いつだったか深夜にテレビをつけたらアニメが流れていた。
少年漫画っぽいのだったらほぼ見ないのだけれど、絵の感じが
少女漫画っぽかったので消さずになんとなく見ていた。
後になって知ったがちはやふるという作品であった。

話は競技かるたという種目に打ち込む高校生の物語で、一度に何話か連続して
放送されており特別編みたいな、いや特集というべきか、そういう形態で
楽しく見ていた。へえ自分もやってみたいなーと思うこともあった。

ある日、それをまた深夜に見ていたら、主人公たちが大会だか練習試合だかで
よその人達と対戦することになった。やり方を知っている先輩が教える。
前の畳に札が並べて置かれる。そしたらそれを眺めて、配置を覚える
時間があるのでその間に場所を覚えるという。
あっ。
その時、僕の内の熱が急速に冷めていくのがわかった。

上の句を詠まれ、下の句を見つけ、素早く取る。目の速さと手の速さを
極限に鍛えて一瞬の差をつめる、瞬発の競技かと僕は思っていた。
なんだ。違うじゃないか。
どんなに手を早く動かせたって、札の場所を覚えてわかってる方に勝ち目はない。
僕みたいなバカなら勝ちようがない。始まる前から勝負は決まっていた。

これは結局、記憶力がいい、頭のいい人が残るゲームだ。
暗記や記憶が得意で、つまりは勉強のよくできる人がやるゲーム。
それが得意な人間同士がぶつかり、記憶力は互角、取るべき札の場所を知るのも同時。
そこからやっと腕の速さが必要とされるのであり、記憶の容量に限界のある人間は
どうしたって優勝はできないのだと。
それに気が付いた時のむなしさといったらなかった。

・・・真っ白な長髪のおじいさんがいる。僕は昔競技かるたをやってたんだよ、なんて
ニコニコしながら話している。そこにハエが飛んでいたとする。
するとおじいさん、手をまさに瞬く間にシャッシャッと動かして僕の方に突き出してみせる。
その指と指の間で3匹のハエが捕まえられていた。
「僕ね、どうしても4つまでしか札の位置を覚えられなくてね。
どうしても勝ちあがれなかったんだよ」
そう言ってさびしそうに笑う、そんな人がいるのかもしれない。

すると将棋もそんな仕掛けがあるんじゃないか。
機転とか不意をつくとかそんなゲームじゃなくて、結局暗記した人が勝つような。
そういえば将棋の本なんかが出ているくらいである。それを開きながら一人で
パチパチ駒を打っているお爺さんなんかがドラマや映画ではある。
やっぱりそういうことかもしれない。
何かこう、ああ打たれたら必ずこう打て、でないと負ける。みたいな決まった手があって、
勝にはその対応を全部記憶してるだけなんじゃないだろうか?
なんだか、また世界からひとつ色彩が失われた感覚である。
虚しい。むなしい。