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本・読書感想

【恐怖政治ができるまで】風刺小説『動物農場』 ジョージ・オーウェル

4.0

ジョージ・オーウェルの寓話形式の風刺小説『動物農場』の読書感想・レビュー記事です。

動物たちは農場から人間を追い出して支配から解放された。自由と平等の理想郷を目指して新たな農場建設に励む動物たちだが、指導者の豚たちが特権を拡充していき…。

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基本情報

タイトル動物農場
(原題:Animal Farm)
著者ジョージ・オーウェル
初出1945年
ジャンル風刺、寓話、政治、思想
キーワード支配、搾取、革命、独裁、粛清、共産主義、全体主義、権威主義
動物農場
オープンシェルフパブリッシング
¥120(2024/05/12 22:22時点)

作品概要

『動物農場』は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1945年に発表した小説。ソ連共産主義の本性、全体主義や権威主義の危険性を、寓話形式を用いて風刺している。

1943年~44年に執筆された本作の出版が叶ったのは1945年の第二次世界大戦終結後。ソ連・スターリンを批判している本作は、戦中の英露同盟関係の都合上、検閲を受けて出版できなかった(戦後は逆に反共の道具として利用される)。

舞台はイギリスの農場。動物たちが反乱を起こして農場から人間を追い出し、動物たちによる動物のための理想の農場を作ろうとするのだが、指導者の豚たちが……、というお話。

恐怖政治が出来上がっていく様が描かれています。ダークな寓話!

あらすじ

ジョーンズ氏が経営するマナー農場。
ある夜、農場の動物たちが集まった大納屋で、豚のメージャーじいさんが演説した。

──同志諸君、我々の一生は悲惨だ。
肥え太らされて屠殺されるか、働けなくなるまで過酷な労働を強いられた果てに殺される。イングランドにおいて自由な動物など存在しない。
この不幸が人間の横暴にあることは明らかだ。人間がいなくなれば我々の働きによる富は全て我々のものになる。我々がすべきことは人間の打倒だ。反乱なのだ!
人間に対する敵意を常に忘れてはならない!人間の甘言や取引に耳を貸してはならない!人間の悪習を真似してはならない!
全ての人間は敵だ!全ての動物は同志だ!全ての動物は平等だ!
団結し共に闘おう!

演説を聴いて動物たちは熱狂した。
メージャーじいさんは3日後に死んだ。その跡を継いで皆を指導したのは豚たちだった。その中で頭角を表したのが、スノーボールとナポレオンという2頭の若い豚だった。
豚たちは反乱を実現すべく密かに準備を進めていった。

半年後、反乱はいくつかの偶然が重なって思いがけず達成された。
農場の労働者たちの怠慢で餌を与えられなかった動物たちの怒りが爆発したのだ。
動物たちは人間に一斉に襲いかかり、彼らをあっという間に農場から追い出した。

反乱の成功に動物たちは歓喜した。
人間がいなくなった農場で、動物たちによる動物のための新たな生活が始まろうとしていた。
その矢先、雌牛たちが悲鳴をあげた。

雌牛たちは、もう1日以上もミルクを搾られていなかったのだ。
豚たちは器用に乳を搾ってバケツ5杯にミルクがなみなみと集まった。
そのミルクを見て鶏が言った「そのミルクはどうするの?」、すると豚が答えた「ミルクのことは気にするな、同志諸君!私たちもすぐに行く、さあ干し草の収穫だ!」

収穫が終わって戻ってみるとミルクは消えていた…。

傾向・雰囲気

おもしろさ
(知性、好奇心)
4.0
たのしさ
(娯楽、直感)
2.0
コミカル
(陽気、軽快)
1.0
シリアス
陰鬱、厳重
4.0
よみやすさ
(文体・構成)
4.0
よみごたえ
(文量・濃さ)
3.0

面白いけどシリアスなお話です😱😭
大人向けではありますが、さほど長くなく(中短編程度の文章量)、表現も平易なので読みやすいと思います。

感想・考察

ネタバレを含んでいることがあります、未読の方はご注意ください。

『1984年』の前日譚

『動物農場』(1945年)は、先に読んでいた同著者によるSF小説『1984年』(1949年)の前日譚のようだった。

『動物農場』では恐怖政治の成り立ちが、『1984年』では完成され洗練された全体主義による最凶の恐怖政治が描かれていた。

現実世界は『1984年』のように支配と搾取の構造が確立された世界だ。詭弁ではない善良や高尚に活路は見えない。どうしようもないような気がしてならない。

一九八四年
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特定の思想や為政者に限らない

作中で描かれる恐怖政治の本質は、特定の思想や為政者に限らない。人間社会の基本構造だ。

2023年現在の日本でも同じことが当たり前に行われている。時々の社会の豊かさによって表向きの装いが異なるだけで、中身の性質は同じだ。

無知と無理解の信任

例えば、名前と単純なスローガンを連呼するだけの選挙カーで得票数が上がること。

そのような候補者・政党に投票する馬鹿(羊)がいて、そういう馬鹿につけ込む悪人(豚)がいる。

著名なだけの候補者、実現性のない公約、同調圧力による組織票なども同様だ。

権力の腐敗

政府(豚)や司法(犬)が腐敗していること。

政治家の不正が、警察官の汚職が、公正かつ厳正に裁かれることはない。事件が発覚しても情報は隠蔽され全容は公開されない。

大衆(羊)は一時憤慨するだけで、数週間~数ヶ月のうちにほとぼりが冷めてすっかり忘れ去る。

あなたはどんな畜生?

現代社会においても、国民は国家の主権者ではなく、一部の権力者とその手先に隷属し搾取される家畜なのが実情だ。

  • 豚:政治家、資本家、聖職者
    知性と悪性を併せ持つ強欲支配モンスター。偽り欺き暴利を貪る。
  • 犬:役人、警察、司法
    豚の手先となり己の利を図る卑屈なゴロツキ。暴力装置。
  • 羊:大衆、信奉者
    盲信により悪政を支える圧倒的多数の衆愚。家畜化された人。
  • 馬:真人間、常識人
    愚直な少数者。知性も力も中途半端。事なかれ思考。
  • ロバ:知識人、善人
    極少数者。善良な場合、悲観と諦観の末、虚無に至る。世捨て人。
  • 鶏:活動家、抗議者
    意志はあれど実力と結果を伴わない。非力で幼稚な反抗者。
  • 猫:フリーライダー
    貢献せず利益だけ掠め取るタダ乗りの盗人。器用で狡猾だが矮小で卑劣。

豚が企み、犬が加担し、羊が従属する。馬やロバや鶏は無力だ。

自分がどのような存在か、傾向を有しているか、考えてみるのも面白い🙄🤔😡😭🙁😑💀

現代の社会は、少数の高知能な権力者と多数の低知能な大衆で構成される農耕社会を基礎としている。SFじみた技術革新やド派手な突然変異でも起きないと、支配と搾取の構造は不可避に思える。

川端康雄のコラム

三鷹の森ジブリ美術館のサイトに掲載されているアニメ映画版『動物農場』に関する川端康雄氏のコラムが面白かった(映画DVDの特典でもあるらしい)。

原作小説の出版経緯、アニメ映画版の制作、冷戦下の反共心理戦のため如何に改変され利用されたか、映画を観た人々の意外な解釈など、歴史を俯瞰した文脈で解説されていて興味深かった。

コラムの最後は、創作(映画)が持つ影響力を好意的・楽観的に評価して締めくくられている。『動物農場』と『1984年』が僕にもたらした印象は悲観だ。こういう視点も多少は必要かもしれない。

まとめ

4.0

『動物農場』面白かったです。

寓意が持つ柔軟性のおかげなのか、自由にあれこれ怖い想像もできて、ある種の楽しさ成分もありました。読後は本当にげっそりさせられた『1984年』ほどの精神衛生的などぎつさはないと思います。

スターリン独裁によるソ連の社会主義(共産主義)と西側資本主義の本性がホラーでした。一番怖くて印象に残ったのは、作中で描かれる暴虐と同様の権力構造が現代の日本社会にも普通に存在している点でした。

特に悪い意味ではない悲観・ネガティブな思考をするきっかけに良い作品かもしれません。

無料or安く読む方法

『動物農場』は、著作権保護期間が満了したパブリックドメイン作品です。2023年3月現在、有志の日本語訳が公開されています。

ブラウザ(html)で無料、もしくはAmazon・Apple Books・Google Playの電子書籍で安く(99円~100円)読むことができます。

ブラウザ版(無料)

前書きも面白いのでおすすめです。

Amazon Kindle版

動物農場
オープンシェルフパブリッシング
¥120(2024/05/12 22:22時点)

Google Play版

Apple Books版

原語版(英語)

その他の購読方法

KADOKAWA

早川書房

2023年3月確認時、Audible版が聴き放題対象でした。

岩波書店

筑摩書房

グーテンベルク21

2023年3月確認時、『Kindle unlimited』の読み放題対象でした。

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