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結婚を後悔させる理由があふれている
それでも離婚しないのは
愛が消えぬから・・・?
「結婚なんて面倒なだけ」そんなことを口ずさんでいた夜オンナも、いつしか妻となった。そして、生まれて初めて経験する〝ひとりではない幸せと喜び〟けれど幸せなんてつかの間だった・・・結婚とは・・・後悔するもの? 過ぎゆく時間に問いを立てる・・・

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結婚を後悔しても離婚しないストーリー


結婚する前、私は果てしもなく大きな夜の世界の住人だった。

守らなければならないルールなんて、一握りもなかった。その場所で私は、自由奔放に暮らしていたのだ。

この世界、気ままな暮らしの中にも、数多くの危険が潜んでいた。いつどこで敵に出くわすかわからない日々は、不安定だった。巨大な敵は、あっという間に私をこてんぱんに打ちのめしたし、猛毒を持った敵は、美しいその容姿で私を騙し、針を刺した。

次第に私は、夜の世界で孤独に生きる決心を固めていった。自分の力で築いたちっぽけな巣穴に潜り、物思いに耽った。結婚なんて私とは関係のないイベント……。
時々巣穴から顔を出し、広い世界を覗いてみたりもした。
結婚して平凡に何の疑問も持たず生きる仲間達が、悠々と泳いでいた。結婚しない私は、結婚しても離婚に至る彼らを軽蔑したり、離婚せずに子宝に恵まれて幸せに生きる人生に羨望したり、壮絶な離婚劇に同情したりしたものだ。


本当のことを言えば、私はこのひとり暮らしに疲れ果てていた。独身による孤独は気楽だったけれど、良いことも悪いことも訪れなかった。ぽっかりと開いた心の空洞を見つめて、泣き明かした夜もあった。
その空洞は、足りないものがあるという証だと私は思った。考えても考えても、足りないものが何なのか、わからなかった。

一日に数回、どうしても巣穴から出なければならなかった。
怠惰にぼんやり暮らしていても、やはり腹は減るのだった。私は餌を得るために、危険だらけの広い夜の世界をさまよった。

釣り針につけられた餌だと気づかずに、ぱっくり餌を飲み込み、ネオンの外に消えていった仲間達を、私は飽きるほど見てきた。拾われるように結婚していったのだ……。
そんな時私は、「愚かな奴だなあ…そのうち離婚して子連れで帰ってくるさ」と呟いて、ほくそ笑んだ。けれども、ネオン街に抱く憧れは、日に日に増していった。
結婚した仲間達は、私の知らない世界で何を見たのだろう?

あの日も、たくさんの釣り針がネオンの灯す夜道にゆらゆら揺れていた。
針の先につけられた餌は新鮮で、とても美味そうに見えた。だけど私は、そんな餌なんかに釣られたりしない自信があった。
結婚なんて何の魅力がある?
結婚なんて離婚するためのプロローグじゃないか…

あの日私は、奇妙な釣り針を見つけた。その釣り針には、餌がついていなかったのだ。
剥き出しになったままの釣り針が、私の前に突如現れた。
夫だ……。

私は、夜闇のカーテンから身をねじり出すように、向こう側を見据えた。
外の世界から、私を見つめる夫と目が合った。夫は、私の姿を確認すると、餌をパラパラと投げ渡してくれた。
餌とは人生の安定が詰め込められた結婚という餌だ。
私は空腹だったので、疑いもせず夢中でその餌を食べた。今まで味わったことがないほど美味い餌に、私はありついたのだ。

その日、私は巣穴に戻り、幸せな気分に浸って眠った。翌日も、その翌日も、餌のついていない釣り針が同じ場所にあった。恐る恐る寄っていくと、またあの美味い餌が闇の隙間から差し伸べられてきた。
「結婚して欲しい」
熱烈なラブコールは結婚の申し込みだった。

私が住む闇からは、夫の顔がはっきり見えなかった。
こんなに親切にしてくれる夫は、どんな顔をしているのだろう。気になって仕方がなく、眠れない始末だった。

私の好奇心はどんどん膨らみ、ついに行動を起こしてしまった。
躊躇もせず、勢いに任せて餌のついていない釣り針を飲み込んだ。夫は、ゆっくりと私を夜闇から光差す世界に引きこんだのだった。
結婚した…。

私は、夫の手の中にいた。

「結婚を後悔していないかい?」

――と、夫が私に質問した。私は、「後悔なんてするもんか!」と自信満々に答えた。「その言葉を聞いて安心したよ」と言って、夫が笑った。

夫の手の感触は、とても優しくて、温かかった。
居心地の良さに陶酔しながら、私は夫にこう質問した。
「どうして私を選んだの?」
「君じゃなくても良かったのかもしれないけど、見つけちゃったんだ」
「見つけちゃった?」
「そうさ、もし君がいなくなっても、何度でも君を見つけてやるさ」
私は何だか嬉しくなって、「見つけてくれてありがとう」とお礼をした。

夫は、私に居場所を作ってくれた。馴染まない朝陽を浴びることができる私の新しい居場所だった。結婚生活だった。
夫は、私が望むもの全てを、手際良く準備してくれた。

朝陽の中で背伸びをする私を、夫はほおづえをついて見つめていた。
夫は、いとおしそうに私の姿を眺めていた。
私は夫を喜ばせたくなって、身体を朝陽に浴びさせて魅せた。すると夫は、にっこり笑って喜んでくれるのだった。

私の心に開いていた空洞は、結婚してからいつの間にか塞がっていた。
夫との暮らしの中で、私は足りないものを手に入れたのだ。愛されることの喜びは、こんなに素晴らしいものだったのか!私は、結婚して世界中で一番幸せな女になったのだ。

結婚してから、夫との楽しい暮らしがしばらく続いた。
夫は、毎日仕事に出かけるので、日中は退屈だった。退屈しのぎに、今度はどうやって夫を喜ばせようかと考えた。そんな時間も苦にならず、私は有意義な毎日を過ごしていた。

時が経つにつれ、夫が私に見向きしなくなってきた。これを世間では離婚の危機というそうだ……。

あんなに大切にしてくれた夫が、私の存在を忘れてしまった。夫は、私にかまってくれなくなった。毎日眺めてくれていたのに、私がいることすら気にしてもいない。

私はここにいるよ!私はここにいるんだよ!

どんなに叫んでも、夫の耳には届かなかった。私は、やはり夜闇に潜む存在なのかもしれない。そんなふうに思い始めた。私の居場所はどこにあるの?
光と影の中で、私は自問自答を繰り返していた。

私はここにいるよ!私はここにいるんだよ!

何度叫んでも伝わらない。私はとうとう混乱してしまった。もう私なんて必要ないんだ。ならば、ここから脱け出そう。

離婚しよう――離婚?

もういいや結婚して後悔して離婚する人生そのものが嫌気した。

………

ゴツッ!という鈍い音と共に、私は床の上に落ちた。
呼吸ができなくなった。私は床の上で、苦しみと戦っていた。
体の表面が乾いてくるのを感じた。もう死んでもいい気分だった。

その時、慌てて夫が私に駆け寄ってきた。あの優しい手で私を包み、そっと朝陽にあててくれた。
夫は、激しく動揺していた。顔から血の気が引いている。
「どうして飛びおりなんかしたんだ!」と、夫が私を責める。
「だって、もう私なんか必要ないんだろう?」
私は我慢できなくなって、おいおいと泣き出してしまった。

夫はそんな私の姿を見て、困り果てていた。
「ごめんよ、君がそんなに悩んでいたなんて知らなかったんだ」
夫はそう言って、がっくりと俯いた。
私は、泣きながら夫の話に耳を傾けていた。
「これからも、君と一緒に暮らしたいんだよ。ずっと、ずっと」

何か言わなくちゃと私は思った。けれど、言葉にならなかった。
「君のために、もっと努力すると約束しよう」
夫は真剣な顔をして、僕にそう言った。
「もっと努力するから、これからも一緒に暮らしてくれないか?」

私は少し迷った。もう2度と同じ思いをしたくなかったから。
夫の真面目な顔を見ていたら、迷いが少しずつ薄れていった。私の頭の中に、次々と夫との楽しかった思い出が蘇ってきた。

夢中で餌をついばむ私を見て、愉快そうに笑っていた夫。
誤って流木の隙間に嵌ってしまった私を、助けてくれた夫。じっとしている私を笑わせようと、変な顔をガラスにくっつける夫。

結婚後、夫との数々の思い出は、私にとってかけがえのないものだ。
私にとって、夫という存在は、かけがえのないものだったんだ。そして、夫にとって私も、かけがえのない存在なんだ。

夫は、決して私を必要としていない訳じゃない。
ただ、私がここにいることが、当然になってしまっただけで。もしも私がいなくなったら、夫は心から悲しむのだろう。そして、再び私を見つけようと、必死に探し回るに違いない。

ようやく涙が止まったので、「私はここにいるよ」と夫に伝えた。
夫は花が咲いたような笑顔で、「ありがとう」と言ってくれた。その言葉を聞いたら、やっと止まった涙がたちまち溢れてきた。
私は今、夫が与えてくれた光の中で平穏に暮らしている。
夫は、しばしば私の存在を忘れてしまうのだけれど。私が「おーい!」と叫ぶと、慌てて私の所にやってくる。夫は「ごめん、ごめん」と頭を掻きながら、私に餌をくれるのだ。私が生きているだけで、夫は満たされている。
あたりまえに私が存在することが、安らぎをもたらしている。大切なのは、私がここにいることなんだ。

あんまり長いこと放っておかれると、私だって淋しくなるよ。
私が病気になっても気がつかないなんてことのないように。たくさんは望まないけれど、もう少しだけ私の姿を見て欲しい。

私は気長な性格だけど、時にはキレちゃうことだってあるさ。また生を捨てようとすることがないように見守ってくれ。
あんなに痛い思いをするのは、もう真っ平御免だから……。

結婚と離婚
それはいつも背中合わせに私を深い思考に導く。
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