武弘・Takehiroの部屋

万物は流転する 日一日の命
“生涯一記者”は あらゆる分野で 真実を追求する

文化大革命(3)

2024年03月09日 02時41分56秒 | 戯曲・『文化大革命』
第二幕 毛沢東、文化大革命を発動

 第一場(11月上旬。 上海市党委員会の一室、毛沢東のモノローグ)

毛沢東 「つい三週間ほど前、北京にいた時がウソのように、わしは今、この上海に来て生き返ったような気がする。 ここには、彭真らのうるさい監視の目もなければ、尊大な劉少奇の顔を見ることもない。ここには、わしに心から忠実な張春橋や、姚文元ら可愛い連中が沢山いる。

 しかも、林彪の部隊がわしを守ってくれているし、黄永勝や陶鋳のオルグにも成功した。 あとはわしに敵対する憎っくき羅瑞卿を、人民解放軍から追放してやればいいが、これは林彪が上手くやってくれるだろう。 近いうちに、あの薄のろを杭州にでもおびき出して、逮捕してやればいいのだ。そこの所は上手くいくだろう。

 劉少奇がもうすぐ南西アジアを訪問するから、その時を見計らって、わしが軍事クーデタを起こそうとしているという噂を流してやれば、羅瑞卿の頓馬は一大事とばかりに、こちらの方にすっ飛んでくるだろう。そこで、あいつは一巻の終わりということだ。

 林彪があいつを逮捕し、総参謀長を首にしてやればいい。なにせ、あの二人は犬猿の仲だからな。 林彪はこの時とばかりに羅瑞卿を痛めつけて、二度と立ち上がれないようにしてやるだろう。そして、総参謀長の後任には、わしの味方になった黄永勝を当てればいいのだ」(そこに、江青と姚文元が入ってくる)

江青 「お待たせしました。 姚文元同志が、呉含の歴史劇を徹底的に批判した論文を完成しました」

姚文元 「主席や江青同志のご指示どおり、完璧なものを書いたと自負しています。ご覧下さい」(姚文元、論文を毛沢東に手渡す。 毛沢東、暫くの間、論文を読む)

毛沢東 「おお、良くできている。わしが指示したとおり見事に出来上がっている。 君は素晴らしく文筆の立つ男だな。この鋭い破壊的な論文は、北京に巣くうムジナどもの心臓を一突きにしてくれるだろう。 良くやった、この半年以上の君の努力は大変なものだったな。有難う」

姚文元 「主席から、そのようなお誉めの言葉を頂くとは、私にとって一生の光栄です。有難うございます」

毛沢東 「呉含の『海瑞、官をやめる』には、この五年間、わしは地獄の苦しみを味わってきた。 あれをなんとしても、叩きのめしてやろうと努力してきたが、逆にこちらが暴虐な皇帝に見立てられ、心臓にチクチクと針を刺されてきたのだ。

 この論文の完成で、わしもようやく立ち直ることができる。北京のムジナどもに、目に物見せてやるぞ」

姚文元 「主席、この論文は『文匯報』に載せますが、北京には、事前に予告しておかなくていいのでしょうか」

毛沢東 「そんな必要はない。 姚文元、これは単なる論文ではない。これは、北京に対する“宣戦布告”なのだ。宣戦布告なら大胆に、なんの予告もなしにやってやる方が、敵に与える衝撃が一段と強く、大きいものになるのだ。

 『海瑞、官をやめる』が毒草ならば、それを支持してきた北京の連中は、毒グモみたいな奴らだ。 あいつらを、この論文の一撃で叩きのめしてやる以外にない!」

姚文元 「分かりました。それでは何の通告もなしに、この十日をメドに『文匯報』にこれを掲載しましょう」

毛沢東 「そうしてくれ。 江青、姚文元、いよいよ大戦争が始まるのだぞ。もうすぐ七十二歳になるわしにとって、これが最後の命懸けの戦争になるだろう。 江青、お前には、この前言っておいたが、これは“文化大革命”という戦争なのだ。中国を資本主義に引きずり戻そうという党内の修正主義、反動分子に対する絶対に妥協のできない戦いなのだ。

 この戦争に、わしは中国の将来と、自分自身の命運をかける。 そして、文化大革命の大嵐を、中国の隅々にまで、八億人民の一人一人の心の中にまで吹き込んでやるのだ」

姚文元 「文化大革命ですか・・・なんと壮大な響きを持った言葉でしょう。身の引き締まるような思いがします」

毛沢東 「そうだろう。しかも、その大革命の突破口になるのが、君の書いたこの論文なのだ。 この論文こそ、文化大革命の歴史的な幕開けとなる“大砲”なのだ」

江青 「素晴らしい。主席の話しを聴いていると、まるで偉大な詩人が天に届けとばかり、唄を歌っているように聞こえます。 私などは、その唄の翼に乗せられて、中国大陸の遠い彼方へ飛ばされていくような気がします」

毛沢東 「これは唄でも詩でもない。生きるか死ぬか、食うか食われるかの、激烈な革命戦争なのだ」

江青 「そう、革命戦争ですわね。 私も林彪将軍の推挙により、解放軍の中で呉含を攻撃する工作を始めましたが、極めて順調にいっています」

毛沢東 「よろしい。 林彪こそ、われわれにとって最も力強い味方だ。彼の軍事力さえあれば、われわれは最後に必ず勝つことができるだろう。戦いを決するのは武力だ。君達も、このことはしっかりと頭に叩き込んでおけよ。 それでは、姚文元、君のその歴史的な論文の発表を待っているぞ」

姚文元 「ご安心下さい。 張春橋同志らにも伝えたあと、見事に“大砲”を撃ち放してみせます。それでは、失礼します」(姚文元、退場)

 

第二場(11月下旬。 北京・中南海にある劉少奇の家。劉少奇、登小平、彭真、羅瑞卿)

彭真 「実にけしからん。 姚文元とかいう、名前も聞いたことがない三流の評論家が、上海で『文匯報』という新聞に、呉含批判の論文を書いた。 そうしたら、上海の党機関紙『解放日報』までが、こちらになんの連絡も予告もなしに、その論文を掲載してしまった。

 まったく、上海の党委員会は北京をどう思っているんだ! 党中央を無視するなんて、人を馬鹿にするにも程があるというもんだ。 けしからん、実にけしからん!」

登小平 「しかし、彭真同志、これにはどうも、相当根深い背景があるようだ。 君が憤慨する気持はよく分かるが、書記処でいろいろ調べたところ、どうやら毛沢東が裏で指示した疑いが非常に強いのだ」

劉少奇 「それは本当か」

彭真 「まさか、あの老いぼれが・・・」

登小平 「いや、どうもそのようだ。 上海の党委員会は始め、われわれに予告してから姚文元の論文を発表するつもりだったらしい。そうすれば一応筋道が立つし、角が立たなくて済む。 ところが、上海がそうしようと思っていた所に、誰かが北京にはなんの予告もせずに、一方的に発表してしまえと、ねじ込んだらしい。

 そんなことができるのは、いま上海にいる毛沢東しか考えられない。 張春橋クラスの人間では、そんな無茶なことができるはずがない。つまりこれは、北京の党中央に対する、毛沢東の宣戦布告と受け取って間違いないようだ」

劉少奇 「そうか、毛沢東の差し金か」

彭真 「畜生、あの老いぼれだったら、やりかねないことだ。だから、あの“左翼老衰病”の老人を北京に閉じ込めておけば良かったのに・・・残念だ。 それにしても、三流の評論家が、いやしくも北京の副市長である呉含に対して、悪口雑言の限りを並べ立てたのを、黙って見過ごすわけにはいかない。

 呉含の歴史劇を“毒草”だとののしり、文学の衣をかぶって、毛主席の大躍進政策を攻撃するものだなどと、言いたい放題ではないか。 あの論文こそ正に毒草だ。このまま黙っていれば、北京でも、どんな毒草がはびこってくるか分からない。 なんとかして、びしっとした対抗措置を取らなければならん」

劉少奇 「『海瑞、官をやめる』の論争が起きてしまったことを、今となっては押しつぶすことはできない。毛沢東は必ず、この論争を政治問題化しようとしてくるだろう。 だから、われわれとしては、これを学術問題の枠の中に閉じ込めて、政治問題に決して広げないように注意することだ。

 この論争が政治問題にまで発展したら、党内の混乱は一層大きなものになってくる。そうなったら、それこそ毛沢東の思う壷となってしまうからな」

羅瑞卿 「そのとおりだ。ここはなんとかして、混乱を大きくしないようにしなければ・・・彭真同志はいま、『文化革命五人小組』の組長をやっておられるから、何かいい手を打つ考えはないだろうか」

彭真 「分かった。海瑞論争を学術問題に限ってしまう、いい方法を考えよう。小組の中に、そのための委員会みたいなものを創るのもいいと思うが。 それはともかく、あの老いぼれが本気でわれわれに対抗してくるとなると、これは油断できない。

 この前の拡大会議の毛沢東を見ていると、墓に片足を突っ込んだ気違い老人のように思えたが、なにしろ、あの老いぼれは人民大衆の中では、依然として権威や名声が高いからな。用心しなくてはいけない」

登小平 「彭真同志の言うとおりだ。毛沢東との戦いを党内に限定してしまえば、われわれの方が、今や多数派だから有利だ。 しかし、戦いが党の外にまで発展するようだと、何が起きるか分からない。林彪が向うについているし、一般大衆の動きも予測ができない。

 年が明けると、劉主席はパキスタンやビルマ、アフガニスタンをゆっくりと訪問されることになっているから、その間は、特に十分に注意しなければならないと思うが・・・」

羅瑞卿 「その点は、任せておいて欲しい。劉主席が外国に行っている間に、もしものことがあるようなら、私の息のかかった解放軍の力で、不穏な動きは立ち所に鎮めてみせましょう。 なに、あの青臭い林彪よりは、私の方が今や、解放軍の中では信望を集めていますよ。そのうち、林彪を必ず解放軍から追っ払ってやる」

劉少奇 「それを聞いて安心した。羅瑞卿同志が解放軍の中で頑張っている限り、林彪も馬鹿な真似はできないはずだ。 いずれ、しかるべき党の正式会議で、林彪を国防部長から解任し、その後を羅瑞卿同志にお願いしたいと思っている」

登小平 「とにかく、目の上の“たんこぶ”は林彪だ。あの男は、人民戦争万歳などと、毛沢東思想を解放軍の中で躍起になって宣伝している。 あんな古臭い思想を振りかざしたって、ベトナムを侵略しているアメリカ帝国主義に勝てるわけがない。

 もっと、解放軍の装備の近代化や、実戦能力を高めていかなければならないのだ。 それを、林彪の奴、自分が毛沢東の後継者になりたいのか、古臭い紅軍精神を毛沢東思想に名を借りて、解放軍の中で押し売りしているのだ。あいつの考えこそ“張り子の虎”だよ。

 まったく、危険極まりないと言ったらありゃしない。『解放軍報』は今や、毛沢東思想の宣伝道具に成り下がった感じだ。 羅瑞卿同志、われわれはあなたを応援していくから、しっかり頼みますぞ」

羅瑞卿 「分かりました。 林彪の息のかかった第四野戦軍系の連中は、頭の弱い者が多い。あいつらは今、林彪を盛り上げていい気になっているが、そのうちに機会があったら、思い切り叩きのめしてやりますよ。

 毛沢東思想だけでは、アメリカとの戦争には勝てません。登総書記が言われるとおり、解放軍の装備の近代化や、ソ連軍との協力を図っていかなければ駄目です。 劉主席らのお陰で、総参謀長になれた私です。全力を尽くして、林彪の追放と軍の近代化を図っていきますので、まあ、見ていて下さい」

 

第三場(1966年3月。 北京・中南海の羅瑞卿の家)

羅瑞卿 「劉主席が外国訪問に出発されると、この北京は、なにか主人のいない街のようになってしまったな。留守を預かるわれわれがしっかりしていないと、何が起きるかしれたものではない。 我が家でじっとしているだけでも、ソワソワしてくるから困ったものだ」(そこに、北京軍区政治委員の劉仁があわただしく入ってくる)

劉仁 「総参謀長、大変です!」

羅瑞卿 「どうしたというのだ、劉仁同志。 随分あわてているようだが、何かあったのか」

劉仁 「大変な情報を手に入れましたぞ。 毛主席と江青の女狐が、杭州で軍事クーデタの緊急秘密会議を招集しているというのです」

羅瑞卿 「なに! それは本当か」

劉仁 「本当のようです。私の部下が先程、知らせてきたばかりです。確度は非常に高いと思いますが」(その時、電話がけたたましく鳴る。羅瑞卿がすぐに受話器を取る)

羅瑞卿 「うん、私だ・・・なに! そうか。いま劉仁同志も、それを知らせにここへ来ているところだ。 そうか・・・分かった。あとは私が上手くやるから、君は他の幹部にも知らせといてくれ。それじゃ。(羅瑞卿、受話器を置く)

 王尚栄作戦部長がいま、同じ情報を知らせてくれた。とんでもないことになったぞ。 劉主席が国外に出かけた時を狙って、軍事クーデタ会議を招集するとは、まったく悪らつで陰険な奴らだ。 私はこれから、すぐに杭州へ行く。軍事会議の開催を未然に防がねばならん。

 劉仁同志、君はこのことを登総書記を始め、党幹部の皆に知らせて欲しい。事は急を要する。一刻も遅れてはならない。 頼みますぞ、劉仁同志」

劉仁 「承知しました。 総参謀長もどうかご無事で、あいつらの陰謀を徹底的に粉砕して下さい。そうしてやれば、あの連中の勢力も木っ端微塵となります。 ご健闘をお祈りします。それでは」(劉仁、退場)

 

第四場(3月。杭州にある林彪国防部長の司令室。 銃を持った数人の兵士が、羅瑞卿を拘引して入ってくる)

羅瑞卿 「誰が私を拉致せよと言ったのだ! 言え! 私は人民解放軍総参謀長の羅瑞卿だぞ!(そこに、林彪が現われる) おっ、林彪部長ではないか。あなたなのか、私を拉致したのは」

林彪 「そうだ。この頓馬の間抜け野郎! お前を反逆罪で逮捕してやる。毛沢東主席に対する反逆罪だ」

羅瑞卿 「なんだと、どうして私が反逆罪だというのだ」

林彪 「お前は先月から、毛主席に対する軍事クーデタを起こそうと企てていたではないか。私の諜報機関がそれをつかんだのだ」

羅瑞卿 「出たら目を言うな! 私が毛主席に対して、クーデタを起こすなどという証拠があるのか! 軍事クーデタを起こそうとしているのは、毛主席の方ではないか」

林彪 「ウワッハッハッハッ、馬鹿者め。 毛主席がいつ、クーデタを起こそうとしていると言うんだ。そんなものは真っ赤なウソだ。 お前はニセの情報に騙されて、北京からはるばる杭州にまで飛んできたのか。“飛んで火に入る夏の虫”とは、お前のことだ。この馬鹿者め」

羅瑞卿 「それでは毛主席がここで、軍事クーデタの緊急会議を招集しているというのは、ウソだったのか」

林彪 「当たり前だ。毛主席はここにはおらん。 根も葉もない噂を信じてここに来るとは、お前もよっぽどの馬鹿のタワケだな」

羅瑞卿 「畜生、騙しやがったな。悪党! 貴様がニセの情報を流したんだな」

林彪 「そんなことは知るもんか。騙される奴の方が悪いんだ。 さあ、お前を逮捕して総参謀長をクビにしてやるから、この書類にサインしろ!」

羅瑞卿 「誰の許可を得て、私を逮捕するのだ! 劉主席の許可を得ているのか。党中央だって、そんなことは決めていないぞ。勝手な真似はさせるもんか!」

林彪 「劉主席の許可などは要らん。毛主席の許可を得ているのだ。 さあ、じたばたせずに、この書類にサインしろ。そうすれば、お前は目出たく総参謀長を解任されるのだ」

羅瑞卿 「嫌だ! 誰がそんな書類にサインなんかするもんか!」

林彪 「往生際の悪い奴だな、この朴念仁め。大人しくサインするなら、手荒なことはしない。 お前がいくらもがいても、劉主席が軍隊を率いて救出に来ない限り、お前は助からんのだ。 その劉主席は今頃、パキスタンやアフガニスタンを、王光美と一緒にのんべんだらりと回っているのだ。 さあ、観念して、この書類にサインしろ。言うことをきかないと、ひどい目にあうぞ!」

羅瑞卿 「くそっ、悪党! 人でなし! 誰がサインなんかするものか。 お前みたいな極悪人はそのうち、地獄の底に叩き落としてやる!」

林彪 「大人しくしていれば、いい気になりやがって。こいつは、犬のように吠えるじゃないか。 おい、お前達。毛主席に反逆し、毛主席のお命を奪おうとしている、この大罪人を許すな! わが中国人民と人民解放軍に敵対する、この裏切り者を徹底的に懲らしめて、この書類にサインさせろ!」(兵士達、羅瑞卿を椅子に力ずくで座らせ、羅を殴打し始める)

羅瑞卿 「何をするか、止めろ! 悪党は林彪の方だ! お前こそ解放軍の恥だ、国防部長を止めろ! ああ・・・殺すなら殺せ!、殺せーっ!」(羅瑞卿、兵士達に殴打され続け、力尽きてテーブルにうつ伏す。 兵士達が、羅の右手にペンを持たせ、書類に無理やりサインさせる。その後、兵士達、羅を抱え上げて退場)

林彪 「ふん、上手くいったぞ。邪魔者を一人片づけた。 これで、わが人民解放軍は、完全に俺のものになったと同じだ。あとは『解放軍報』などを通じて、文化大革命を声高に推進し、毛主席の後継者たる俺の地位を不動のものにしていけばいいのだ。 朝日が勢い良く昇るように、俺の権力と名声は、この中国大陸に輝かしく広まっていくのだ」


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