ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

岩宮恵子『生きにくい子どもたち-カウンセリング日誌から』2009・岩波現代文庫-ていねいな子どもの心理療法に学ぶ

2024年03月29日 | 子どもの臨床に学ぶ

 たぶん2014年ころのブログです

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 岩宮恵子さんの『生きにくい子どもたち-カウンセリング日誌から』(2009・岩波現代文庫)を久しぶりに再読しました。

 文庫本は2009年以来の2回目だと思うのですが、だいぶご無沙汰をしていました(岩宮さん、ごめんなさい)。

 もっとも、1997年に出た単行本も何回か読んでいるので、この本にはずいぶん勉強をさせてもらっている本です(岩宮さん、ありがとうございます)。

 本の中では、とても丁寧な心理療法の様子が、たいへんこまやかに描かれていて、すごく参考になります。

 事例のひとつは、過剰適応の小学男子のケース。

 チックとおねしょという症状で来談をしますが、箱庭をする中で、自らのこころの無意識の部分をうまく統合して、生き生きとした自分を取り戻します。

 もうひとつは、拒食症の小学女子のケース。

 食事だけなく、唾も飲みこめないという重症例で、心理療法も難航をしますが、箱庭や絵画をやる中で、治療者との信頼関係を深め、少しずつ外界との接触を増やして、ついには病いを克服します。

 最後にすばらしいかぐや姫の絵を描いてカウンセリングルームを去っていくのですが、岩宮さんは彼女が本当にかぐや姫のような世界に生きていたことを理解して治療は終結します。

 いずれも感動的なケースで、岩宮さんは多少の失敗場面も正直に提示をし、それらも含めて心理療法の全体を丁寧に細やかに検討しています。

 とても勉強になるいい本です。

 丁寧な心理療法は、読む人のこころまでを、豊かに、優しく、温かくしてくれるものだと思います。    (2014?記) 

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 2018年秋の追記です

 今日、新潟で開催される箱庭療法学会で岩宮さんの講義があるので、じーじも参加を申し込みました。

 どんなお話が聞けるか、とても楽しみです。    (2018. 10 記)

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 同日夕方の追記です

 箱庭療法学会に行ってきました。

 岩宮さんのワークショップ、よかったです。

 若手治療者の事例を検討したのですが、岩宮さんならではの見立てがいろいろ聞けて、勉強になりました。

 印象に残ったのは、直接、現実に触れられないクライエントさんの象徴的な物語についていくことの大切さ。

 事例ではアニメの世界に付き合うことで、クライエントさんが元気になる過程がすごいと思いましたし、それをわかりやすくお話してくださる岩宮さんの力量に改めで感心させられました。

 さらに勉強をしていこうと思います。     (2018. 10 記)

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 2021年秋の追記です

 岩宮さんもこの本で失敗場面をきちんと提示して、事例全体と心理療法について検討をされておられます。

 すごいことだと思います、本当に。    (2021.9記)

 

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樋口有介『11月そして12月』2009・中公文庫-カメラマン志望男子とマラソン女子との切ない恋愛物語です

2024年03月29日 | 小説を読む

 2023年3月のブログです

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 またまた有介ワールドに浸ってしまった。

 樋口有介『11月そして12月』(2009・中公文庫)。

 マラソン女子とカメラマン志望の主人公の切ない恋愛物語。

 青春だなー。

 しかし、有介さんはうまいな、と思う。

 文章も物語も…。

 七十近いじーじが読んでしまうのだから、すごい。

 じーじもこんな恋愛をしてみたかったなあ、と思ってしまう。

 「きみに会ってから、毎日練習をしていた」

 「大人になることを?」

 どう?この会話。すごいでしょう?

 二人の出会いからしてとても素敵だが、それは読んでのお楽しみ。

 物語は、不倫をしていた姉の自殺未遂や父親の浮気発覚などで、家庭内のごたごたに巻き込まれる主人公と、将来を嘱望されていたのに人間関係からマラソンをやめてしまった女の子とのさり気ない恋愛を描く。

 もっとも、有介ワールドだから、深刻なテーマのわりに、雰囲気は暗くなく、姉や父親の困ったちゃんぶりは面白いし、主人公と女の子のつきあいはまどろっこしくて、ういういしくて、楽しい。

 読んでいて楽しいし、読後感もすがすがしい。

 まさに有介ワールドだ。

 いい時間をすごせて幸せな1週間だった。    (2023.3 記)

 

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小倉清『子どものこころの世界-あなたのための児童精神科医の臨床ノート』2019・遠見書房

2024年03月28日 | 子どもの臨床に学ぶ

 2019年秋のブログです

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 小倉清さんの『子どものこころの世界-あなたのための児童精神科医の臨床ノート』(2019・遠見書房)を読みました。

 本書は小倉さんが1984年に出した『こころのせかい「私」は誰?』を改訂した本で(同書の拙い感想文もブログに書いてありますので、よかったら読んでみてください)、内容がさらにパワーアップしています。

 もちろん、基本的なところは同じで、本書でも子どものこころの成長を精神分析的な見方をもとにして、とてもていねいに説明されています。

 現場で長らく診療をされている医師なので、症例が豊富ですし、重要なケースがたくさん出てきて、それをどのように診るか、どのように理解するのか、私のような初学者にはとても勉強になります。

 例によって、今回、特に印象に残ったことを一つ、二つ。

 一つめは、防衛機制について。

 防衛機制というのは、ご存じのかたも多いと思いますが、こころの平衡を保つための心理的な作用のことで、否認や抑圧、合理化などが有名ですが、この説明がすごいです。

 これまで、いろいろなかたの説明を読んできていますが、小倉さんの説明が一番シンプルで、かつ、わかりやすいのではないでしょうか。

 文章が本当にこなれていて、読みやすいです。

 幻聴についても、投射という機制で説明をされていて、とてもよく理解ができました。

 二つめは、症例の豊富さ。

 しかも、適切な説明がなされますので、本当にびっくりしたり、感心をしたり、驚くばかりです。

 三つめは、年代ごとのこころの成長と課題について。

 とにかくていねいで、温かく、子どものことを考えられていると思います。

 近いうちに、さらに再読をしようと思いました。    (2019.9 記)

 

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藤原伊織『ひまわりの祝祭』1997・講談社-ゴッホの「ひまわり」をめぐる哀しくも強い物語

2024年03月28日 | 小説を読む

 2021年3月のブログです

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 藤原伊織さんの『ひまわりの祝祭』(1997・講談社)を久しぶりに読みました。

 おそらく20何年ぶり(藤原さん、ごめんなさい)。

 本棚の横に積み上げてあった本の山の中から発掘(?)しました。

 これがいい小説。

 おとなの哀しみを描きながら、生きることの多少のよさも描いていて、読んでいて心地よいです。

 例によって、あらすじはあえて書きませんが、ゴッホの「ひまわり」という絵をめぐる物語。

 じーじでも、ドキドキ、ハラハラする展開です。

 登場人物がまたなかなか魅力的。

 主人公だけでなく、周囲の人たちも魅力的です。

 そういえば、『海辺のカフカ』のホシノくんのような登場人物も出てきます。

 少しのユーモアと遊びごごろが、物語の哀しみを救っています。

 おとなの小説でしょうね。

 いい小説を再読できて幸せです。    (2021.3 )

 

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小倉清『こころのせかい「私」はだれ?』1984・彩古書房-「熱い」子どもの精神科医との出会いを思い出す

2024年03月27日 | 子どもの臨床に学ぶ

 たぶん2011年ころのブログです

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 小倉清さんの『こころのせかい「私」はだれ?』(1984・彩古書房)をかなり久しぶりに読みました。

 3回目くらいで、10年ぶりくらいではないでしょうか。

 1984年の本ですが、その少し前頃、家裁調査官の東京での研修で、たまたま小倉さんの講義をきく機会がありました。

 それで、感激をして、小倉さんの本をあちこちの本屋さんで探して、ようやく手に入れた記憶があります。

 小倉さんのことはその当時、じーじはまったく知らなくて(小倉さん、ごめんなさい)、しかも、小倉さんの働く関東中央病院という先進的な精神科病院のこともじーじはまったく知りませんでした。

 そんな本当に白紙の状態でお話をお聞きしたのですが、その「熱さ」と学問的な裏付けに、思わずうなってしまった記憶があります。

 また、当時はまだじーじは精神分析の勉強もあまりしておらず、今考えると、とてももったいないことをしてしまったな、と思います。

 しかし、こういう機会がのちの精神分析学会への入会に導いてくれたのかもしれません。

 さて、久しぶりに読んでみた本書、やはりいい本でした。

 特に、解説のわかりやすさと症例のすごさはびっくりです。

 例えば、わかりやすさということでは、こころの健康について、不安のコントロールや怒りのコントロール、変化への対応などの大切さを述べていて、とてもわかりやすいです。 

 症例では、現場での豊富なご経験から、こんなケースもあるのか、と驚くような症例とそれへのていねいな対応が見事です。

 今後もさらに深く学んでいきたいと思いました。             (2011?記)

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 2019年12月の追記です  

 先日、放送大学の番組を見ていたら、小倉さんが子どもの治療について述べている番組の再放送がありました。

 とてもわかりやすく、しかも、内容が深く、勉強になりました。

 やっぱりすごい先生です。      (2019.12 記)

 

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坂本直行『原野から見た山』2021・ヤマケイ文庫-直行さんの名著が山渓の文庫になりました!

2024年03月27日 | 北海道を読む

 2021年3月のブログです

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 坂本直行さんの『原野から見た山』(2021・ヤマケイ文庫)を読みました。

 単行本は1957年に出版され、1973年に茗溪堂から復刻版が出ていて、これまでじーじはこの復刻版を読んでいたのですが、大きな本でじーじのように寝っ転がって本を読む人間にはなかなか大変でした(直行さん、ごめんなさい)。

 今度は文庫本ですので、行儀の悪いじーじでも安心です。

 本は小ぶりになりましたが、印刷がとてもきれいなので、見劣りはしません。

 素敵な文庫本です。

 戦前、南十勝の牧場に開拓で入った頃のお話やそこから見た日高山脈のスケッチ、大雪山や斜里岳への山旅、そして、最後の山旅と覚悟しての石狩岳登山などのお話とスケッチなどからなります。

 当時の大雪山ののどかさはとても素敵ですし、熊を逆におどかして楽しむ直行さんは豪快です。

 斜里岳山麓に1人で暮らす農夫とのやりとりも直行さんらしくユーモラスで、とても愉快。

 そして、昭和18年の石狩岳登山。いつ兵隊に取られてもおかしくない時世の中で、生きて山に登れるのはこれが最後かもしれない、と覚悟をしての登山は胸にせまるものがあります。

 直行さんの絵のすばらしさを改めて味わうことができて、幸せ。

 宝箱のような文庫本です。      (2021.3 記)

 

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藤山直樹『続・精神分析という営み』2010・岩崎学術出版社-その2・「甘え」と秘密をめぐって

2024年03月26日 | 精神分析に学ぶ

 2022年夏のブログです

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 藤山直樹さんの『続・精神分析という営み』(2010・岩崎学術出版社)を久しぶりに再読しました。

 今回もいろいろなことが勉強になりました。

 特に今回、じーじが参考になったことは、「甘え」と秘密の関係と、自由連想についての考察。

 いずれも鋭いです。

 秘密の問題については、精神分析でいろいろな方が論じていますが、今回、藤山さんは、「はにかみ」と「甘え」いう現象を取り上げて説明をします。

 そして、おとなになるためには秘密が必要であり、それが「甘え」や「はにかみ」の世界に包まれるような関係が大切といいます(それで合っていると思うのですが、間違っていたら、ごめんなさい)。

 一方、自由連想。

 藤山さんは、自由連想は、単に自由に連想をすること、ではなく、自由に連想をしたことを語ること、に意味があるといいます。

 そして、患者さんが治療者に連想を語ることの一方、治療者は連想したことのすべてを語らず、もの想いすることの重要性を説きます。

 改めて、そう指摘をされると、本当に大事な点だな、と思います。

 まだまだ勉強不足で拙い理解だとは思いますが、さらに勉強を深めていきたいと思います。     (2022.8 記)

 

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原田マハ『丘の上の賢人-旅屋おかえり』2021・集英社文庫-ちからのあるいい小説です

2024年03月26日 | 小説を読む

 2022年3月のブログです

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 原田マハさんの『丘の上の賢人-旅屋おかえり』(2021・集英社文庫)を読む。

 小説、作り話とわかっていて読むが、いい物語で、いつの間にか涙がじわーんとなってしまう。

 じーじはいいかげん枯れはてた年寄りなので、もう水分なんてなくなってしまったかな(?)と思っていたが、不覚にもじわーんと涙が出てきてびっくりする(読んだあと、水分補給をしなければと(?)、あわててビールをたくさん呑んでしまった)。

 冗談はさておき、いい小説である。

 例によって、あらすじはあえて書かないが、依頼者にかわって旅をする主人公がすがすがしい。

 素直で、体当たりの行動が、周りの人々の感情を解きほぐしていく様子がすがすがしい。

 これは小説だ、こんな都合よくいかないだろう、こんなこと実際には起こるわけないだろう、と思いつつも、こころの深いところが温められるというか、癒されるというか…。

 やっぱり、いい小説だ、としかいいようがない。

 ここのところ、いろいろ嫌なことが重なって、こころが少しふさいでいたが、本書を読んで、こころが軽くなった。

 いい小説のちからはやはりすごいな、と再確認をする。

 ちからのある小説に出会えて、幸せだと思う。    (2022.3 記)

 

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藤山直樹『続・精神分析という営み』2010・岩崎学術出版社-その1・投影同一化と正直さをめぐって

2024年03月25日 | 精神分析に学ぶ

 たぶん2012年ころのブログです

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 藤山直樹さんの『続・精神分析という営み』(2010・岩崎学術出版社)を再読しました。

 この本も何回か読んでいるのですが、じーじの理解不足もあって、リポートをするのがなかなか難しい本で、結局、読んでみてください、いい本ですし、すごい本です、としか言えないような感じもします。

 しかし、それではブログになりませんので、とりあえず、今回、じーじが印象に残ったことを一つ、二つ、書いてみます。

 この本の中では、解釈や自由連想、遊び、反復強迫、物語など、精神分析におけるいろいろな技法や現象の問題が論じられているのですが、じーじが一番印象に残ったのは、投影同一化の問題です。

 投影同一化は精神分析では重要なテーマですが、説明がなかなか難しい現象です。

 じーじの理解も十分ではありませんが、簡単にいうと、患者さんが治療者に自己の問題を無意識に投影して、治療者が動きの取れないような心理的状態になることを言います(これで合っているのかな?)。

 そして、その困難な状況に治療者がなんとか耐えているうちに、事態が打開するというふうに、現在の精神分析では論じられています。

 そして、この本の藤山さんの論文では、いろいろな技法や現象の説明のところにかなり投影同一化が顔を出しているような気がします。

 この理論的にも、技法的にもとても難しい現象を、藤山さんは相当に苦労しつつも、しかし、なんとか打開をして、そのうえで、そこでの転移・逆転移を説明されています。

 これは初学者にはとても勉強になります。

 初学者の場合、何が起こっているのか、よくわからないままに事態が推移してしまうことが多いと思います。

 それをわかりやすく説明してもらえるのは、すごく勉強になります。

 さらに、藤山さんの、事例での正直さはすごいです。

 それは、プロセスノートについての論文でも明確ですが、わからないものをわからない、と言う正直さと勇気が、やはり大切なんだな、と考えさせられます。

 ともすると、わたしたちは格好よくしたがりがちですが、臨床では他の大家もそうですが、正直さが勝負のようです。

 さらに謙虚に学び、実践をしていこうと思います。     (2012?記)

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 2023年秋の追記です

 わからないものをわからない、と言う正直さと勇気、というところは、わからないことに耐えることの大切さ、に通じそうですね。   (2023.10 記)

 

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梨木香歩『ぐるりのこと』2010・新潮文庫-内なる悪を見つめながら世界を見るエッセイ

2024年03月25日 | 随筆を読む

 2021年春のブログです

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 梨木香歩さんのエッセイ『ぐるりのこと』(2010・新潮文庫)を久しぶりに読みました。

 10年ぶりくらいでしょうか。

 小さな本ですが、なかみは重いです。

 あちこちを旅しながら、梨木さんにはめずらしく、たまに政治にも言及します。

 ひどい政治や社会を糾弾しますが、その時に自分の中にある同様のひどさをも必ず探る姿がとても印象的です。

 人は誰でも完全な存在ではないので、自分の内にもあるひどさや悪を見つめなければ、他人の行動をあれこれ非難しても片手落ちです。

 その往復作業はとても苦しいのですが、とても意味がありそうです。

 何か、たとえが適切かどうかはわかりませんが、精神分析の作業を思い起こします。

 精神分析は、患者さんの内なる攻撃性や破壊性を二人で探る作業だと思うからです。

 内なる攻撃性や破壊性に気づかないと、人はそれを外界に投影して、敵から攻撃をされるのではと不安になります。

 ですから、まずは内なる攻撃性や破壊性を意識化することが大切になります。

 それに似た作業をはからずも梨木さんが一人でされているような印象を受けました。

 いい文章や深い文章を書くことは、自己分析や自己洞察につながるゆえんでしょう。

 素敵なエッセイに再会できて幸せです。          (2021.3 記)

 

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