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「くはーーっ疲れた。」
夕日に照らされて赤く染まった自転車を押しながら、睦月と望美は帰路に着いていた。
「まったく。そのお人好しな性格、いい加減どうにかしたほうがいいって。おかげで私まで付き合わされるんだから…」
街のゴミ拾い自体は、午後二時に終わっていたのだが、睦月のお人好しが災いして二人は結局この時間まで働いていたのだ。
「ごめんごめん。でもさ、俺たちがこうやって働くことで、誰かが喜んでくれるんだよ?それって、なんか素敵じゃん。」
「それはそうだけど…」
望美はそういう睦月の横顔をちらりと盗み見た。
相変わらず可愛い顔してやがるな、コイツは。
睦月は昔から、誰かの役に立つことが嬉しくてたまらないと言っていた。「将来は人の役に立てるような仕事につきたい」だとか話す睦月はいつも楽しそうだった。
「いいなぁ、夢があって」
睦月の横顔からようやく目を話した望美は、ぼそっとつぶやいた。
「へ?」
とぼけたような睦月の顔がおかしくて、望美はつい吹き出した。
「望美だって夢ぐらいあるだろ。ほら、怪力だし…力強いし…力持ちだし!」
失礼極まりない発言なのに、なんの悪気もなく言う睦月を見ていると、なんだか怒れなくなってくる。
「全部同じじゃん!まぁいいけど」
「あー、それに、望美のおにぎりうまい。」
さっきまでとは打って変わって、睦月は大真面目な顔をして言った。
「なんでかなー。望美が作るの具はコロコロ変わるじゃん。でもさ、どれ食ってもうまいんだよなー」
不意打ちをくらった望美は、しばらく口をつぐんで棒のように突っ立っていた。
「ん?望美?」
いつの間にか自分の後ろで立ち止まっていた望美に走り寄り、睦月は望美の顔を覗き込んだ。
「ぬわあああああああああ!なに?!なんだ!!」
突然叫んだ望美に驚き、睦月は数歩後ずさった。
「いきなりなんだよ…。なに突っ立ってんだよ。帰るぞ。」
人の気も知らずに、睦月はてくてくと歩き出した。
「ったく…。」
望美が睦月に追いつこうと駆け出したとき、睦月が急に立ち止まった。
「うわっ、なに?危ないじゃんか」
睦月は丸くて大きな目をさらに大きく開いて、二人の前方を指さした。
「あれ、さっきの名刺入れみたいなやつ…!」
望美も睦月の示した先を見て、口を開けた。
「ホントだ…。先生に預けたよね?」
「うん。二人で行ったよな。」
二人の前方には、ゴミ拾い中に拾ったあの変わった落とし物がまた落ちていたのだ。
睦月は駆け寄り、素早くそれを拾い上げた。
「なんでまたこんなとこに…。もしかして、おれ、コイツに好かれてんのかな?」
と、その時、満面の笑みを浮かべる睦月の横を、緑色に汚れたコートを着込んだ男がすっと通り過ぎて行った。ひどく疲れたような顔をしている。
「うわっ。なんだろあの人。体中緑色に染まってるよ」
まるで空気の様にふわりと通り過ぎた男の後姿を、しばらく目で追っていた。
「睦月。いこ」
望美の声にはっとして、睦月は視線を戻した。
と、その瞬間、望美の甲高い叫び声が響いた。
驚いて前を見ると、まるで彼を追ってきたかのように怪物たちがわさわさと睦月たちの方に歩いて来ていた。
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