可愛いが好きで何が悪い10

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 結局、迷子センターへ到着する前に、2人の親は見つかった。見つけたのは自分ではなく連れの男で、改めて、本当に特殊な目を持っているのだなと思う。
 花火大会が終わった後で人が減っていたのが良かった面もあるとは思うが、焦った様子で辺りを見回し何事か呼びかけている女性と保護した迷子の繋がりを、顔で判断できるのは素直に凄い。
「ありがとうヒーロー!」
 満面の笑みでお礼を言って去っていくのを、同じように満面の笑みで手を振り見送った男に、素直に凄いと思った気持ちのまま口を開く。
「お前の目、こんな形で役に立つと思ってなかったわ」
「それは俺自身がかなり驚いてる。でもお前でも気付けるようになるんじゃない?」
「いや俺は顔の特徴で血の繋がりなんてわかんないけど。俺、自分が今も姉貴と似てるなんて、全然思えないし」
「じゃなくて。不安で泣きそうになってる子供が目に入るんだから、子供探して必死になってる親にも気づけるんじゃないの? って意味」
 彼には子を探す親がかなり目立って見えたらしい。それを疑問に思った後、顔も似てる気がするしもしかしてと、手を引く迷子に確かめたら当たりだっただけだそうだ。
「あー……どうだろな。親が見つかるかもとか考えたことないし、探したこともなかったし」
 迷子を見つけたら保護して、スタッフや警備員などに託すか自分で迷子センターに連れていけばいい。というのを馬鹿の一つ覚えのように守っていて、それ以外のことを考えたことがない。迷子と簡単な会話を交わすことはしても、一緒になって親を探そうなんて展開になることはなかった。
 というかそんなの正直、無駄でしかないと思っている。ついでに言うなら、迷子を連れ回すというリスクもある。お前こそが連れ去り目的じゃないのかと疑われたらたまらないので、まっすぐに迷子センターを目指すのが正解なはずだ。
 その途中で親が見つかった今回は、彼の目があった以上に、きっと運が良かった。
「ああ、でも、迷子を見つけるってことは、視線が下向きってことでもあるのかも?」
「なんだそれ」
「さっきもちょっと言ったけど、俺、今日、ここで何人かバイト先に来たお客さん見かけてるんだよね。でもそれに気づくのって、その人達の顔が目に入ってるって意味じゃん? で、俺がこの人混みの中、あの人みたことあるな〜って思ったの、全員大人なんだよ。でもお前はこういう人混みの中で、迷子の子供が目につくんだろ? それって、視線が下に向かいがちだからじゃない?」
「ああ、なるほど」
 そんな風に考えたことはなかった。
「って考えたら、俺と2人で迷子保護するのってかなり完璧な布陣じゃない? またどっか祭り探して遊びに行っちゃう?」
 あちこちのお祭り行って、お前が迷子見つけて俺がその親見つけるの。などと浮かれた調子で話しているが、迷子の保護は目につくから仕方なく行っているだけで、率先して迷子を探して歩いたことはない。
 あと今日はたまたま運が良かっただけで、親探しなど、やはり積極的にやるものではないという気持ちが強い。
「やだよ。面倒くさい」
「ええ、俺今日めっちゃ感動したんだけど!? ありがとうヒーローって言って貰ったんだけど!!」
 初めての迷子保護にプラスして、親を見つけてしまうという幸運が重なって、興奮しすぎている気がする。
「ありがとうって言われたいから迷子探しとか、ヒーロー気取りたいなら一人で勝手にやってくれ」
「お前が居なかったら迷子と出会えないじゃん」
「そういう目的で誘われるのは初めてだけど、正直面倒以外の何物でもないな。お前とは二度と一緒に人混みには出かけないことにする。あと一応親切心で言っておくけど、迷子連れてウロウロしてたらお前が通報案件だぞ。運良く迷子見つけても、親探しなんてやめて迷子センター連れてっとけ」
「ちょ、待って待って。忠告はありがたく聞いとくけど、色々極端すぎるだろ。あとどっちかっていったら、また迷子見つけたいってより、また一緒に遊びに行きたい、って部分がメインだったんだけど。バイト代出たら俺も年パス買おうかなって思ってんのに、迷子のいそうな人混みデートがNGになったら夢の国デートもできなくない!?」
「デート言うなよ。てかそれ、ナンパ断る口実になるってだけだろ」
 さっきみたいに。と思い出してしまって、小さなため息がこぼれ出た。
 友人というポジションで大学では彼の顔の広さをありがたく利用しているのだから、多少はこちらも利用されてやるべきなのかもしれないが、彼目当ての女子の反感を買いたくはなかった。
「違いますけど。本気でデート誘ってますけど。今日のこれも、俺は割と本気で、初恋の子と初めてのお出掛けってウキウキだったし」
 しかし少しムッとした様子で反論されてしまい、否定されたということだけはわかったが、いまいち意味がわからない。
「何いってんだお前」
「俺、言ったじゃん。お前見てるとドキドキするし、どっちかが女の子なら良かったなって思っちゃうんだって」
「いやでも、だったら俺も、どっちかが女子でもお前と付き合うとかないって言ったろ」
「でもそれ、俺が美形だから気苦労が、みたいな話だったじゃん。俺のこと嫌いとかじゃないじゃん。てか声かけられて愛想振りまくのを恋人って立場で見るのはキツイとか言ってたから、はっきりきっぱりデート中だからってお断りしたのに。あれでもアウトなら、どう断るのが正解だったの?」
 どう断るのが正解だったのか……と考えかけて、そうじゃないと頭を振った。
「いやいやいや。正解も何も、どっちかが女の子ならって前提どこ行った?」
 2人とも男な部分は変わりようがないのだから、恋人になんかならないし、デートだってしない。それで終わる話じゃないのか。
 相手が口を閉じてしまったので、無言のまま駅へと続く道を歩いた。けれど暫く歩いていたら、そっと服の裾を引かれて足を止める。
「なんだよ?」
「俺、お前が男ってわかってても、多分、間違いなく、惚れてる」
「は?」
「どっちかが女の子じゃなくても、お前と付き合いたいって思ってる」
 だってお前は俺のヒーローなんだと、途方にくれた顔でそんなことを言われても困ってしまう。
「そんなのいきなり言われても……」
「うん、ゴメン。俺もまだ混乱してる、から、……ほんと、ゴメン。今の、忘れて、いい」
 忘れていいなんて言われても忘れられそうになかったけれど、わかったと返す以外に何も言えなかった。

続きました→

 
 
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