私の場合、誰かに愛情を渡すお仕事をしようと思い、アナウンサーになった。
人の心に灯火を。
放送業務に就く多くの人達も、程度の差はあれ、
たぶん心の底に同じ思いがあるんじゃないかな。
だから
「こうすれば視聴者は喜んでくれるかな」
なんて考えながら、いろんな表現方法を考えて、試してみる。
私が最後に就いた、東京某局の番組のメインキャスター。
ずっとずっと、東京でメインキャスターをやってみたかった。40歳になって叶った夢。
それでも、あることをきっかけに、自らアッサリとその機会を他のアナウンサーに譲った。
息子同然で可愛がっていたフェレットが末期がんになった。
ペットシッターさんが
「ほ~ら、お母さんはテレビ画面の向こうでキミを見守っているよ」
と言って、いつもこうして私の姿をポップスに見せてくれていたらしい。
去年の今頃、番組開始5分前にシッターさんから電話が入った。
「大変です!!ポップス君が発作を起こして、体がどんどん冷たくなっています……!!!」
気が気じゃないまま、非情にも生放送が始まる。非情にも「もっと笑って」と指示が入る。
泣きたい気持ちで、精一杯笑う。
精一杯、世界経済の話をする。
精一杯、テレビ映えするようたくさんの表情を作る。
精一杯、健康的にはつらつとニュース原稿を読む。
精一杯、精一杯、精一杯、精一杯、精一杯、
気が狂いそうなくらい精一杯ポジティブに、精一杯笑って、もう精一杯、精一杯……
はじめて、生放送のアナウンサーになったことに迷いが生まれた瞬間。
ずっとやりたかった東京の生放送のメインキャスターなのに。
ポップスはシッターさんにより夜間動物病院に連れていかれていた。
放送終了後、急いで病院に行き、院長に血液検査の結果を見せてもらった。
血糖値 11。
普通なら生きていられない低数値。(健康なフェレットの平均は100)
あと1分病院に運ばれるのが遅かったら……と思わずにはいられない。
そして、タクシーを呼び病院まで付き添ったのは
飼い主の私ではなく、シッターさん。。
病院で再会したポップスは、頑張って生き返ってくれていて、
つぶらな瞳で私を見上げてくれた。
「ポップちゃん、ママよ。
ごめんねぇ、生放送だからお仕事抜けられなかったの。
ごめんねぇ、ごめんねぇ。。。」
って、キュッと抱き締めた。
すると、ポップスは私の口を健気にペロペロと舐めてくれた。
泣けてきた。
猫やフェレットは、
お母さんだと思っている相手の口しか舐めない。
ポップスは、私が想像していたよりもずっと、
私を愛してくれていた。
愛情を誰かに渡すお仕事をするために、身近な愛情を犠牲にする。
これじゃ、ママ、愛情を渡す生き方をしていることにならないよね? ポップちゃん。
……だよね?
。・゜。 (*^ ー^)ノ ⊂(^(工)^)⊃
それ以降、私はこの番組に出ていない。
ずっと走り続けていた私がランニングコースから降りた夜。
マネージャーも理解してくれ、対処してくれた。
未練なくアナウンサーを辞める日が来るとは、私が一番思っていなかった。
あんなに頑張って叶えた夢でもアッサリと手離したことや、周りにいる人達への影響など、
いろんな意見があるだろう。
でも、全く後悔していない。
ただ、申し訳ない、とは思っている。
それでも、
愛情を渡すこと以上に重要なことって、あるのかな?
渡す相手が人なのか、動物なのか。そこに差はあるのかな?
私はアナウンサーである前に血の通った人間なのではないかな?
血の通った人間であることを優先するのは駄目なことかな?
愛情を渡す役割を果たしたいから、アナウンサーになる。
愛情を渡す役割を果たしたいから、アナウンサーを辞める。
気づいたら、
アナウンサーになった理由=辞めた理由 になっていました。
……まあ、でも、これからアナウンサー受験をしようとする人は面接で
「家族が病院に運ばれたら即降板します」
とは言っちゃだめよ。たぶん落ちるから(^-^;
そういう究極の質問を審査員から投げかけられる場合の「合格する」切り返し方、しかも嘘をつかない切り替えし方を
お目にかかる機会のある方にはお伝えします。
・・・ん?
そんな機会あるのかな?
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