東アジア歴史文化研究会

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう
歴史の書き換えはすでに始まっている

『成熟産業の連続M&A戦略 ロールアップ型産業再編の手引き』上野善久著(中央経済社) M&A(企業合併・買収)のかたちが急速にかわっている 日本企業は世界の企業人の共通認識をまだ理解できていない

2023-02-02 | 日本の事情

小誌の読者にはいささか距離を感じる分野だろう。M&A(企業合併・買収)はビジネスマンでもマネージャー以上の人でなければ興味は薄い。

だが、実業界でM&A(企業合併・買収)は、いまや日常茶飯であり、卑近な例はイーロン・マスクのツィッター買収である。そもそもテスラもスペースXも、マスクが独創的創業のCEOではなく、買収を積み重ねて株価利益をあげて膨張したのだ。

また中国企業が日本で土地買いやら火葬場の買収にまで手を出しているのも変形のM&Aであり、米国では倒産すれすれ企業を安値で買って国籍をごまかすなど新種変形畸形のM&Aも急増している。

著者は東大卒、英国国立大学院経営学修士(MBA),三菱総研、ボストングループなどを経て独立コンサルタント。

本書は「成熟産業で新しく成長する具体的手法として、GAFAMの真似なんぞより、日本の産業構造にあったM&A戦略が必要だ」と説くブランニューな手引き書と言える。

とくに著者が強調するのは「ロールアップという手法に重点を置いた」ことで、世界ではこの概念は共有されている、とする。

で、『ロールアップ』って何だ?

トルコやイランへ行くと絨毯屋が軒を連ねる。その販売員たちが六畳から十畳の絨毯を迅速に巻き上げる方法は名人芸。つぎつぎと絨毯を客の前で展開し、さっとロールアップし、つぎの絨毯を紹介する。もう四半世紀ほど前、テヘラン、イスファファンなどで夥しい絨毯を見た。知人の新築祝いに二枚ほど買ったが日本の半値以下だった。

このポイントから「ひろく散らばった対象企業をとりまとめていく企業行動を英米ではロールアップと呼ぶようになった。

本書でロールアップとは「小規模で分散した多くの同業者を次々と結集させ、当該市場における主要規模の事業体に再編成する企業行動」を意味する。

しかし日本の産業界の概念は旧態依然、あいかわらず『アメリカと比べる』癖。ついで『評論家』が多すぎること。

以下が本書の重要なポイントである。

「最大の産業セクターはインターネットでもAIでもなくて成熟産業」であって、それは「スタートアップでも大企業でもない普通の中小企業」が大きな成長の塊だという。

具体的な内容は、かなりテクニカルな専門領域にわたるので本書にあたって貰う方が良い。

話をもどして、じつは評者(宮崎)、日本で初めて『M&Aの研究』(1986年6月、絶版)という本を書いた。

当時、この方面の専門家は奥村宏氏くらいだった。

すると経営コンサルタントのタナベ経営から声がかかり、全国の『社長会』をまわって講演したが、反応があったのは東京と関西だけで、1980年代後半、地方ではまるで縁の薄いトピック扱いだった。

その後、『ウォール街凄腕の男たち』とか『ウォールストリート・ジャーナルで読む日本』とかの拙作が続いたのも、すでに米国ではT・ブーン・ピケンス、カール・アイカーンら名うての買収屋が闊歩していたからだった。日本企業は対岸の火事視だった。

ハーバード大學でもM&A専門科目が人気を集めていた。当時、M&A講義で評判をとったのはローレンス・サマーズ。のちに財務長官に納まり、さらにはハーバード大学学長になった。

日本で話題となりはじめてはや35年の歳月が流れ、ピケンズの小糸製作所への敵対的買収騒ぎでようやく『ペリー来航』となった。 そのM&Aが日本でも活発となって、いまでは新形態がここまで成熟している現実と、その概念の普遍化に驚かされた。

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出版社内容情報

日本最大の産業セクターである成熟産業は大半を中小企業が占める。友好的な連続M&Aで業界をまとめた実績を基に、産業そのものを強くするための戦略とノウハウを伝授する。

内容説明

最大の産業セクターである成熟産業をイノベーションの源泉とする、連続M&A戦略を詳解した初の教科書。

目次

第1章 成熟産業での連続M&A―類型と事例(成長戦略としての連続M&Aの位置づけ;産業の発展段階 ほか)
第2章 連続M&A戦略の企画立案(業種の選定;相対シェアによる現状の把握と目標設定 ほか)
第3章 実行段階における連続M&Aの経営実務(マネタリーサイドとストラテジックサイド;勧誘先の選定基準 ほか)
第4章 ファミリー企業の連続M&Aにおける事業統合手法(産業再編を促進する統合手法;M&Aで成長する企業は市場競争をしなくてよいか ほか)
第5章 ロールアップ型連続M&Aの打ち止め判断(連続M&Aの「打ち止め」とは何か;自社経営指標の推移 ほか)

著者等紹介

上野善久[ウエノヨシヒサ]
東京大学経済学部経営学科卒業、英国国立大学院経営学修士課程修了(MBA)。三菱総合研究所、ボストンコンサルティンググループ、布屋本店を経て、日本ジェノス創業。代表取締役として18件の連続M&A(譲受17件、譲渡1件)により産業再編を主導。Entrepreneur of The Year 2001セミファイナリスト選出、東京工科大学大学院MBA課程講師、早稲田大学ビジネススクール招聘講師歴任。組織学会、ファミリービジネス学会各会員。現在、産業構造と経営戦略の関係から導く中堅・中小企業の高収益化のコンサルティングならびに持論を実証する事業開発を展開している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。


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