はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る 一章 その17 思いがけない来客

2024年04月17日 09時53分33秒 | 赤壁に龍は踊る 一章



開戦の決定を受け、まさに柴桑《さいそう》は沸騰した。
開戦か、降伏か。
どちらかになるかを息をつめて見守っていたひとびとも、ひとたび開戦と決まると行動は早かった。
家臣たちはあらたに役職をあたえられ、曹操軍にそなえるべく、それぞれの陣地移動をはじめた。
物資を売る商人たちも大きく動き出し、陸路も水路もさまざまな物資で満ちた。


だれもが曹操に対抗するのだという意志で燃えているように見える。
上は都督から下は奴婢まで、曹操に一丸となって戦う態勢となりつつあるようだ。
この豊かな江東の土地を、曹操の好きにさせてたまるか、という気概が満ち満ちている。
降伏派の中心にいたひとびとさえ、もう文句のひとつも言わなくなったとか。
机とおなじ運命になってはたまらないと思ったのもあるだろうが、江東を包み込む闘争心に圧倒されたというのが本当のところではないか。


趙雲も柴桑の街に、民の様子を見に行ったが、ちいさな童子たちまでもが、剣に見立てた棒切れを片手に、
「曹操、なにするものぞ! やっつけてやる!」
と気勢を上げているのには面食らってしまった。
不安そうな面持ちの者も中にはいるが、かれらの影は薄い。


左都督には周瑜がおさまり、右都督には程普と決まった。
賛軍校尉、つまりは参謀総長の地位には魯粛が任じられた。
にわかに多忙となったらしく、魯粛はあまり客館に顔を見せなくなった。
伝言と物資はまめに寄越すところが、気づかいと段取りのひと、魯粛らしい。
いまも、孔明の手元には魯粛からの手紙がある。
魯粛と孔明は、いまやすっかり運命共同体といったところだ。


「周都督の水軍は、明日にでも柴桑を発つようだ」
と、魯粛の何通目かの短い手紙を読んで、孔明が趙雲に言う。
「わたしのほうも、わが君に後れをとらないように樊口《はんこう》まで出てくださるよう、使者を出してお願いしておいた。そこで都督とわが君は初対面となるのではないかな」
「長江を上る、というわけか。おれたちも後に続いたほうがいいな」
趙雲が言うと、孔明はうなずいた。
「そうだな。うまくすれば、樊口でわが君とお会いできるかもしれぬ、楽しみだな」
孔明は親に会う楽しみを語るような軽快な口調で言った。


仮に樊口に到着したとしても、劉備たちの元に戻ることは、まだできない。
孫権は同盟を決めてくれたとはいえ、それはあくまで口約束。
劉備と孫権の代理である周瑜が会って、本格的に決めることだ。
同盟のゆくえを見守る必要がある。
とはいえ、孫権の様子からして、同盟の締結はまずまちがいないとは趙雲も思っているが、気になるのは周瑜のことだった。


じつのところ、周瑜が柴桑城にやってきたとき、趙雲はかれが孔明をどう見るか、注意していた。
いままでの経験からして、味方になってくれそうな人間は、すぐに孔明を気に入り、明るい顔を見せる。
だが残念なことに、周瑜はその逆の人間のようだとわかってしまった。
というのも、かれが孔明を見る目が、おそろしく冷たく暗いものだったからである。
もちろん、表面はにこやかにしていた。
おそらく、よほど注意していなければ、周瑜の目つきの暗さを見破られなかったろう。


孔明と周瑜が対面したとき、周瑜は満面の笑みを浮かべていたが、礼をとって顔を上げるその直前、ぞくっとするほど冷たい目で孔明を盗み見た。
それをとなりで逃さず見ていた趙雲は、この男には注意せねばと思うのと同時に、かなり失望した。
周瑜の前評判が高すぎたせいもある。
寛大な性格だと聞いていたのに、どうやらちがうようだとわかってしまった。


周瑜が孔明をきらったのはなぜだろうと考えても、本人に聞かないことには、正しいことはわからない。
思い当たることといえば、同盟のことだろうか。


周瑜が同盟について、あまり乗り気ではないということは、その表面はにこやかだが、どこか素っ気ない素振りですぐわかった。
かれは、孫呉だけで曹操を跳ねのけたいと思っているのにちがいない。
周瑜は独自で曹操軍の動向について、正しく情報を掴んでいるようだ。
孔明があらためて周瑜に曹操軍についての情報を披露しても、おどろく様子を見せなかった。
優秀な細作を使って、情報をあつめているのかもしれない。
周瑜もまた、その情報を分析し、孔明や魯粛とおなじく、曹操軍は過度に恐れる相手ではないと読んだのだろう。


そして、すでに先を見ているのだ。
曹操軍が撤退したあと、天下がどうなっていくか。
とくに、荊州がどうなるかを。
冷静にかんがえれば、夏口に駐屯する二万の劉備・劉琦連合軍は、孫呉の荊州進出に邪魔な存在だ。
曹操が撤退したあと、仲良く荊州を治めましょうということは、周瑜の天下二分の計の思想と合致しない。
その点、曹操と孫権につぐ第三極を育てて、天下を安定させんと考えている戦略家たる魯粛や孔明とは立場がちがうのだ。


『いや、そういう考えのちがいだけの理由かな。あの男の軍師を見る目はあまりに冷たかった』
孔明は周瑜とともに移動し、同盟の締結を見守ったあと、この大戦のゆくえを見定めるため、魯粛と行動をともにするつもりでいるらしい。
それは、孫呉に対する人質として、自分を差し出すのと同じことだった。
それほどの覚悟で、この同盟に望んでいる。
そんな孔明が、周瑜には目障りなのか。


噂に高い美貌をほこる、誰から見ても孫呉の家臣たちから尊崇の念を抱かれている男。
そんな人望の高い男が、孔明に敵意をむき出しにするというのは、見ていてあまりいい気持ちはしない。
どころか、孔明の命の危険すらあると、趙雲はあやぶむ。
『下手をすればひそかに消される可能性もあるかもしれぬ。重々気を付けておかねばな』


孔明は周瑜の敵意に気づいているだろう。
敏感な青年なので、にこやかな笑顔の裏の暗く冷たいものをすぐに見破ったはずだ。
誰に聞かれているともかぎらないので、
「気をつけろよ、軍師」
とぼかして注意をうながすと、孔明は、
「きらわれるのはつらいが、これも相性だから仕方ないな」
と、寂し気に笑った。


そんなことを話しているうちに、客館に、ふらりと酒瓶片手に訪れた人物がある。
孔明の兄、諸葛瑾であった。


つづく


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ちょっぴり長めの周瑜の回想が終わり、本日から、また孔明たちのお話です。
今後の展開もどうぞおたのしみにー(*^▽^*)




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