MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2026 まずは既存の「配分」を見直してはどうか

2021年11月26日 | 社会・経済


 「政権選択選挙」と銘打ちながら、結局のところ、与野党こぞって(目の前の)「分配」を競い合った観のある今回の衆議院議員選挙。ふたを開ければ、自民党が(なんとか)安定多数の261議席を獲得し、政権与党として(まずは)ほっと一息ついたというところでしょうか。

 それにしても、今回の選挙で「30兆円の経済対策」「18歳以下一律10万円の給付」だの、「消費税率の半減」「所得1000万円まで所得税を0パーセント」などといった(ずいぶんと)気前の良い経済対策が並べられたことで、「分配」とはあたかも「国が借金をして国民にお金を配ること」と錯覚してしまう人も多くなったのではないかと感じます。

 ただ単純に国債を発行して一律にお金を配ったり、年齢で区切ってクーポン券やポイントを渡しても、それだけでは(持続可能な社会を構築するという)所期の目的を果たし得ないことは子供でも判ります。

 言うまでもなく「分配」とは、「みんなで儲けた富をみんなで分け合う」こと。社会分業の中で得られた成果物を、社会システムが維持できるような形で利用していくための、極めてテクニカルな方法といえるでしょう。

 新自由主義的な経済政策の下、(洋の東西を問わず)格差の拡大が指摘される昨今ですが、コロナが追い打ちをかける日本の現状に合った「分配」の手法とは一体どうあるべきなのか。

 コロナで傷ついた日本経済のカンフル剤としてにわかに注目されるようになったこの「分配」政策に関し、ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長の望月優大(もちづき・ひろき)氏が10月26日のNewsweek日本版に「分配か成長か。そもそも日本の再分配は「逆機能」している」と題する興味深い一文を寄せているので、ここで紹介しておきたいと思います。

 岸田文雄首相が自民党総裁選挙に臨むに当たり、看板政策として打ち出したのが「新しい資本主義」。新自由主義を見直し成長と分配の好循環」を実現するとしているが、政権スタート直後から金融所得課税の強化でよろよろしたり、「分配」が先か「成長」が先かとふらふらしたりと、どんな社会をどれだけの覚悟で実現するつもりなのかがかなり不透明だと望月氏はこの論考に綴っています。

 しかし、現実を見れば、問題の大前提として日本政府は既に一定程度(もしかしたらそれ以上)の「分配」をしている。正確に言えば「再分配」だが、日本の問題は、そもそもそれが再分配としてうまく機能していないことにあるのではないかというのが氏の認識です。

 例えば、日本の税制や社会保障制度は、子育てや女性が働くことに「罰」を科すような状態になっており、「機能不全」どころか「逆機能」として働いていると氏は言います。

 公的な社会給付が低所得層よりも高所得層に対して厚く、現役世代に対して特に少ないという「給付」の面の問題や、累進性のある個人所得課税を減らし、代わりに逆進性の高い社会保険料負担や消費課税を増やしてきた「負担」の面での問題も大きいということです。

 要するに、日本では給付と負担という再分配の両面に問題があり、政府がそれなりの規模で再分配をしていながら、低所得層の人々が実際に使えるお金(可処分所得)を増やせていないと氏は現状を説明しています。

 特に現役世代の貧困や不平等を減らすという意味において、日本の政策は機能できていないと氏は言います。市場を通じた所得格差の拡大は世界的な現象だが、このまま放っておけば格差がどんどん拡大することは多くの経済理論が証明している。逆に言えば、不平等を是正するために政府が果たす役割も、それにつれて(どんどん)大きくなっているというのが氏の見解です。

 こうした状況に対し政治は、どんな社会を目指すのか、そのためにどんな再分配施策を実行するかだけでなく、それらを通じて「どの指標をいつまでにどの程度改善するつもりなのか」まで併せて示してほしいというのが氏の願うところです。

 さて、現状においても、「税金が高い」「社会保険料の負担が大きい」と感じている日本人がほとんどでしょう。確かに氏も指摘するように、そうして集められた資金の多くが(軍備に使われているわけでも、海外に流れているわけでもなく)「分配」「再分配」に使われているのはおそらく事実です。

 問題は、それが必要な人に、必要なだけ行き届いているかどうかということ。何十兆円という規模のお金を一律に配ったり社会保障費の財源としている消費税の引き下げを検討したりする前に、まずは現在の分配や再配分の仕方を見直すことから始める必要があるのではないかと、望月氏の論考を読んで私も改めて感じたところです。



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