとぼけてやる。

とぉーっても綺麗だろ! 俺は理想そのもの!」

もしかして、中島はルーシーの性別が俺達と同じだと気付いてないのか?

「彼女のことが好きなんだ。それで俺に相談って訳か」
「トノ! そう! そうなんだ。やっぱりトノだ。話が早い! 一緒に来てもらってよかった~~」

俺は全く良くない!

「俺に頼る前に自力で頑張ってみようと思わなかったのか?」
「…頑張ったよ。告白は何度もしたけど、本気と思ってもらえない。デートにも誘ったけど…俺が誘う日には決まって先約が入ってる。彼女、ここに住み込みだから送って帰るってわけにもいかないし。トノは女性にモテるから助言してもらおうと思って…」
「そりゃ俺は『女性』にはモテるが」

同性にモテた記憶はない。
ソッチ方面の経験があるなら、既に中島とどうにかなってるはずだ。

「応援してくれるよな」

泣きそうな顔で言うなよ。

「そんな顔されたら、断れないだろ」
「応援してくれるってこと?」

だから、目を潤ませてるなよ。

「ああ」
「トノ、ありがとう!!!」

中島からガシッと抱きつかれる。
勢いがありすぎて椅子から落ちそうになった。

「盛り上がってるわね」

ママが咄嗟(とっさ)に支えてくれなかったら、俺達は床で抱き合っていたかもしれない。
それはそれで少しオイシイ展開だったのだが。

「私も仲間にいれてよぉ~」
「ママ、俺達の会話聞いてた?」
「ヤダ中ちゃん、聞かなくても分るわよ。この世界に何年いると思ってるのよ。ふふ、男と女のことも、男と男のことも見てたら分るのよ。ね、トノちゃん」

ママの視線が俺と中島を往復する。

「さすがですね」
「良い結果を出すためにも、呑んで呑んで~。ルーシー、お二人におかわり~。チェイサー(水)も」
「は~い」

再度のルーシー登場。

「ルーシー、好きな人がいるの?」

ストレートに聞いてみた。

「ここのお客様皆さん、大好きですよ」
「そういうのじゃなくて。特定の誰か。恋愛対象として好きな人」
「皆さんに恋愛してますから」
「じゃあ客全員とセックスできる? 恋愛してるならできるよな」

意地の悪い質問をしてしまった自覚はある。

「トノ!」
「トノちゃん」

左右から俺を叱咤する声があがった。

「殿里さん、私と寝たいんですか? いいですよ」
「え?」

耳を疑った。
横をチラッとみると紅潮していた中島の顔から赤味が消えた。

ダイダイです。次は金曜日に更新するらしいです。ルーシー…はもちろん、あのルーシーだろ? ヤバい話になっているような…。ランクに参加中です。下のランクバナー(1)(2)で応援〔ポチ〕頂ければ幸いです。

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