私のプチ大阪論 | 続・猫と饒舌の日記

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文筆家・古谷経衡のオフィシャルブログです。
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(無料メルマガ「古谷経衡の斜会学通信」より転載・加筆)

何を隠そう私の第二の故郷は大阪である。大学時代を含め、青春時代のもっとも重要な期間の8年間を大阪(関西)で過ごしたのである。

先日、車の中でラジオ番組を聞いていたら、「THE OSAKA」というコテコテの大阪観を基にしたラジオドラマをやっていた。これはこれで面白かったのだが、どうも東国人には、大阪=大阪弁=多弁=おせっかい、的なイメージがあるようであり、大阪を描写するときの街の情景も相も変わらずミナミの通天閣周辺に限局されていることが多いようである。

大阪の特徴とは、特徴のないところにその最大の特徴がある。正確に言えば、大阪は川一本、道路一本、路線一本を隔ててあまりにも地域性に特色があるため、一言で大阪を象徴するものはない、といった方が正しい。

どうしても、大阪を表現する際にはメディア的にわかりやすいから通天閣が登場するわけだが、あの一帯は大阪中心部のミナミを代表する半ば観光地的飲食街(新世界)であるだけで、大阪のすべてではない。すぐ北に行けば堂島・本国町の金融・証券街、中之島の行政地域、北新地のクラブ街、梅田の繁華街にでて、ここはミナミとは打って変わって東京を凌駕する近代地帯であり、さらに北に行けば十三、西中島、相川の下町を経て、豊中・吹田、千里のニュータウンに出る。ここは東京からの転勤族が多いので標準語を耳にすることが多いくらいである。

ミナミからさらに南に行けば住吉、堺など庶民的な住宅地が広がる。西に行けば大阪港で住之江の競艇場、大正区の沖縄タウンがあり変化に富んでいて、最近ではこの付近にUSJが立地して久しい。

北東はといえば概ね守口、寝屋川、枚方の京阪沿線(河内)、摂津、茨木、高槻の阪急沿線(北摂)に分かれており、それぞれ土地のカラーが全く違う。

そして大阪中心部から真東に線を引くと近鉄沿線であり、ここをずっと行くと奈良県内に入り全く様相が違ってくる。当然だが北西に伸びれば尼崎、神戸に至るが、尼崎と神戸は同じ兵庫県だが全く違った都市構成を持つ大都市である。

このように大阪、と言ってもそのきわめて狭い範囲内で土地の様相が全く違っているので、一言で大阪を特徴づけるものはなかなかない。

東京には象徴的なスカイツリーや東京タワー、皇居があり、山手線の駅ごとに風情は違うとはいえ、大阪のように根底から全く違うという訳ではない。大阪は、JR新今宮と心斎橋では「異国か」と思うほど全く違うし、同じくJR葦原橋と北新地でも同様なのである。

だから、街としてどちらが面白いのか、と言われれば間違いなく大阪なのであるが、「通天閣・粉モノ・大阪弁」の三拍子ばかりであまり正しい大阪の実相はメディアで報道されない。

大阪弁にも類別すれば、河内弁、泉州弁など微妙な違いがあり、これは当然、京都弁や神戸弁や奈良弁とは異なるのだが、なにかガサツで距離感の異様に近いおっさんがチューハイを片手に一歩的にまくしたてるのがある種の大阪弁の定型詩になっているところが不可思議だ。大阪には童貞やオタクが東京と同じように存在するが、あまりそういった人種にはスポットが向けられないのはどうしてだろうか(了)。

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