■12月6日 ワールドカップで日本代表「森保ジャパン」がクロアチアに惜敗 | 高澤 一成 「真の哲学者とは」

高澤 一成 「真の哲学者とは」

■哲学・社会学・社会思想に基づく「社会衰退の克服論」
■成人道徳教育(啓蒙)の必要性と、道徳と自由の両立

 

■12月6日 ワールドカップで日本代表「森保ジャパン」がクロアチアに惜敗

  

 (2022年12月5日 フジテレビ「FIFAワールドカップ ベスト16 日本×クロアチア」)

 

 深夜3時近くに、日本代表の4人中3人がPKを防がれて敗退し、98年から見飽きた、新鮮味のない中堅クロアチア相手のあっけない最後に、日本中が深い落胆に沈んだ―。

 

 前半43分にFW前田が、堂安のクロスに吉田が折り返したボールを左足で合わせて先制点を奪ったものの、後半リヴァプールの正センターバックだった大ベテランのDFロヴレンの正確無比なロングフィードから同じくバイエルンやインテルで活躍した大ベテランのウイングMFペリシッチのヘディングで同点に追いつかれてしまい、ドイツやスペインよりもはるかに格下のクロアチアにPK戦で競り負けてしまった。

 「森保ジャパン」は不思議なチームだ。
 

 点が入りにくいサッカーというスポーツで、1次グループで3試合とも先に失点しながら、なんと1位でグループ突破した。
 また、先に失点した優勝候補のドイツ、スペイン戦でことごとく勝利しながら、唯一先に先制したクロアチア戦だけは負けてしまった。
「先に失点した方が強い」という、かつて森保監督が指揮した広島の地の御霊(みたま)の思いと、戦後の廃墟から復興した不屈の県民性が反映されているのかもしれない。

 一方で、今日のクロアチア戦や、1次グループ第2戦のコスタリカ戦、あるいは今年の親善試合でチュニジアやカナダにあっけなく負けたように、「同格のチームに対しては勝ちに行けない」という日本人特有の優しさがあるのかもしれない。
 

 だが本当に「ベスト8以上を目指したい」というなら、同格以下の弱いチーム相手にも、全く容赦せず、ガツガツ行って完全に粉砕して叩き潰しに行くという鋼のメンタリティがこの国には必要なのかもしれない。

 
 クロアチアは世代交代に失敗した斜陽のチームだ。

 ドイツなら十中八九クロアチアに圧勝していただけに、日本はドイツの分まで勝たなければならなかった。

 モドリッチ、ペリシッチらスター選手がいるとは言え、ピークはとっくに過ぎている。
 

 また、2016-17シーズンを最後に欧州主要リーグから遠ざかっているFWリヴァヤを代表に呼び戻してスタメンで使っていることから見ても、日本では考えられないような、選手層の薄さがうかがえる(リヴァヤには「2013-14シーズンのアタランタの控えFWだった」という印象しかないが、4年前の世界的なスター選手だったマンジュキッチに比べれば、そんな選手がクロアチアの代表に呼ばれて、しかもワールドカップのレギュラーを張れるということは、それだけ前線にタレントがいないのである…)。

 そして準優勝したクロアチアのストロングポイントだった両サイドバックも、スルナ、ヴルサリコといった超一流が代表を去り、平々凡々の選手たちが年老いた選手たちの脇を固めているに過ぎない。

 ただ、ライプチヒで活躍する新星DFグヴァルディオルの壁は分厚く、後半に入っても、途中投入された浅野は彼の壁を突破できなかった。
 彼がいなかったら、日本は勝ち越しゴールを挙げていたかもしれない。

 三苫のドリブル突破からのミドルシュートも、欧州主要リーグの経験がなく、つまりは権田よりも格下のGKリヴァコビッチのセーブに阻まれた。
 とは言え、欧州にはチャンピオンズリーグがあるので、リヴァコビッチはその大会で出場し続けることでワールドクラスの経験を積むことはできていた。

 峠を過ぎたベテラン組とGKリヴァコヴィッチ、FWブルーノ・ペトコヴィッチら国内の「ディナモ・ザグレブ組」が代表の主力を占める。
 

 

■堂安にPKを蹴らせたかった。


 森保ジャパンは「ベスト8、さらにその先」という目標を持っていながら、120分間戦った後のPK戦の準備をしておらず、2010年のパラグアイ戦と同じことを再び繰り返してしまったことは残念というほかない。

 しかも12年前は4人中3人(遠藤保、長谷部、本田)がPKを決めたが、今日は4人中たった一人(浅野)しか決められなかった。

 つまり、(FKを除いては)技術や身体能力は上がったが、本田、長谷部の時代と比べてメンタルが格段に弱くなっていることを物語る。
 少なくともPKメンタルに関しては、広島で活躍した浅野以外は、リヴァコヴィッチに読まれて全員がPKを外してしまい、平常心ではなかった。

 

 しかも全員がPKを決め切った12年前のパラグアイとは違い、クロアチアはFWリヴァヤがゴールポストに当てて、PKを外してくれたのである。

 12年前と比べても、チャンスは十二分にあった。

 
「クロアチアを徹底的に叩き潰す、粉砕する」という鬼気迫る闘志、ニーチェの言う強い意志がないとこのレベルでは上には上がってはいけない。

 最初の南野が外した時に圧倒的な不利が確定して、すべては終わってしまった。
 

 やはり私は久保が体調不良というなら、南野を先に先発させ、ドイツ戦やスペイン戦と同様、途中から堂安を投入して、一番最初にPKを蹴らせたかった。
 もちろん、この日の先制点の起点は堂安だが、やはり途中投入されてから得点という結果を出して、劇的に流れを変えられるのが堂安である。

 敗北したコスタリカ戦と同様、堂安を先発で使ってしまったため、後半から全く違うチームになってギアを上げていくことができず、この日は死に物狂いで守りながらも、欧州では面白いように点を取りまくっている鎌田らの連係が全く合わず、攻撃のコンビネーションが終始ちぐはぐのまま、まるでキリンカップの負け試合を見ているかのように、なんとなくだらだらと気のない120分が経過してしまった。

 日本国民の大半がバラエティーやドラマを見ている間も、一年中サッカーだけを見ている私は、昨季オランダ・エールディヴィジで活躍した堂安を見ていた「堂安ウォッチャー」だった。

 

 PSVでも堂安は途中出場も多く、今回のワールドカップで大爆発しているオランダ代表のガクポは堂安の元同僚だ。
 昨年9月19日のフェイエノールト戦では日本と戦ったドイツ代表のゲッツェに代わって後半頭から途中出場したが大敗し、続く25日のヴィレムII戦以降は右MFの堂安と左MFのガクポがそろって先発していくこととなる―。
 今季は韓国代表チョン・ウヨンと共に新天地ブンデスリーガのフライブルクという、現時点でバイエルンに次ぐ2位のチームで活躍する。

 

 堂安とその後ろから伊東も出てくる強力な「右サイド」、そして三苫が積極果敢に後ろからドリプル突破してくる「左サイド」には、久保や鎌田が前にいて、南野も途中から出てくる。

 両翼は日本のストロングポイントだ。
 そしてその両翼にはそれぞれ酒井宏樹と長友も後ろに構える。

 

 だが中央に、中にDFロヴレンとDFグヴァルディオルというクロアチアの牙城を崩して、2点目を取り切る鋼のストライカーが日本にはいない。

 今の日本にはウインガー、ドリブラーは豊富にいても、クロアチアのディフェンスが密集する中で、コースを狙ってゴールキーパーの届かないゴール隅に蹴り込める「天性のストライカー」がまだ不在である。

  

 



■スペイン戦勝利、うれしい誤算

 圧倒的格上のドイツ、スペインに勝って、コスタリカやクロアチアに覇気なく敗れるというのは、「どんな相手でもプロとして徹底的に叩き潰す、粉砕する」という強い意志、場合によっては闘争心、容赦のなさ、クロアチアの選手にあるようなエグさが足りないのかもしれない。

 F組はスター軍団ながら、アザールの試合勘のなさと不調に、ケガのルカクの出遅れ、そしてチームの体(てい)を成していなかったというベルギーの敗退により、モロッコの1位突破が決まっていたため、あえて日本から点を取りに行って1位になって、F組2位のクロアチアと当たりたくなかったスペインの思惑もあったと思う。
 

 一方で日本は引き分けだと3位敗退になってしまうため、「2位になって、モロッコと対戦する」というスペインのようなおいしい選択肢はなかった。

 日本代表は広島の御霊(みたま)の思いと後押しもあり、VARと5人制ルールにことごとく救われた気がしてならない。
 

 ドイツ戦では前半終了間際のハフェルツのゴールがVARによって取り消され、また、スペイン戦では一旦ノーゴールかと思われた田中のゴールが、VARによって三苫の折り返したボールがゴールラインに触れていたと判定されて、ゴールが認められた。

 これら二つはVARがなければ、逆の判定になっていた。
 

 つまりVARによって、ドイツの2点めが取り消されて、日本の2点めが認められたのである。
 

 また、5人制ルールによってドイツ戦、スペイン戦とも、前田、久保、長友を下げて、後半から浅野、堂安、三苫らを入れて「全く違うチームにする」という大胆な戦術変更が行えた。

 私自身、広島大学の学会で広島に感銘を受けて大変思いがあり、その広島の監督をされていた森保監督には、コスタリカ戦で痛烈に批判してしまったことを深く謝罪して反省したい。
 
 政治家やインフルエンサー、著名な学者を批判するのは公共性、公益性があるが、サッカーの監督を批判することにはなく、そもそも私の専門分野ではないし、今後は慎(つつし)みたい。

 日本がスペインに勝ち切る可能性は1パーセント以下だと私は見ていたし、それは「日本が弱い」ということでは全くなくて、コスタリカ戦やドイツ戦で完璧なサッカーをしていたスペイン代表に対して、「このチームに勝てるチームなど存在しない」という私に近い感想、見解を、世界中の多くのサッカーファンが持っていただろう。
 
 ただ、スペインはガヤがケガをしてしまっため、左サイドバックのジョルディ・アルバの控えがおらず、日本戦ではバルセロナBのアレハンドロ・バルデを使わざるを得なかった。

 バルデは攻撃だけに特化したサイドバックであり、フィジカルが弱くて守備力もからっきしないため、日本の組織的な鬼プレスによって、GKウナイ・シモンが出した苦し紛れのパスを御しきれず、突進してきた伊東に完全に競り負けて、堂安の先制ゴールが生まれた。

 また、2点めの起点となった堂安のクロスも、盾となるべきバルデの股を抜けて三苫、田中に通っている。
 つまり、左サイドバックのバルデだけは、私が監督なら絶対に選ばない、ありえない守備力とフィジカルの低さの選手だったのである。
 スペインにはマルコス・アロンソや、パリ・サンジェルマンのフアン・ベルナト、ベティスのアレックス・モレノ、ビルバオのユーリ・ベルチチェ、ビジャレアルのペドラザなど、星の数ほど優秀な左サイドバックがいただろう。
 ルイス・エンリケ監督がバルデの所属するバルセロナ出身ということもあろう。

 2点取って勝つしかない日本にとっては、完璧なスペインに「大きな穴」ができていたことは、まさに僥倖(ぎょうこう)だったのである。
 

 

 

 

■これからの日本サッカーに必要なこと

 サッカー通の言うことが現実にはならなくて、サッカーを知らない大半の国民が、日本代表を信じて応援することで現実になることを初めて知った。

 私が精神性の専門家でありながら、信じること、信念を軽んじてしまい、森保監督や日本代表、そして日本代表を応援する日本国民に諭されて、虚心坦懐(きょしんたんかい。先入観を持たず、広く平らな心)して、初心に帰る思いだった。

 スペイン戦勝利を願った広島の力、神仏の力、願掛けの力が実ったと思う。

 そして、私が前述した、日本にとって有利となった様々な要因は、決して偶然ではなく、そうした願いや信じることの賜物(たまもの)だと思う。
 

 PKでメンタルの優しさが出て、運悪く負けてしまったが、90分でドイツに勝ち、スペインに勝ち、アジア勢としては初めてワールドカップの1次グループを1位突破して、120分ではクロアチアにも負けなかった。

「ベスト8以上」にこだわりたい岡ちゃん(岡田武史さん)には哲学者としてメンタルの必要性を伝えたいが、世界からも十分敬意を表される大いなる進歩だと思う。

 だが今大会では、93年の「ドーハの悲劇」では、アジアはたった2か国しか出場できなかったにも関わらず、カタールワールドカップのアジア最終予選5位で、欧州の主要リーグでプレーしている選手がいないオーストラリアが、チーム力だけで決勝トーナメントにまで進み、アルゼンチンを苦しめた。
 

 韓国もウルグアイと引き分けて、ガーナにも負けてほぼほぼ絶望的だったにも関わらず、早々と突破を決めたポルトガルが、第3戦となる韓国戦に露骨なまでの控え組、Bチームを出してきて、それに勝ったというだけで韓国がするするっと決勝トーナメントにまで勝ち進んでしまった…。

 日本サッカーにとっては、「アジア勢としてワールドカップの決勝トーナメントに進むこと」の価値はほとんど無くなってしまったのかもしれない。
 

 だが本当にそれ以上を目指すなら、PKを止められた今の南野、三苫、吉田では無理な話であり、彼らには本田や長谷部に迫る、鬼気迫るメンタルや強い信念、「哲学」が必要なのである。

 
 日本代表の今後に必要なものとは、そういうものなのだ。



 マンジュキッチ、ラキティッチ、ブルサリコら黄金時代の選手が去って過渡期を迎えるクロアチアに、強豪ドイツなら、2、3点取って軽く大勝していただろう。
 クロアチアにとっても、「ドイツではなく日本が来て良かった」、少なくとも「与(くみ)しやすい」と思っていたに違いない。
 

 「スペインやドイツではなく、日本で良かった(ほっ)」。
 

 だがそう思われている時点でまだダメなのだと思う。
 それで対戦相手に恵まれたコスタリカやガーナみたいにベスト8まで行っても、あまり意味はないと思う。

 岡ちゃんの言う、ベスト8以上を常に目指せるような世界の強豪になるためには、普段から徹底的に容赦ないサッカーを続けて、たくさん点を取って勝ち続けるしかない。

 たとえば欧州で点を取りまくっている鎌田みたいに、代表で全く結果を残せない選手を主力として使い続けるなら、結果を残せるようなチーム作りに変革していくしかない。
 鎌田が所属する平々凡々としたフランクフルトと、日本代表では何が違うのか?
 

 長谷部も所属するフランクフルトは、広島時代の森保監督と全く同じ3-4-3を採用し、コスティッチなど、毎年のように攻撃の主力選手をバンバン引き抜かれている中堅チームにも関わらず、大舞台で鎌田に簡単に点を取らせることのできる、無駄のない機動的なチームである。


 また、本気でベスト8以上を目指すなら、中村俊輔や遠藤保仁、本田圭佑のような百発百中のフリーキッカー、プレースキッカーも必要だ。

 そしてドイツやスペインを下したことは大きな収穫だが、残念ながら同じ奇跡を2度3度再現することは難しい。
 もしそれが本当にできるならドイツやスペインよりもはるかに格下のクロアチアに、それこそ10分以内に2点を取り切って、90分で完全に勝ち切っている。
 
 勝利を「奇跡」ではなく、理性的に、現実的に我が物としなければならない。

 現実的に、現実的に、現実的に、である。

 

 また、同じことを格下相手に全く再現できないというなら、それは真の実力ではない。

 

「スーパーマリオ」のマリオが星を取って数十秒だけ無敵になっているようなふわふわとした勢いと爆発力がこのチームの良さでもあり、諸刃(もろは)の剣でもあって、悪さのような気がする。
 

 理論、理性どうことではなく、勝つ時は勝てるが、負ける時は為す術なく負ける。

 つまり一貫した哲学のなさと精神性の弱さである。
 

 コスタリカ戦やクロアチア戦で露呈した攻撃のコンビネーションの熟練度の低さを克服して、本番で想像力と直感を最大限働かせ、欧州主要リーグに所属するプロである以上は、各人がやるべきことをやることを徹底することである。
 

 富安の相手ゴールエリアまで迫ってのクロスも、私はあの位置なら十分シュートを狙えたと思う。


 

 

 

 

 

11月28日  「第2のドーハの悲劇」に。ワールドカップで日本がコスタリカに惜敗

 

 

 

 

 「ドーハの歓喜」が一瞬にして悲劇に変わった。

 

 

 世界的なストライカーであるドイツ代表のミュラーでもハフェルツでもなく、スペイン代表のアセンシオでもフェッラン・トーレスでもない、サッカーファンの誰もが知らなくて、サッカー解説者の誰もが注目しなかった無名のコスタリカ代表の右サイドバックのフラール(Fuller)の一撃に森保ジャパンは沈んだ(「フジェル」の表記もある)。

 

 試合最終盤の、誰も知らないDFフラールの、起死回生の得点、日本代表にとっての「ドラクエ」でいう「痛恨の一撃(ビシャ!!)」で日本は敗れた。

 しかも、3日前のスペイン戦で「0-7」という歴史的大敗を喫して、90分間全くいいところなく、終始サンドバック状態だったコスタリカに、である。

 

 これは「逆ジャイアントキリング」というか、「第二のドーハの悲劇」というか。

 

 あるいはコスタリカにとっての「ドーハの歓喜」だったのだろうか?

 

 そして「森保ジャパン」の存在は、優勝を狙うドイツにとっての刺激であり、戒めであり、伏線に過ぎなかったのだろうか?

 

 やはり人権主義・左翼の反日テレビ、テレビ朝日のジンクスなのだろうか?

 テレ朝の浮かれた解説陣の不真面目なノリでは日本は勝てないのか。

 

 日本代表がまだ1点も取っていない時点での松木さんとウッチーの完全に楽観的でコスタリカに対するレスペクトのない解説には最初から悪い流れを予感させたが、事実、テレ朝が仕掛けようとした「MeToo運動」が、国家公務員法に抵触するかたちで、守秘義務のある福田財務次官に対して、記者会見以外のプライベートな場で、特定の美人女性社員を密着させて局自体が大問題となったように、今回も一次グループ突破から一転してコスタリカに惜敗となってしまった。

 

 新自由主義の橋下徹や道徳のないひろゆきを起用して、ワールドカップを電波ジャック・ネットジャックしたテレ朝系のAbemaよろしく、サッカーや相手国、ワールドカップに対する敬意が足りない番組作りだった。

 

 森保監督がドイツ戦のメンバーを入れ替えて、実力と経験のある欧州組を押しのけて、「Jリーグ組で参加したE1選手権で良かった」という相馬にこだわり過ぎた、相馬を引っ張り過ぎたのが敗因だったと思う。

 

 82分間チャンスがあり続けた相馬のクロスやシュートは何度もあさっての方向へ外れたが、逆にスペインに0-7でボロ負けした相手DF、右サイドバックのフレールのたった1本のシュートだけは大きな弧を描いて権田のフィスティングも及ばず、ゴールマウスに吸い込まれた。

 

 相馬がたった一人でも82分間もチャンスがあったのに対して、コスタリカ代表は全体でも、チャンスはこのフレールのゴールの瞬間のたった一度しかなかった。

 相馬を含む日本代表の攻撃陣全員が圧倒的に押していた90分間ことごとくチャンスを外しまくって、逆にコスタリカはたった一度のチャンスを決めてしまったのである。

 

 日本がドイツに勝った奇跡以上の、非常に低い確率で起きてしまった事故としか言いようがない。

 

 逆に、あれだけヨーロッパの舞台で簡単にゴールを決めまくっている鎌田ら攻撃陣が、一人も欧州組がいないコスタリカ相手に全く得点できないチーム作りをする方が難しい

 

 私が大学時代の93年にリアルタイムで見たカタールのアジア最終予選でイラクの選手のヘディングシュートが残酷にもゴールマウスに吸い込まれた瞬間を思い出す。

 

 コスタリカの本当にたった1度のチャンスだったフレールのシュートが、まるで時間が止まったかのように、スローモーションでゴールマウスに吸い込まれた瞬間、ベンチにいる中山雅史が口を開けて崩れ落ちる映像が目に浮かんだ。

 

 まさに「第2のドーハの悲劇」である。

 これが森保一さんの運命なんだろうか? 

 あるいは日本サッカー界全体の。

 

 柳沢慎吾「いい夢見させてもらったよ! あばよ!!」

 日本はワールドカップのカタール大会から「あばよ」ということになってしまうのだろうか? 

 

 確かに、仮に今日コスタリカに勝ったとしても、修正したドイツが同格のスペインを破った場合には、日本はスペインから勝ち点を取りにいかなければならず(コスタリカに7点差以上で勝てなければ)、土台、このグループはドイツとスペインの二強だったと思うし、若い相馬くんにはいい経験になったと思う。

 

 そして残念ながら、福田正博さんが言うように、今大会のスペインは出来が良すぎるため、日本がスペインに勝つ可能性は極めて少ない。

 それはレアル・マドリードとバルセロナを中心とする選手が、日本がただの1点も取ることができなかったコスタリカから7点も取った絶対的な決定力がそれを物語る。

 そして残念ながら、ドイツには前大会の韓国も勝っているのである…。

 

 

 「最大の敵は己にあり」

 

 ドイツに逆転勝ちした侍ジャパンを叩き壊してしまったのは森保監督自身なのかもしれない。

 

 全くタレントのいないコスタリカは、自分たちの力ではなく、森保監督の失点、最大級の不手際、自滅、オウンゴールによって、同格のカタールと共に大会を去るどころか、逆に貴重な勝ち点3を得られたのは疑いようがない…。

 

 調子のいいチームはスタメンをいじらないのが世界のサッカーの常識である

 初戦に快勝したポルトガルが第2戦でクリスティアーノ・ロナウドを引っ込めたりするだろうか?

 あるいは、また、コンビネーションが合っていて結果も出してノリに乗っていたスタメンの顔ぶれをごっそり入れ替える必要があるだろうか?

 7-0でコスタリカに大勝したスペインも、第2戦は右サイドバックをレギュラー格の選手に戻したのみだった。

 ところが、森保監督はそれこそドイツ戦で0-7で大敗した後のように、なんとスタメンを5人も代えてきたのだ。

 ドイツ戦に途中出場して得点した堂安はともかく、ドイツ戦に出場機会のなかった上田、相馬、守田、山根…。

 これは誰がどう考えても、1次グループの勝ち抜けが決まってから、主力を休ませるための消化試合に出すメンバーである。

 98年で言えば、初戦でアルゼンチンに勝ったにも関わらず、あえて中山や中田、名良橋を外して、市川を4人先発で使うようなものだが、それでも市川は当時から優秀だったので、相馬よりは結果を残しただろうが…。

 無難にドイツ戦のメンバーか、ドイツ戦で途中出場したメンバーで行けば良かったのに、策ある者は策に溺れるというか、最悪過ぎる大チョンボという他ない…。

 

 森保監督が「絶好調のスタメンを入れ替える」というタブーを犯したように、三国志の時代に、優秀な戦略家として高く評価されていた馬謖(ばしょく)が、蜀(しょく)の大将に抜擢された街亭の戦いで、「山の上に陣を敷く」というタブーを犯して、「ふもとで敵に水を止められてしまえばそれまでではないか!」と諸葛亮が激怒して、味方に大損害をもたらして大敗させた馬謖を泣く泣く処刑したという「泣いて馬謖を斬る」という故事成語を思い出す。

 

 「過密日程」とは言え、中3日はあり、ほとんどの選手が過酷なスケジュールをこなす欧州リーグのプロフェッショナルである。

 それを6月のE1で香港に大勝しただけのJリーグ組にこだわって敗北してしまったのである―。

 

 コスタリカにとっては最大の幸運としか言いようがない。

 

 

 ローテーションを組んでいたのかもしれないが、それでも三苫や伊東の投入はあまりにも遅すぎたし、ドイツ戦と同じスタメンで臨むか、もしくはドイツ戦で好調だった選手を先発にして、三苫や伊東、浅野らで序盤に得点を取って、試合を決めてから休ませるという手もあったハズだ。

 

 ドイツとスペインがE組の「絶対的な2強」であり、それに次ぐ日本とコスタリカのライバルチーム同士の直接対決で敗れたことは敗退を意味する

 

 

 

 AbemaTVでは「スペインがドイツに勝ってほしい」という意見もあったが、スペインが2連勝してしまえば勢いに乗って、日本戦でも絶対に手を抜かないだろう。

 私は逆にドイツに勝つか引き分けるかしてもらって、スペインを勢いに乗らせないとともに、ドイツがスペインを崩すシーンから、スペイン攻略の糸口を見つける方が建設的だと思う。

 

 連日の大マスコミの浮かれた歓喜で、「グループステージ突破」という目的は度外視されてしまった気がする。

 やはり「ドーハの悲劇」というジンクスは29年間では拭えないのだろうか? 

  

 まさに明智光秀ではないが、森保監督というか、「テレビ朝日の三日天下」となってしまった。

 ウッチーが言っていたように、コスタリカはワールドカップ出場32チーム中最弱であり、ここに負けたことはかなり厳しい現実が待ち受けているとしかいいようがない。

 

 無論、日本がスペインに勝つ可能性はわずかにある。

 だが、私がブラジルと同格に強い今大会のスペインが優勝候補の最有力という評価は覆らないので、スペインが1次グループ敗退という可能性はないと言っていいだろう。

 いずれに転んでも、ドイツはコスタリカを破るため、日本はスペインからも勝ち点を奪いに行くしかないが、いかに「切り替えて行くしかない」と言い張ったところで、戦術的なミスはやはり致命的であり、圧倒的に押し込んでいたにも関わらず、最弱国に負けたという目に見えないダメージは計り知れない。

 

 ましてスペインはほとんどボールを支配するチームであり、こちらから勝ちに行ける相手では全くないのである。

 日本は今日の(日本と戦った)コスタリカみたいな引いて守らざるを得ない戦い方を余儀なくされる可能性も高いだろう。

 

 一番勝たなければならない試合が、韓国ドラマの「梨泰院クラス」を元にした「六本木クラス」を日本で流行らせようとした反日左翼のテレ朝で放送されて負けたという事実が今の日本のすべてを物語っているのである。  

 

 大学3年の時に見た、森保選手がピッチに倒れ込んだドーハの悲劇が、49歳になって再び見る「第2のドーハの悲劇」になってしまったことは無念としか言いようがない。

 

 第三戦に戦う欧州勢がウェールズならいざ知らず、欧州で最も強いであろう、完璧に近いサッカーをするスペインということで、これで日本がトーナメントに勝ち進む芽はほぼなくなった。

 

 日本のサッカーは「道徳全否定」の反日局のテレビ朝日が電波ジャック、ネットジャックする中で、「三日天下」に終わってしまったのである。

 

 但し、スペインがドイツを破った場合は、「勝ち点3」で3チームが並ぶ可能性もあるが、ドイツがコスタリカから複数得点する可能性が高く、また、そうならなくても日本がスペインから複数失点する可能性もあり、ましてドイツは多く点を取らなければならない状況で最終戦で最弱のコスタリカ戦に臨めるため、得失点差で行っても、ドイツを上回るのは厳しい状況なのである。

 

 あとはドイツに勝って勝ち抜けを決めたスペインが、最終戦でメンバーを落として日本戦に臨むというケースだが、残念ながらモラタなど、控え組の方が決定力があるのである…。

 

 アルゼンチンを破ったサウジアラビアも、チームとしては機能していないポーランドとの第2戦でPKを外したり、ミスを犯したりして負けてしまったが、ジャイアントキリングをしても浮かれず、少なくとも1次グループ突破が決まるまで第2戦、第3戦と勝ち続けることが、真のワールドクラスのサッカー強豪国なのだと思う。

 ましてサウジみたいに世界的なストライカーであるレバンドウスキや、ナポリのジエリンスキを擁するポーランドに負けるのは致し方ないが、全く誰もタレントのいないコスタリカに対して、キリンカップみたいに簡単に負けるというのは…。

 これがチュニジアやカナダにも勝負弱く負けた「本来の森保ジャパン」ということなのだろうか。

 

 スーパーマリオがスターを取って点滅している時みたいに、強い状態は一瞬なのか。

 日本国民はまだスペイン戦に望みをつなげているし、サッカー通である私も水をかけるようなことは言いたくはないが、スペインとコスタリカでは天と地ほども違う…。

 

 ドイツ戦では、ドイツのヴェルナーがケガで招集されず、ルロイ・ザネも右膝の負傷で使えなかったため、日本戦では残ったウイングのニャブリと守備的MFのギュンドアンがことごとく決定機を決められなかったということだが、残念ながらスペインの場合は今のドイツよりもはるかに簡単にゴールを取れる選手がたくさんいて、組織的な攻撃の連係、熟練度は出場32チーム中、突出して随一であり、かつ、ことごとく確実に決めてくるチームであるから、是が非でもスペイン戦の前に1次グループ突破を決めておくことは必須だった…。

 

 森保ジャパンが与えた歓喜と功績は大きい。

 それゆえにサンドバック状態だったコスタリカに、たったの1発で負けた失意もさらに大きく、そしてスペイン戦でも結果が残せず、1次グループ敗退ということになれば、日本国民に与える失望は非常に深いものとなる。

 

 テレビではいろいろと気休めや虚勢を張る人がいるだろうが…。

 世界のレベルを思い知らされることにならないことだけを願う。  

 

 

 ここまで落胆のあまり悲観的なことを書いたが、日本は元来引いて守るチームに弱いので、「ドイツ戦で大活躍した6人の欧州組の攻撃陣を押しのけて相馬をここ一番で先発させて、終始精彩を欠いていたにも関わらず、南野を投入した終盤まで引っ張り続ける」という致命的な采配ミスがあったとは言え、負けるべくして負けたとも言えなくもない。

 一方でドイツとスペインは前に出てくるチームなので後ろにスペースもできやすく、日本みたいにベタ引きに弱いチームにとってはむしろ勝機があるとも言える。

 

 

 

 日本がスペインと引き分けて、勝ち点4でドイツと並んだ場合は、当該チーム同士の成績ではなく、得失点差のため、ドイツが最弱のコスタリカに複数得点で勝利する可能性が極めて高く、日本はスペインと万が一引き分けることができたとしても、得失点でドイツに及ばない

 

 よって、日本はほぼスペインに勝つしかないが、2枚買った宝くじが2枚とも一等ということは、イカサマをしていない限りはありえず、ドイツ戦の奇跡を再び起こしてスペインに勝ち切るのは、非常に残念ながら、私個人は全く不可能に近い話だと思う。

 

 また、スペインは「引き分けOK」だが、日本は「引き分けでも他力」で、ほぼほぼ可能性はない。
 ただでさえ強すぎるスペイン相手に、日本だけが「引き分けですら突破できない」というこの不利な条件は完全に絶望的であり、致命的と言うほかない
 

 まさにド迫力で第2戦のスペイン戦で攻撃を仕掛けて同点に追いついたドイツが、ここから、コスタリカ戦でたった1点しか取れないくらいまでに絶不調、スランプになることなど考えられない。
 無論、コスタリカも日本戦で見せた粘りを見せるだろうが、相手のドイツは0-7で自分たちをサンドバックにしたスペインと完全に互角なのである…。
  

 そして絶対に大量得点で勝たなければならないドイツは、ザネ、フュルクルク、ハフェルツ、ミュラー、ニャブリといった、バイエルンやチェルシーの看板を背負う、そうそうたるメンバーで、コスタリカから大量得点を奪いに行き、非常に残念ながら、それを達成してしまうだろう。

 タレントの宝庫である日本ならいざ知らず、残念だがコスタリカになす術はない。

 

 

 そして逆に昨日、不可解な選手の入れ替えをせず、好調で息の合った選手たちで順当に最弱のコスタリカに勝っていれば、日本は勝ち点6となって、一方のドイツは第3戦で勝っても勝ち点4にしかならないため、今日の時点で勝ち抜けが決まっていたのである…。

 

 よって、相馬や上田、山根を試すことは、第3戦でも十分できたのである。

 

 サッカーを知らない国民の大半はこの確率が高いと信じているが、私はたとえブラジルでも、今のスペインに90分で勝ち切ることはできないと思う。

 それは何より、スペイン自身が未だ勝ち抜けを決めておらず、日本に負ければ敗退する可能性が高いため、ドイツの敗北を手本に、どの試合よりも力を入れて臨んでくるためだ。

 

 森保監督の戦術は第2戦で破たんしており、初戦のドイツ戦に全神経を集中していたため、仕方ないと思うが、調子のいいチームを、国際経験や代表経験の少ない、大舞台を踏んだことのない新入りたちにとっかえひっかえ入れ替えてしまうなら、ほかの出場国のように、4年かけて築き上げる代表チームの「チーム作り」自体が完全に無意味なものになってしまう。

 

 事実、コスタリカは最弱とは言え、GKケイラー・ナバス、DFドゥアルテ、MFボルヘス、MFテヘーダ、FWキャンベルら大半のメンバーが、2014年からなんと8年以上も同じメンバーであり、勝手知ったる選手たちだったのだ…。

 

 つまりそれだけがコスタリカが日本を上回る唯一にして最も重要な長所であり、つまり相馬ではなく、アジア最終予選を戦っていた、勝手知ったる原口を呼んでいたら、難なくゴールを決めて、「原口スマイル」を見せて、難病の子どもを支援しているベテランの力で日本はコスタリカに勝っていた可能性が非常に非常に高かったと思う。

 唯一の収穫は、我々はコスタリカから難病の子どものためにゴールを取り続ける原口元気の必要性を教えられたことだったと思う。
 少なくとも上田や相馬、鎌田に叱咤されていた山根には荷が重すぎたことは疑いようがない事実だ。

 

 

 太平洋戦争にたとえるなら、コスタリカ戦の敗戦は、ミッドウェー海戦に近い致命的な敗戦であり、しかもスペインは引き分けでも「勝ち点5」で1位突破となるため、是が非でも勝ちに行かなければならない日本をうまくいなして、前がかりになった日本の裏のスペースを衝(つ)いて、大量得点を狙いに行くはずだ。

 森保監督のドイツ戦の勝利は非常に高く評価されるべきだが、昨日のコスタリカ戦の敗戦はサッカーの歴史に残る致命的な失敗であり、「メンバーを総入れ替えしたことに悔いはない」というから、敗北の原因が全く理解できていないのである。
 

「ドーハの悲劇」を29年後にまたドーハで繰り返した。
 

「歴史は繰り返す」である。
 

 そして日本のサッカー界は「ドーハの悲劇」を繰り返すべくして繰り返したのだ。


 やはり長い歴史と伝統を誇るプロ野球と比べれば、日本のサッカーの歴史は浅すぎると言わざるを得ない。
 我々は研鑽を積み重ねて失敗から学んでいかなければならない…。
 
 

 これまでのように、東アジアE1選手権やキリンカップでテスト的に若手選手を試すというのは十分理解できるが、ワールドカップの本番の舞台で、レギュラーを使わず、若手選手を試すことは残念ながら全く1ミリも賛同することはできない。
 否、途中交代で若手選手を出すというなら、私は大賛成だが。

 

 「三苫を先発から90分間見たかった」というのは、元日本代表FW玉田圭司さんの思いだ。
  プレミアリーグで台風の目となっているブライトンでも三苫が先発して、世界屈指の強豪チェルシーに圧勝するまでになっている。
 今の日本代表には優秀なタレントがたくさんい過ぎるのに、本当に本当に本当に本当にもったいない、もったいなさ過ぎる話だ。
 私個人は完全に「93年のドーハの悲劇以上の悲劇」だと思う。

 

「そうじゃない」と言う人がいるかもしれない。

 だが93年のアジア最終予選では、アジアの枠はたった2しかなかったが、今大会はなんと6チームもアジアのチームがワールドカップに出れてしまっているのである。
 

 つまり、出場枠が増えた今の時代は、「ワールドカップに出る」というだけでは全くダメなのである。
 海外組がいなかった当時の日本と比べて、欧州組や元インテル主将の長友など、欧州リーグ経験者から成る今の日本の場合は、「ワールドカップで決勝トーナメントに進むこと」が第一命題である。
 

 それが完全に自滅というかたち、「初歩的な采配ミス」というかたちで全く果たせなければ、その過程で歓喜を起こしたとしても、悲劇でしかない。
 

「本気モードのドイツに勝った」という一時の歓喜があまりにも大きすぎただけに、たった1本の、たった1度のシュートだけで、一気に奈落の底の底、敗退濃厚の現実に叩き落された失意はあまりにも大きい。

 サッカーを知らない多くの日本国民が、昨年の東京五輪以上に、スペインの圧倒的な強さだけを実感する徹底的な試合となってしまうかもしれない。
 つまり、今の時点でも十分、「93年のドーハの悲劇以上の悲劇」だが、まだスペイン戦という大悲劇が待ち構えていて、続いてしまっているのである。
 完全に引いて守っていたコスタリカでもチンチンに崩されて7点も取られてしまったのだから。




11月29日 「ドーハの悲劇」が2回目なら、「ドーハの歓喜」もさらに再び。

 一見して絶望的に思えたグループステージ突破だが、コスタリカがドイツと引き分けてくれれば、日本もスペインと引き分けることで可能性はなくはない。

 

 つまり初戦を0-7で大敗したコスタリカは、第2戦で、レアル・マドリードでも正ゴールキーパーを務めた世界的なGKケイラー・ナバスを中心に、日本の猛攻を90分間防ぎ切って無失点に抑えており、この流れがそのまま第3戦に向かうことは必至で、強豪ドイツを「ゼロ封」する可能性も全くないわけではない。

 

 少なくとも日本戦で大会にも慣れて、練度も上がって、起死回生の勝利で意気上がるコスタリカが、初戦と同じような無様な大敗を繰り返すことは考えにくいし、母国に対してもそんな無様な試合を二度も見せたいとは思わないだろうから、コスタリカも日本と同様、第3戦を背水の陣で臨んでくる。

 

 ましてコロンビア人のルイス・スアレス監督は名将中の名将であり、ドイツに勝つことができればグループステージ突破(しかも1位もありうる)の可能性も残っているため、そこまで一方的な試合になることはない。

 無論、コスタリカが勝ってしまえば、日本の突破もほぼなくなるが、日本戦でも全く攻撃のかたちがなかったように、コスタリカが現状ドイツから点を奪うことは不可能なので、守護神ナバスとドゥアルテ、ワストン、カルボらから成る5バックのディフェンス陣を中心に、とにかく90分間ドイツの猛攻を防ぎ切れるかがカギになる。

 

 コスタリカがドイツと引き分けてくれれば、コスタリカは勝ち点4、ドイツは勝ち点2となるが、コスタリカはスペイン戦で7失点しているため、スペインと引き分けて勝ち点4となった場合の日本には得失点で勝てず、コスタリカがグループステージ敗退となる。

 

 そして前述したように、スペインは日本戦で引き分けても勝ち点5となり、1位突破が決まるので、現状優位な立場にあるスペインはモチベーション的に、ボールを支配こそすれ、無理にリスクを負って、前がかりになって点を取りに行く必要もないのも事実であり、日本もその点では、スペイン相手に「引き分け」はまだ可能性は十分あるのである。


 逆に日本が、コスタリカ戦で謎のベンチスタートだった三苫や伊東を先発させるなどして、スペインから先制点を奪った場合は、俄然グループステージ突破の芽が出てくる。

 

 そして現状、試合開始時の状態で、そのままどちらの試合も0-0、イーブンで行けば、日本が勝ち抜けられるのである。
 

 但し、ドイツがコスタリカから1点でも取ってしまったらジ・エンドと思った方がいい

 

[訂正]

 名波浩さんの言うように、確かに日本がスペインから得点を取って引き分けた場合は、ドイツが順当にコスタリカに勝っても、1-0までなら、日本が決勝トーナメントに進む。

 つまりこの場合、日本とドイツが得失点差±0で並び、総得点でも日本がスペインと1-1の引き分けなら、ドイツと並ぶため、当該チーム同士の成績で、日本がドイツを上回るということになる。

 よって、ドイツは得失点差で日本を上回るために、日本がスペインと引き分けた場合、コスタリカから2点以上取らないと予選突破できない。

 ただ、名波さんが言われるような、日本とスペインが1-1以上の得点を取っての引き分けで、かつドイツがコスタリカから1点だけしか取れないというのも、かなり低い確率であろう。

 だが、コスタリカが順当にドイツに負けても1失点までなら、日本にとっては、1-1以上でスペインと引き分けられたらOKなのである。

 日本が2度目の奇跡を起こして、スペインに勝つことができない場合は、日本は点を取って負けないこと、そしてコスタリカが負けても2失点以上しないことが、日本が1次グループを勝ち抜ける条件となる。

 

 

 

 だが、日本が全くスペースのないコスタリカの守備を崩せなかったように、ヴェルナーやロイスを欠き、ケガ上がりのザネも本調子ではないドイツも、コスタリカの守備を崩すことはそうそう容易ではないはずだ。

 

 まず初戦のスペイン戦のコスタリカは、最初は4バック、4-4-2で入って、つまり大陸間プレーオフで左MFのベネットのドリブル突破によるゴールで先制したニュージーランド戦と同様、全くベタ引きしない「普通の陣形」で入ったが、「スペインがスゴ過ぎてまったく敵(かな)わない!」とわかるや否や、センターバックの長身ワストンを入れて5バックにして、試合中にシステムの抜本的な修正を迫られるなど、大混乱していたから、「7失点」とは言っても、最初から完全に守る気で、5バックでスタートした日本戦とは全く前提が違うのである。
 

 つまり、ドイツ戦もニュージーランド戦のように攻めに行くというかたちではなく、日本戦と同様、念入りに守りに行く準備をして、最初から5バックでガッチリ守りに入って、日本戦勝利で注目が集まる母国に対して、日本戦以上のスーパープレイをドイツ戦でも見せようとするだろう。

 だから、日本のグループステージ突破のカギは「日本がスペインから先制すること」と、「ドイツがコスタリカからなかなか先制点を奪えないこと」の二点に尽きる。
 

 

 

 

 

 

 





 

 

 

 

11月24日 ワールドカップで日本がドイツに勝利/サウジがアルゼンチンに勝利ほか

 

  

(2022年11月23日  NHK「FIFAワールドカップ2022 1次リーグ・E組『日本×ドイツ』)

 

 

 前半終了までは誰もが「やはり厳しいだろう」と思ったはずだ。

 前半終了間際、アディッショナルタイム4分のドイツの怒涛の波状攻撃。

 キミッヒの左足からの強烈なシュートを、キーパー権田が弾いたリバウンドに、左サイドからニャブリが折り返して、ハフェルツが右足で押し込み、日本のアナウンサーがドイツの2点目を認めてアナウンスした時-。

 しかし、幸いにもVARでオフサイドの判定で救われた。

 くしくも前日に日本と同様、前半だけでアルゼンチンにPKを献上してからの、ラウタロの2点目の得点がVAR判定で取り消された時のサウジアラビアの状況によく似ている。

 だが後述するが、今のアルゼンチンとドイツとでは、ドイツの方が圧倒的に格上であり、最も組織されたサッカーをするドイツに対する2失点は完全な勝ち点ゼロを意味する。

  

 もっとも、試合開始直後は、完全なオフサイドで取り消されたが、様子見のドイツ相手に、ギュンドアンからボールを奪った流れから、伊東のセンタリングに前田が合わせて先制点と思われたシーンもあって、そうした序盤の良い流れのうちに点を取り切れなかったことが、優勝候補相手に後々尾を引くとも思っていた。

 「前田が、久保が、よく頑張った。でも、権田の好セーブもむなしく、世界最高峰のドイツの攻撃の前に『0-2負け』した。」

 そうした49歳の私が、20代の時から無限ループのように見飽きたシナリオ、20年来聞いてきた「侍ブルー」に対する気休めで慰めの言葉が聞こえてくるところだった。

 

 ところが、私も大学3年の時にテレビで生で見ていたドーハの悲劇をよく知る森保監督が奇策に打って出る。

 「勝負師」森保監督は全くの切り札、別のオプションを持っていたのだ。

 

 ただ、「3バックを試していた」というのはよく報道されていて、17日のカナダとの強化試合でも試されたが、右ウイングバックの山根のシュートがゴールポストを叩いてからの、試合終了間際の山根のファウルによるPK献上で、カナダに逆転負けを喫した試合でもあり、あまり良い印象は持っていなかった。

 

 この強化試合で先発したケガ上がりの浅野の動きも良くなく、試合勘がないため、精彩を欠き、コンディションが悪そうな素振りを見せていた。

 事実、私も「浅野は完全にダメだろう」と思っていたが、これはマスコミや対戦国をだますために三味線を弾いていた、つまりワザと演技をしていたと見ていい。 

 

 

 

 

 

 だが、この上の図にもあるように、前田と鎌田の2トップに見える4-4-2の布陣を、なんと後半開始から、攻撃の要(かなめ)である久保をセンターバックの富安にスパッと代えて、あえて3-4-3に変更してきたのである。

 その後も、後半12分の浅野と三苫の同時投入、酒井のケガなどで堂安と南野をほぼ同じタイミングで投入して、上の図の右のような3-4-3の攻撃的な布陣となった。

 

 つまり、MFの4人のうち、なんと3人がFWもこなす攻撃的な選手である。

 しかも鎌田大地は世界最高峰のチャンピオンズリーグとブンデスリーガとで得点を量産する点取り屋だが、後半からは遠藤と並んで守備的MFをさせているのである。

 つまり6人のFWを同時に使う豪華な布陣に変更して、残り時間の限られた「0-1のビハインド」の状態から、絶対的な優勝候補であるドイツに襲いかかったのである。

  

 日本の攻撃的な選手の一人一人は、確かにプレミアリーグ得点王の韓国代表ソン・フンミンにはまだ及ばない。

 しかし、サッカーは組織スポーツであり、かつ近年はコロナの影響で、交代選手が5人まで認められたのである。

 この日の日本は、前半はスピードのある前田と久保に「先陣」を切らせつつ、ありきたりの4-4-2のシステムで臨み、絶対的な強さを誇るドイツの猛攻に対しては「殿(しんがり)」の権田の献身的な好守で最少失点にしのぎながらも、結果的に1点のリードをドイツに与えて油断させつつ、後半からは超攻撃的な3-4-3の布陣に変更して、浅野、三苫、堂安、南野、富安の粒ぞろいの5人が「後詰め」に入って、ドイツに襲いかかり、最終盤に短時間で2点を取り切る―。

 

 最初の4-4-2システム自体が、ドイツを混乱させる作戦であり、見せかけであり、仕掛けと見ていい。

  

 森保監督は、近年、選手層が薄いながらも、3-4-3のシステムで良い結果を残しているブライトンとフランクフルトの試合を見る機会が多かったのだろう。

 なにしろブライトンには日本代表の三苫が所属し、フランクフルトには同じく鎌田が所属しているのだから。

 世界最強リーグのプレミアリーグで旋風を巻き起こしているブライトンに、昨年のヨーロッパリーグで優勝して今年のチャンピオンズリーグでも快進撃を続けるフランクフルトの成功は手本となったに違いない。

 事実、鎌田のボランチ(守備的MF)起用は、フランクフルトでもよく見られる戦術であり、かつての守備的MF稲本潤一のように、2列め3列めからゴール前までオーバーラップしてきて得点を決めるパターンはこのワールドカップ直前のヨーロッパの大舞台でも機能していた。

 また、ボランチとして期待されてチャンピオンズリーグでも鎌田と同じ組で競っていた守田のケガもあったのだろう。

 あえて柴崎や守田ではなく、点を取るのが仕事のストライカーながらも、真面目で堅実・実直な人柄の鎌田にボランチを任せたのである。

 

 但し、解説の福西さんは、「(左ウイングバックの)三苫の位置が低すぎる」と言われていたが、確かに左サイドの低い位置の長友のようなポジションだったが、ブライトンに入る前の昨季のユニオン・サンジロワーズの時も、三苫はあのような左ウイングバックの守備的なポジションだったし、事実、ブライトンでは、今売り出し中のベルギー代表のトロサールが3-4-3の1トップをやる時もあれば、長友のような左ウイングバックをやる時もあり、三苫はサイドのスペシャリストとしても点取り屋としても結果を出し続けるトロサールを一番近くで見ているのである。

 そして10月29日の、今季の途中までブライトンを指揮していたポッターが監督に就任したビッククラブのチェルシー戦で、トロサールと三苫が先発し、前半5分に左サイドハーフの三苫のアシストからトロサールが決めるなどして(くしくも日本戦にも先発していた1トップのハフェルツがこの試合もチェルシーの1トップで出ていたが)、日本代表の三苫が先発したブライトンが、ドイツ代表のハフェルツが先発したチェルシーに4-1で大勝している。

 

 思うに、スカローニ監督はアルゼンチン代表を「アトレティコ化(5-3-2で守るだけの攻撃のパターンがないチーム)」してしまったが、森保監督は日本代表を、先手先手を読む「将棋化」した。
 プレミアリーグとブンデスリーガの中堅どころで良い結果を残しているブライトンとフランクフルトの良い戦術を手本としたように見える。 


 そして今の世界最高峰のサッカーは、今季のチャンピオンズリーグでもバルセロナを完全に粉砕したバイエルンの選手を中心とするドイツである。

 事実、この日のドイツも、対戦相手が日本でなければ、ケチの付けようがない布陣であり、内容だった。
 その圧倒的強豪のドイツに勝つにはこれくらいの奇策を打たなければ勝てない。

 もちろん、そのドイツでプレーしている、点を取り切った堂安と浅野も見事である。

 この二人はフライブルクにボーフムと、地味なチームでプレーしているが、ドイツで培った、派手さのない堅実さと意志の強さを感じさせる。

 

 本大会ではすでにサウジに負けたメッシの衰えが非常に顕著になっているが、今のサッカーは、ヴィエリやイブラヒモヴィッチ、クリスティアーノ・ロナウドのような個々のタレント、「武」による力ではなく、「軍師」の時代に入っている。

 ヨーロッパの舞台からは完全に蚊帳の外、アウトサイダーのアジア勢であっても、大番狂わせを起こしたサウジのルナール監督や森保監督のように、監督と戦術が重きを成すのである。

 

 ただ、私は、日本の歴史的勝利に水を差すようで大変申し訳ないが、たとえ次のコスタリカ戦に勝ったとしても、まだ1次グループ敗退の可能性が十分にあると思っている。

 

 つまりは、同日に行われた、あまりのスペイン代表の出来の良さ。

 あれは、あの完璧なパスワークのポゼッションサッカーはマンチェスター・シティー以上である。

 あのスペインに勝つのは非常に難しい。

 つまり、1996年のアトランタ五輪で「マイアミの奇跡」と呼ばれた、私と同い年の前園を中心とした日本がブラジルに勝った時も、日本中に今と同じような歓喜があったが、「3強1弱の構図」、つまり勝ち点0のハンガリー以外の日本、ブラジル、そして同大会優勝のナイジェリアの3チームが勝ち点6で並んでしまい、日本は得失点差で涙を飲んだ。

 

 そして今回もまたアトランタ五輪と全く同じ構図なのである。

 コスタリカは96年のハンガリーと同じく勝ち点を取れないだろうし、スペインのあの出来を見てしまえば、96年のナイジェリアのように優勝する可能性がある。

 それでいてドイツも決して悪くないから、スペインに勝つ可能性も十分にある。  

 

 ドイツとスペインが引き分けてしまえば、完全に私の杞憂で終わるが、万が一ドイツがスペインに勝ってしまった場合、日本は最終戦のスペイン戦でも勝ち点を取らなければならなくなるという非常に厳しすぎるグループなのである。

 

 

■なぜ、またザネを使わない? 「タレントの宝庫」ドイツの戦術に疑問

 

 やはり前大会の1次グループ敗退と同様、バイエルンの主力でもあるFWのルロイ・ザネを起用できなかったことが痛い。

 前大会は一番の攻撃のタレントであるザネをあえて招集せず、その代わりセンターバックを無駄に6人も呼んで敗退したが、今回はザネを招集しているにも関わらず、右膝の負傷のため、日本戦では使えなかった。

 バイエルンの大黒柱と言っていいMFゴレツカが出てくるのは理解できるが、全く代表慣れしていないホフマンやムココに比べれば、バイエルンのザネは彼らとは段違いで得点の可能性が高いタレントである。

 さらにはFWとして完全に代表に定着していたヴェルナーをケガで招集できなかったのも痛い。

 この二人が出ていれば、ニャブリ以上に日本戦で点を取っている姿が容易に想像できる。

 

 日本戦では、ハフェルツのゴールがオフサイドになった他、当然日本のディフェンダーの素早い寄せもあって、ニャブリやギュンドアンが決定機を外しまくって勝ち点3を逃したが、ギュンドアンは元々守備的MFで、実質「ニャブリ頼み」となり、もしヴェルナーとザネがいたら、日本戦でキレキレだったムシアラや、ベテランのミュラーとの連携で、流れの中でも何点かは得点していただろう。

 

 また、ディフェンスラインにシャレッターベック、ラウムと、新しい選手を起用するのもいいが、ヤープ・スタムやヤン・コラー似の長身で屈強なセンターバックであるジューレの右サイドバック起用は奏功せず、ドイツにはもっとサイドバックで上下動のできる酒井宏樹のような傑出したタレントがいたはずだ。

 完全に地味だが、ライプチヒに所属するハルステンベルクとクロスターマンの二人、それにインテルのゴーセンスがそれに当たる。

 運動量が多くて堅実な仕事のできる彼らが日本戦に出てくれば、流れの中の失点やさらに厳しい戦いを余儀なくされただろう。

 ドイツは前大会では韓国にも負けていたのだから、返す返すも詰めが甘いとしかいいようがない。

 

 日本戦のジューレとラウムの両サイドバックは日本にとってはそれほど脅威ではなかったと思う。

 もちろん、驚異的なスピードと身体能力を誇るレアル・マドリード所属のセンターバックのリュディガーは、スキップをするような飛ぶような走り方で日本の攻撃陣を徹底マークして、大いに機能していたが。

 だが、ドイツが2連敗することは考えにくいので、やはり日本はスペインにも勝つか引き分けるかしないとダメなのである。

 

 

■日本の奇跡の伏線? サウジアラビアがアルゼンチンに逆転勝ち


 アジアで最も強い強豪国だったサウジアラビアも、近年のワールドカップではフランスに0-4、ドイツに0-8で大敗した後、2014年のW杯には出場できず、2015年のアジアカップではウズベキスタンに負けてグループステージで敗退し、続く2019年のアジアカップでも、今大会の開幕戦で全くいいところのなかったカタールに敗れていたサウジアラビアが、まさかのメッシ率いるアルゼンチンに逆転勝ちした。
 

 ただサッカー通の私として、「サウジは勝つべくして勝ち、アルゼンチンは負けるべくして負けた」と思う。
 まず日本のメディアでは名門チーム「アル・ヒラル」の選手が代表に多いことを強調していたが、それはサウジが弱かったころの話で、確かに今回もアル・ヒラルの選手が主力を占めるが、私の聞き覚えのない、今大会で大抜擢された守備的MFのアル・マルキや右サイドバックのアブドゥルハミドは一応はアル・ヒラルの選手ではあるが、まだ「入団したて」で、数カ月前まではずっとアル・イティハドでプレーしていた選手たちであり、さらには1トップのブライカン(無頼漢?)やセンターバックのアル・タンバクティもアル・ヒラルの選手ではなく、実質スタメンの半分が「アル・ヒラル」ではなく、フランス人監督、ルナールの前例にとらわれない、これらの聞き慣れない選手の発掘と大胆な起用が引き起こした奇跡と言える。


 それくらい近年のサウジは、代表選手の大半を固定して使ってきたのである。

 それがGKデアイエのような驚異的な身体能力を誇る守護神や、FWアル・オワイランのようなストライカーがいた時代であればそれでも良かったが、そうした突出した個も現れなくなり、かつ、戦術面が重要となっている今の時代では、そうした固定した選手だけの起用だけでは限界があった。

 
 また、アル・ヒラルという同じチームの選手ばかり招集すれば、連携面が高まるとは言え、中国や中東のクラブの場合は資金力に物を言わせて、欧州やブラジルなどの多くの助っ人外国人に頼るチームがほとんどであり、シェフチェンコのようなスーパースターが自国から出てこない限りは、ウクライナのディナモ・キエフの組織力の強さをそのまま代表に反映できることは実はあまりないのである。
 

 逆にサウジのように閉鎖的な国のアル・ヒラルで、ずっと同じ顔触れのチームでプレーしていれば、自国リーグでは自分たちより強いチームも他になく、選手に刺激がなくなり、かつマンネリ化してしまう。
 

 そこでルナール監督は、「代表=外国人選手を抜かれたアル・ヒラル」という引き算ではなく、そこに足りない部分を補完できる、ブライカンやアル・マルキら無名なタレントを、国内の別の強豪チームから峻別して足したのである。

 それでいて何もかも変えるのではなく、カンノやサレム・アルドサリ、アル・シェフリ、ヤセル・アルシャハラニといった優秀なタレントやアル・ヒラル組はチームのベースとしてあえて残してチームの連続性を保ちつつも、別のクラブで活躍する選手たちを、要所のポジションで大抜擢して、これまでのそつなく仕事をこなすだけの「無難な顔ぶれ」から、「ストロングポイント」に変えてきたのである。

 

 しかも挑む相手はメッシ率いるアルゼンチン。

 監督が鼓舞せずとも、モチベーションは高かったに違いない。
 

 長年、ワールドカップの舞台で強豪国相手に大敗してきたイスラム教の宗主国としてのプライドもある。
 かつてジェフ市原の選手を重用したオシムの「オシム・チルドレン」ならぬこれら「ルナール・チルドレン」に、前述したベテラン勢が融合して、長時間守備的に試合をコントロールしながら、得点が必要な「ここぞ」という時だけ蜂の一刺しで刺すという中東勢独特の完成度の高いサッカーを、スーパースターのメッシ率いる超格上相手に見事に実践できた。
 

 

[11月28日 追記]

 

 サウジのアルゼンチン戦勝利の躍進の背景には、日本と共通するものがあった。

 それは昨年の「東京五輪出場」である。

 サウジは優勝したブラジル、ドイツ、コートジボワールのいる大変厳しい組に入り、3連敗でグループステージで敗退してしまったが、ドイツ戦で2-3と健闘するなどしていた。

 

 22日のアルゼンチン戦に先発出場していたうちの4人、右SBのアブドゥルハミド、左SBのヤセル・アルシャハラニ、キャプテンのMFアル・ファラジ、左ウイングFWのサレム・アルドサリが東京五輪のドイツ戦にも出場していたのである。

 

「サウジの内田篤人」というべきサイドバック(SB)のタレント、ヤセル・アルシャハラニは、アルゼンチン戦の終了間際に、味方のキーパーと激しく衝突して負傷し、脳しんとうを起こして一時危険な状態となって、負傷させてしまったGKアル・オワイスは頭を抱えて、続くポーランド戦では彼を欠いて敗れたが、両SBが東京五輪で経験を積み、ストロングポイントとなって、サウジのチーム力が底上げされた感がある。

 また、26日のワールドカップのポーランド戦に先発したDFアル・アムリやMFのアル・ナジも、東京五輪のメンバーとしてドイツ戦に出場して、アル・ナジは2得点していたのである。

 昨年の五輪でサウジと対戦したドイツの五輪代表は、ブンデスリーガでプレーしている選手ばかりであり、ワールドカップの日本戦に先発出場した左SBのラウムやCBのシュレッターベックも含まれていた。

 

 開催国のカタールが、アジアカップやコパアメリカでチームを強化できた2019年以降、全く真剣勝負の機会がなかった間に、サウジアラビアは、昨年の東京五輪の舞台でも、日本が対戦したばかりのドイツ相手に真剣勝負をして、負けたとは言え2得点するなどして良い強化をしてきたのである。

 

 さらにはコートジボワールにも1-2、ブラジルにも1-3と敗れはしたものの、大健闘していた。

 そしてワールドカップのアルゼンチン戦で決勝ゴールを決めたサレム・アルドサリは、昨年の東京五輪で、アフリカの強豪コートジボワールからも得点を決めていたのである。

 

 サウジにとっては本番の前年に、ワールドカップに近いスケジュール感で、ブラジル、ドイツ、コートジボワールという世界屈指の強豪と真剣勝負ができたことはこの上ない代表チームの強化となったに違いない。

 

[11月28日 追記ここまで]

 

 

 

 サウジアラビアには自国リーグでプレーしている選手しかなく、また全く同じ条件ながらも、監督としての実績が乏しいカタールとの監督の違いが如実に出た。
 開催国カタールが予選免除で真剣勝負の機会がなく数年を不毛に過ごしている間に、ルナール監督のサウジアラビアは、アジア最終予選でも、柴崎のバックパスのミスから得点するなど、欧州でプレーしているタレントが一人もいないチームを、日本にも勝てるチームに成長させていった。
 

 弱かった時のサウジにも、「サウジの小野」というべき司令塔シャルフーブに、FWには点を取りそうな名前のナイフがいて、中盤もタイシール(アル・ジャシム)にヌールなど、タレント豊富で、ディフェンスにも屈強なオサマ・ハウサウィがいて、決してタレントで今より劣っていたわけでは全くなかったので、つまり「サッカーは監督がすべて」とは言わないまでも、非常に重きをなすのである。

 ところでサウジのサッカーをよく知らないマスコミの中には、サウジのDFアル・ブライヒがメッシに対して無礼な言葉を放ったことで、「サウジのサッカーそのものを否定しよう」という論調があるが、仮にメッシに対して礼儀正しくても、0-10で大敗すれば、メッシからは全く相手にされないしレスペクトもされない。

 2002年にブラジルに負けた後の中国代表のように、ユニフォームも交換してもらえないというのがプロの世界である。

 アルゼンチンを下したサウジに対しては、アルゼンチンはプロである以上、プロとして敬意を払わないわけにはいかないのである。

 アル・ブライヒの態度は褒められたものではないが、欧州のサッカーシーンではレイプや女性に対する暴行で逮捕される選手がゴロゴロいる。

 そうした選手というか、犯罪者には一切注目しないで、ワールドカップで注目されているからというだけで、サッカーの試合の中だけでメッシに口汚く対応したアル・ブライヒに非難の矛先を向けるというのはいかがなものか。