ひとしきり泣ききったらしい相手が最初に口に出した言葉は「終わりにしたい」だった。
もちろんそれは構わない。結果的にこうして泣かせてしまったけれど、当初の目的は達成しているとも言えるし、そもそも相手を抱くことにそう強い拘りがあるわけじゃない。急いでいないし、次でもその次でも、いっそもっと先でも、相手の気持ちと体の準備がしっかり整うまで待てばいい。
そんなことより、わけもわからないまま泣かせてしまった方がよほど重大だ。
たしかに嫌だとは何度も言われたが、あの場面でのああいった反応を、本気の拒絶だなんて思えるわけがなかった。という部分くらいしか、思い当たることがない。
もし宥めすかして触れ続けたことそのものが泣くほどの原因だったとして、そもそも何がそんなに嫌だったのかもわからない。
とりあえず落ち着いて話を聞くつもりで、少し迷った末に、二人並んでベッドの端に腰掛けた。正面から向き合って顔を見つつ話したい気持ちはあったが、相手は顔が見えないほうが話しやすいかも知れないと思ったからだ。
「終わりにするのはもちろん構わないけど、同じ失敗はしたくないから、泣いた理由は教えて欲しいな」
「あなたは何も、悪くないので」
「いやいやいや。俺が何も悪くなくて、あんなに泣かれるの、もっと意味がわからないよ?」
「いえ本当に。俺の方の問題だから。泣いて、すみませんでした」
「謝られたいわけじゃないっていうか謝るのは俺の方でしょっていうか。あー……じゃあ聞き方変えよう。俺とキスするのは嫌じゃなかったよね? 触られるのは? どこからが嫌だった?」
「どこから、って」
これはもう細かに聞いて確認していくしかないか、という気持ちになって問いかけてみたが、相手からは戸惑いばかりが伝わってくる。
「それなら、おちんちん触っちゃダメだったのはなんで?」
「それは、触られたら、感じちゃう、から」
「感じたらダメなの? 俺はいっぱい、君が気持ちよくなるところを見たいよって、言ったと思うんだけど」
「で、でも、お、俺ばっかり気持ちぃのは、違う、と思って。それに……ぁ、いや」
「それに? 続きも聞きたい」
「や、ほんと、なんでもないです。ていうか終わりにするなら、俺のことはもう、いいじゃないですか」
「良くないでしょ。次に君がこういうことしてもいいって思ってくれた時に、また泣かせたりしたくないよ?」
「次、ってなんですか? 終わりなのに?」
「え? って、いやいやいや。そんな、え、いやいや、まさか」
二人の間で終わりの意味が違っている、というのは感じたが、相手が言う終わりの意味を理解したくなくて、思わず否定の言葉だけを重ねてしまった。
「どうしました?」
心配する気配とともに相手が窺うようにこちらを向いたのがわかったので、こちらも相手を振り向いてその顔を確認する。本気でこちらの不審な言動を心配しているだけらしく、別れを切り出されたらしいと知って受けたこちらの衝撃には、一切気づいていないようだった。
「一応の確認なんだけど、終わりにしたいって、俺達のお付き合いの話?」
「そうですけど」
「だよねぇ。じゃあ撤回で」
「えっ?」
「お付き合いは終わりにしません。俺が終わりでいいよって言ったのは、今日はこれ以上エッチなことしなくていいよ、って意味だから」
「えっ?」
「というかますます深刻な話になったんだけど、ほんと、俺の何がダメだった? 別れたいほど酷いことした自覚、マジで何もなくて困る」
「や、だから、あなたは本当に何も悪くないので」
「いやいやいや。お付き合いしてて別れを突きつけられてる側が、悪くないなんてあるはずないでしょ。というか別れてって言われる理由がわかってない、ってだけでも、充分俺にも非があるよね?」
「あなたに非なんてないですよ。だって最初っから、ちゃんと教えてくれてたし。そもそもこれって、お試しのお付き合い、ですよね?」
「そうだけど、何の問題もなくお付き合い出来てる気でいたから、本当に、別れたいって言われる意味がわからなくて。ていうか俺に抱かれるつもりで準備までしてくれた子に、エッチの最中に泣かれまくって、挙げ句に別れたいって言われるって、ほんと、何したの俺」
「ほんとは最後までちゃんと抱かれてみたかったけど、抱いて貰っても、多分、わかれてって言ったと思うので。あなたのエッチが下手だったとかそういうのじゃないですし、あなたは悪くないです」
またしても衝撃の事実が告げられて驚く。
「え、じゃあ、もしかしてもっと前から、別れを考えてたってこと?」
「まぁ、そうですね」
なるほど。と思ってしまったところはある。それに全く気づかずに、自分だけはしゃいでデートを楽しんでしまったから嫌気が差した、って話なのかも知れない。
「ごめん。一緒に楽しんで貰えてるとばかり、思ってた」
「楽しかったのもありますよ。俺のこと構って楽しそうにしてるあなたを見るのは、俺がその顔をさせてるんだって思うとなんだか不思議で、嬉しかったです。ただ、同じようにただただ楽しめない自分に気づいて、それが苦しくて。つまり同じようには楽しめない俺が、悪いんですよ」
今日のエッチも同じです、と相手の言葉が続いていく。
「あなたは凄く楽しそうだったのに、同じように楽しめないどころか、どんどん苦しくなって泣いて困らせて、最後まで抱いて貰うことすら出来なかったんだから。だからもう、終わったほうがいいです」
「どうして苦しくなるの? 原因それなら、一緒に楽しめる方法を探せばいいんじゃないの?」
言えば心底困った様子で笑う。
「なんでそこだけ鈍いんですかね。あなたが最初に言ったんですよ。もし俺が、ものすごく真剣にあなたに恋をしているなら、その気持ちに応えるのは躊躇う、って」
「えっ?」
「あなたと試しにお付き合いしたら、俺の気持ちはどんどんあなたに向かって膨らんで、ちゃんと恋になったんですよ。だから、終わりにさせてください。俺ばっかり本気で好きになっちゃって、ごめんなさい」
「ちょっ、待って待って待って」
そんな理由で振られるとか、絶対に許せない。受け入れられない。第一、彼は大きく誤解している。
「俺だって君を、ちゃんと本気で好きになってるんだけど!?」
言えば相手の目が驚きで見開かれるのがわかった。
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