昨年得たばかりの衆院議員の職をなげうち、参院選へのくら替え出馬を表明していたれいわ新選組代表の山本太郎氏(47)。注目を集めていた出馬選挙区は結局、東京選挙区とすると、5月20日に発表した。「結局」と書いたのは、山本氏はつい先日まで衆院東京ブロックの衆院議員で、さらなる党勢拡大を目指したいと、党代表自ら辞職し、参院選に出ることを表明した末の発表だったからだ。

この間、どこの選挙区から出るかはけむに巻きつつ、れいわ新選組が誇る緻密な選挙情勢分析を、いくつものサンプルで調査した結果、ふるさとの兵庫、改選数プラスワンの神奈川などさまざまな臆測が出る中、本人の「地盤」でもある東京選挙区という選択に落ち着いた。「冷静で現実的。驚きもない」(自民党関係者)結果となった。

東京選挙区で、れいわはすでに依田花蓮氏を候補者とすることを記者会見までして発表しており、今回はその候補者を比例代表に回すことも表明した。党内調整が付かず、選挙区に出馬予定だった候補が比例に回るケースはあるが、代表の都合で候補者が「割を食う」形になるのは、山本氏がオーナーの政党である、れいわだから可能なことだ。多士済々なメンバーはいても、山本氏なくしては成立しない政党だからこその決定だが、いったん「候補者の差し替えはしない」と発表しながら、新人の候補者を自分に、差し替える結果に。大激戦区で全国の注目も集まる東京に、最終的に、自分を上回る候補者を立てられなかったという「誤算」の結果でもある。一方で、最初から東京は山本氏だという選択肢が残っていたような気もする。

「企業にたとえるなら、何かと前面に立つオーナー企業の社長のよう」。野党関係者を取材すると、そんな皮肉も飛び出した。代表である山本氏が、辞職と出馬を重ねて注目を集め、知名度をフル回転することで党勢拡大につなげようとしている「れいわ方式」。前例のない動きに、政界には戸惑いの声も聞かれた。

「山本氏は東京選挙区か」という見方は、発表される数日前から、選挙のプロたちの間でも出ていた。昨年の衆院選では、野党間の約束が壊れて比例東京ブロックに回ったが、当初の予定は東京8区だった。落選したいちばん最初の選挙(2012年衆院選)も東京8区で出たし、2013年に初当選した参院東京選挙区も含め、20日の会見での山本氏の言葉を借りれば「東京は私の人生の足元」「すべてを鑑みて東京に落ち着いた」。激戦といわれながらも、改選6人のうち当選が有力視される候補の数を引いていけば、事実上、戦うべき相手の数は限られる。その相手を想定した戦略を立てる中、もともとの地盤である分、有利にはたらく面もあるのではないか…そんな「打算」も働いたのではないだろうか。

ただ、机上の論理だけでは語れないのもまた選挙だ。今回は、山本氏と同様に知名度の高い新人が複数出てくる。自民党の生稲晃子氏や、無所属で作家の乙武洋匡氏などなど。著名人の出馬表明は、「後出しじゃんけん」であればあるほど有権者の記憶に残りやすく有利とされ、その意味では、山本氏の表明のタイミングは効果的だったかもしれないが、候補者数が多く、著名人が多く出れば、それだけ票も割れるはずだ。

改選数の6人の中に「粛々と滑り込む」ことが目標とした山本氏。山本氏が初当選した13年参院選の最下位当選の獲得票は61・2万。前回は52・5万、前々回は50万だった。少なくともここに近い票数をまずは確保しなければ、議席は獲得できない。

山本氏にとって、東京の地盤への「復活」とを目指す参院選。その結果は、「変則的二刀流」の政治スタイルを模索してきた山本氏と、れいわ新選組の今後を占う、大きな決戦でもある。【中山知子】