MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2024 保守とリベラルの逆転が起こっているという話

2021年11月24日 | 国際・政治


 11月30日に投開票予定の立憲民主党の代表選挙。1週間前の11月23日には福岡市で4候補者による討論会が行われた模様です。同23日のTBSニュースによれば、討論会において会場から「立憲民主党はなぜ若者の支持が低いのか」と率直な質問が飛び、各候補者は次のように回答したとのことです。

〇逢坂誠二衆院議員
 「教育に力を入れているのは立憲民主党なんだっていう旗印を明確にして、若者の味方の政策をやるんだ。わかってもらえれば、こちらを振り向いてもらえるんじゃないか」
〇小川淳也衆院議員
 「将来に彼らの世代に対して見通しをもたらしてやることができるのか、これは大人社会が総力を挙げて一緒に悩み、考え、そして解決策を見いだしていかなければならない。責任のある問題だ」
〇泉健太政調会長
 「自民党とか維新の方が改革政党に見えるって言うわけですよ。国民のために働いている、若者のために働いているという姿を、私はやっぱり見せていくべきだ」
〇西村智奈美衆院議員
 「必要なのは、若い人たちがこれから社会に出て行ったときに、きちんと働きに応じた待遇が受けられるというようなこと。そして、それを作っていくこと」

 4人の候補者は、(こうして)揃って若者に自党の政策をアピールしていく必要性を強調したようですが、「言葉を尽くせばわかってもらえる」「国民のために働いている姿を見せる」というだけで若者の支持を得よう(得られる)というのは、自党の置かれた状況に対する認識が甘すぎると感じるのは私だけでしょうか。

 「シルバー民主主義」というのは昨今よく聞く言葉ですが、昭和世代の既得権益の保全し、現状を維持するために将来にツケを残すこともいとわないその政策の数々に、疑問を抱く若者が多くても無理のないことでしょう。労働組合の」闘争方針や左派的なイデオロギー、高齢世代の要求などにガチガチに固められてしまっている彼ら候補者の言葉が、簡単に若者たちの胸に届くとは思えません。

 作家の橘玲(たちばな・あきら)氏は、若者向けの雑誌として知られる『週刊プレイボーイ』誌(11月15日号)に連載中の自身のコラムに、「日本社会における「リベラル」は高齢者の既得権を守ること」と題する興味深い一文を掲載しています。

 「政権交代」を目指した今回の衆議院議員選挙で議席増確実との前評判が高かった立憲民主党は逆に選挙前を下回り、敗北の責任をとって枝野代表が辞任する事態に陥った。出口調査からわかるのは、前回(17年)の選挙と比べて、立民が無党派層の投票を減らしたのに対し(30.9%から24.6%)、8.5%だった日本維新の会が20.9%へと無党派層から支持されたことだと橘氏はこのコラムに綴っています。

 選挙前は、「自助」を求める菅政権への反発から、(与党も含め)どの政党も「公助(分配)」を強調したが、こうした「ばらまき」から一線を画した維新が議席4倍増と躍進したのは極めて示唆的だというのが氏の認識です。

 より興味深いのは、年代別の投票傾向で18~19歳は36.3%が自民に投票し、立民の17.2%の倍となったこと。20代も36.7%が自民に投票しており、安倍政権以降、一貫して若者から安定した支持を得ていることだということだと氏は言います。一方の立憲民主党は60代の31.4%、70代の35.6%が投票し、自民(60代30.5%、70代31.6%)を上回っているが、10~30代ではいずれも20%に達していない。この結果をひと言でいうなら、「自民は若者の党」「立民は高齢者の党」だということです。

 保守主義とは、本来「今日は昨日と同じで、明日は今日と同じ」「文化や伝統にはそれが生まれた必然(価値)があるのだから、むやみに変えてはならない」と考えるもの。それに対してリベラル(進歩主義)は、「今日は昨日よりもよく、明日は今日よりもっとよくならなければならない」という思想で、伝統を旧弊と否定し、大胆な改革によって「よりよい社会」「よりよい未来」を目指すもの(であるはず)だと氏はしています。

 歴史を振り返っても、既得権を守りたい高齢者は保守主義になり、失うもののない若者は改革を求めてきた。ところが日本では、「リベラル」を自称する政党が高齢者から支持され、「保守」とされる政党に若者が投票する逆転が起きている。その意味するところは、若者にとっての「改革(リベラル)政党」は維新や自民であり、立民は「保守政党」だというのがこのコラムにおける氏の見解です。

 このような不思議な現象がなぜ起こっているのか。氏によれば、(それは)日本社会における「リベラル」は、高齢者の既得権を守ることだと考えるとすっきり理解できるということです。

 立憲民主党の支持母体である連合は労働者の団体ではなく、(中高年)正社員の「身分」を守るための組織にほかならない。だからこそ、正規と非正規の「身分格差」をなくそうとする「働き方改革」に頑強に抵抗し、「(正社員の)雇用を守れ」と大騒ぎしたと氏は話しています。

 今や、新聞・テレビの読者・視聴者の大半が団塊の世代の後期高齢者層となっている。こうしたマスメディアが「リベラル」を自称し、「ネオリベ」的な改革に反対するのも、高齢者の利益に反する主張ができないからだというのが氏の指摘するところです。

 日本の政治における「保守」と「リベラル」の逆転は安倍政権の頃から既に指摘されていた。しかし、いまだに自分を「リベラル」だと錯覚している人たちはこの事実を認めることができず、「(自称)リベラル政党」として若者から見捨てられているという事実を、何かの「陰謀」だと信じているようだと氏はこのコラムに記しています。

 今回の選挙で野党共闘の示した共通政策の多くが、既得権益を守るために(自分たち)将来世代を犠牲にするものと若者たちに映ったとしても、それは若者たちが彼らの主張を理解できなかったからという訳ではないでしょう。

 自分たちの理想や言葉は既に彼らの心には届かない。そうした現実を真剣に受け止めない限り、(もしかしたら)立憲民主党を中心とした野党共闘に未来は無いのかもしれません。



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