「measurement problem」Takeman
久々の新作短編です。
カリブ海に位置するハイチ共和国で山下は目の前で亡くなった女の子が生き返る場面に遭遇した。しかしその女の子の心臓は止まったまま。彼女はゾンビとなってよみがえったのだろうか。 『mycetozoa goal』『nation causality』のドタバタコンビ、山下と小路丸の二人がこの謎を追う。


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プシュケーの海

第三回かぐやSFコンテスト最終候補作品

https://virtualgorillaplus.com/stories/pusyukeenoumi/

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sense of loss: 貞久萬短編集

「sense of loss: 貞久萬短編集」

ただいま無料キャンペーン中です。


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sense of loss: 貞久萬短編集

三冊目の電子書籍を出しました。




やがて喪失していくものたち。
失われていった空白の場所に現れるのは寂しいという気持ち。
それはいったいどこからやってくるのだろう。

入院中の寿々子は病棟の窓から山の向こうを見つめる。帰る場所はあの山の向こうにある。「いんでくる」
事故で脳を半分失い、意識不明となった夫を助けるために妻はある決断をする。「死がふたりを」
島の災厄を防ぐために計画されたのは高度1400メートル上空に果樹園を作ることだった。「甲種無害化景郭319号」
失われた物語を立ち上らせる、ほぼ注釈だけでできた物語「地球の緑の丘」
その音楽が演奏されている時間だけ、僕のいる場所は別の世界になる。「3分49秒間の魔法」
罪の報酬は死なのよ。報酬を受け取ってしまった理恵の代わりに俺は……「FOR GOOD」
生まれてからすべての記憶を持っている夫と、少しずつ記憶を失っていく妻の話「散花は水に流れ行く」

描き下ろし新作2作と幻の1作を含めた全17作を収録。あいかわらずの長いあとがきもついてます。

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デュオ

 カーン! ゴングが鳴った。

 グローブ越しに見えるニヤつく顔が引き締まる。そしてまたニヤついた。わずかな時間で俺は値踏みされ、やつは勝てると確信したのだろう。なめられているのなら勝ち目がある。ステップを踏みながら間合いを詰めていく。さっきまでうるさかった外野の音も気にならなくなる。世界は静かになった。この四角い世界にいるのは俺とやつだけ、さあ、デュオの始まりだ。
 やつは細身でひきしまった体をしている。俺もそうだが、俺はただの人だったのに向こうは生粋のボクサーだった。無駄な贅肉などない棍棒のような腕が俺を貫こうとする。ディック、初めて会ったのは刑務所のなかだったな。あんたは忘れているだろうが、俺は忘れることはない。あんたが刑務所から出てもプロボクサーのままだということも。だからディック、あんたを倒すためにここまで這い上がってきた。刑務所ではひざまずくしかなかったが、今日はあんたがひざまずく日だ。
 近づきながらゆっくりと左へと回り込む。まだ試合は始まったばかり、まずはじっくりとやつの出方を見る。やつもたぶん、俺の出方をさぐっているのだろう。左ジャブをくりだすと厚いグローブに防がれる、そしてタイミングを測っていたかのようにやつのパンチが飛んでくる……。

 ゴングが鳴った……。

 メリっと肉体にめり込んできた。脳みそに向かって痛みが駆け上がってくる。防いでも防ぎきれない隙間をそれは突き抜けてきた。
 ピストン運動。短いストロークで何度も何度もめり込んでくる。心はまだ崩れ落ちていないのに体は崩れ落ちそうだ。
 涙があふれ、こぼれ落ちる。濡れたくもないのに濡れ始めるのを感じた。男だというのに濡れるのか。

 ゴングが鳴った。

 さっきよりもすばやく前へ進みながら、軽く左のジャブを繰り出す。よけられてまた繰り出す。今度はグローブで防がれる。体力では相手の方が勝っているのも知っている。それでも、手を出さなければ負ける。左に回りながらジャブを繰り出す。グローブとグローブがあたるとバシンという音が響く……。お互いに手数の戦いになる……。
 ディック。気づかないのか。あんたは俺のことを忘れているのか。スキンヘッドにし、あのころとは変わり果てた風貌となった顔だからじっくりと見なければ気がつかないだろう。そして舐めてかかっているから俺の顔をじっくり見ることもない。ニヤついた顔が消えた。右が来る。とっさにガードして重心を後ろに移動させたところで意識が飛んだ。
 数字がカウントされる。油断した。立てるか、立てるか。あわてるな。まだ時間はある。ゆっくりと立ち上がる。まだ立ち上がれる。

 ゴングが鳴った……。

 眼前に恍惚の笑みを浮かべたやつの顔が見える。ディックは何度も何度も短いストロークを繰り返している。俺は手足をもがれた小鳥のようだ。
 舌なめずりをしてやつの顔が近づいてきた。顔が重なる。皮膚が触れ合う。隙間をこじ開けて入り込んできた。ぬるり。血の味がする。さっき殴られたときに切ったのだろう。ぬるり。やつはこの味を楽しんでいる。一方的に蹂躙される。叫びたくても叫ぶことができない。口のなかに詰め込まれているものが叫びを遮り、うめき声しかだすことができない。

 ゴングが鳴った。

 迂闊に前に出た瞬間、左フックを食らった。反射的に俺の右腕はやつの腹を打つがはずれ、そのまま前に出て抱きついた。体が重なると息づかいが聞こえる。「まだ遊ばせろよ」やつの声が耳のなかを通り抜けていった。ゾクリ。気がついているのか、俺だということを。いや、そうじゃない違う。だが、次で沈める。

 ゴングが鳴った……。

 無法の世界では力こそ全て。弱いものはひれ伏すしかない。ここはその世界。灰色の四角い世界だ。そして男だけの世界で俺のような力のない人間はやつの餌食でしかなく、稚児あつかいされる。今日もやつは俺を求めてくるが助けはこない。看守を呼んだところで助かるのはその日だけで明日は今日よりもひどくなる。だったら、今日を我慢さえすれば明日も今日と同じだ。
 やつは俺に言う。「ひざまづいて、けつをだせ」
 今日もディックは俺の下半身を貫いてくる。棍棒のような ディック を。短いストロークで何度も何度も俺をつらぬく。俺の体はやつを受け入れる。下も上も。やつは俺の穴を求めてきた。四年前の悪夢は頭のなかで続く。

 ゴングが鳴った。第四ラウンド。

 無法の世界から抜け出して、ここは法の世界。だがここも力こそ全ての世界。四角いリングだ。俺はクリンチした。
「俺だよ、気が付かなかったのか、四年前のことなのに」やつの耳元にささやく。「刑務所であんたはさんざん俺のけつと口を嬲ってくれたな」
 レフリーに離される。驚きの表情が見えた。その瞬間をのがさず、前に進み右を繰り出す。ボディに一発。そして左のストレートをやつの顎めがけて。もう一発右を出そうとしたところでレフリーに止められた。やつはどこだ。足元にやつがいた。少しづつ増えていく数字が聞こえる。やがて俺の腕が引っ張られた。うるさいほどゴングが鳴り響いている。そうか勝ったのか。あしもとで立ち上がろうとしている男に俺は声をかける。
「勝利のキスでもしてやろうか。舌をいれてな」
 インターバルのたびに起こっていたフラッシュバックは終わりだ。もう起こらない。

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ネットプリント豆本

「Gravity」貞久萬

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予約番号 17783572
A3 白黒:20円
印刷期間 2022/07/05迄