ほわみ・わーるど

超短編小説会にて短編小説を2013年より書き始めました。
これからも続けていきたいです。

牧子

2021-02-20 07:50:44 | 創作
隆子の入れられた部屋には、ほかに3人の女がいた。
隆子の前に陣取る老婆は、90才ぐらいで、顔は細くいかにもばあさん顔で、
あったことはないが写真で見る、夫のばあさんの顔そっくりである。

隣は60代の人あしらいのうまそうな女性で、スナックのママさんでもしてるのかと思ったら、
やはり蕎麦屋のおかみさんだったとかいう。

斜め前の女性は80代くらいの老婆で、アナウンサーのようなよく通る声で話す人で、
この中では一番とっつきにくそうだと思った。仮に牧子と呼ぼう。

牧子は声量や雰囲気で80才くらいかのように見えたが、
実は90才過ぎていると隣のママさんが教えてくれた。

牧子さんは普段一人暮らしなせいか、おしゃべりが好きなようで、
話し出すといくらでも話題はつきない。世界征服の話だって、発酵人間の噂だってしそうだ。

「私ね、初恋の人とは結婚できなかったの。彼は通訳で、英語が堪能だったから、
アメリカへ行くっていうので、そんな人とはダメだって反対されてね。
主人とは京都にいる時に出会って一目ぼれだったの。

 <え、戦後の話?>

 もちろんよ。私京都だったから戦中は爆撃もなくて、怖い思いなんて味わったことない。
主人は映画関係の会社に勤めていたから、京都のMホテルで、
有名人もたくさん来て立派な結婚式だったの。

 <きれいだったんでしょうね>牧子さんの話は鮮やかで目に浮かぶようだ。

 テレビが出てきて、映画産業も廃れて、東京で暮らしていたけど、
主人が起業して失敗したから、私が実家の援助で建てた東京の家を、バブルの時売って
こっちに来たのよ。こっちに来てからは、私主人に冷たくしちゃった。
どうして離婚しないの?ってきかれたけど、あんなにりっぱな結婚式したしね・・・
主人は肺がんで死んだわ。ピースを何本も吸ったからね。

<肺がんてずいぶん苦しいんでしょ>
私は肺がんで死んだ同級生のデスマスクを思い出す。

場所がよかったんじゃないかしら。私あまり行かなかった・・・」

 牧子さんの話はつきない。歯も90才を越したというのに24本もあるという。
年取ったら小ぎれいにして、ボケないように鍛えておくことが大事だなと思う。
アホ毛が伸びてきた。あまりにもひどいので、見た人もかえって何も言わない。
10月、11月にはカットしたけど、しばらくほおっておいてしまった。切っておけばよかった。
(2021超短編小説会祭り投稿作品)

【投稿者: 1: howame】
あとがき

やっとかけた。バレバレかな。わかっても言わないで(笑)



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