何か読めば、何がしか生まれる

純文学からラノベまで、文芸メインの読書感想文です。おおむね自分用。

ゆく年(2022年)におくる44冊

 「激動」という言葉もだいぶ月並みになってきた感があるが、それでも「激動」と形容したくなる2022年も終わりに近づいた。多忙で、ブログに投稿するのも1年ぶりという不良ブロガーの“年間記録”めいたものとなるが、はてなブログの運営からちょうど特別お題「わたしの2022年・2023年にやりたいこと」も出ていることだし、このたびも過ぎ去っていく年に捧げる本たちについて書くことにする。

 例によって、話題や売れ行きにはあまり拘らず、個人的に気になった、人に薦められた、実際に触れて印象的だった本などをおおむね時系列で挙げる。
 それでは、1月から挙げていこう。

1月(2冊)

 15日、ポリネシアの群島国家であるトンガ王国のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山で大規模な噴火が発生した。VEI(火山爆発指数)は5であり、相当な巨大噴火であるとされる。
 発生からしばらくは現地との通信が途絶し、日本でも津波警報などが出された。現地の安否と、その後の地球規模の影響が危惧されたが、不幸中の幸いというべきか、気候変動などへの影響は今のところ無いようである。

 上掲書は、そんなトンガの社会で見られる贈与と「ふるまい」についてフィールドワークを元に書かれた本である。トンガの人々が今後も無事であることを祈りつつ紐解きたくなる。

 19日、第166回となる芥川龍之介賞直木三十五賞の選考委員会が開催され、芥川賞を砂川文次氏の『ブラックボックス』が、直木賞を今村翔吾氏の『塞王の楯』と米澤穂信氏の『黒牢城』が受賞した。

 近年、私としてはあまり文学賞の受賞作に食指を動かされることがないのだが、《古典部シリーズ》に親しんできた身としては、米澤氏の受賞は素直に喜ぶ気になった。上掲の受賞作は、本能寺の変から4年前を舞台とした歴史ミステリ小説。著者の歴史に対する興味は《古典部シリーズ》でも垣間見えたところだが、本作はどのように企まれたか、いつか読む時を楽しみにしたい。

2月(4冊)

 1日、石原慎太郎氏が死去された。東京都知事だった氏が、芥川賞作家であり、往年の名優・石原裕次郎の実兄でもあることは、かつては有名であったが、今の世の中ではどうだろうか。

 上掲書は、とある批評家が相当な高評価を付けた1冊。著者の人生の中で味わった凄絶な瞬間の印象を40の掌編として結実されたものである。政治家としての発言はたびたび考えものだったが、今となっては作家としての氏を味わいたい。

 5日、石原慎太郎氏とも親交があったと思われる芥川賞作家の西村賢太氏が死去された。21世紀に突如として蘇った、酒と暴力となぜか漂う軽妙さが持ち味の私小説家だった。

 明治を生きた無頼の小説家・藤澤清造の“没後弟子”を自称する氏の小説を、東日本大震災の後の一時、私は立て続けに読んだ。そこに表れた生き汚さのようなものが、その時の自分には必要に思えたのである。上掲書は、その初期の1冊。捨て鉢めいた書名が、氏の冥福を祈るに相応しいと思い挙げる。

 19日は、あさま山荘事件発生から50年となった。同事件は、極左テロ組織である連合赤軍が起こした人質を取っての立てこもり事件であり、それに先立つ仲間内での凄惨なリンチ殺人事件とともに知られている。

 上掲書は、連合赤軍幹部だった吉野雅邦(現・無期刑受刑者)と親交のあった著者による、一連の事件を追ったドキュメントである。50年という時間は、忘れるには充分なものに思えるが、しかし簡単に忘却してはならないこともあると思う。

 24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始、今日まで及ぶ長い戦争が始まった。21世紀を生きる多くの人が幾度も驚いたであろう戦争である。その凄惨さは繰り返すまでもない。

 多くのことがあり過ぎ、本の選出にも迷ったが、やはりロシアの文人による作品を挙げることにする。過去に感想を書いた本だが(当該記事)、本書の収録作「臆病者」の主人公が辿る物語は、現在のロシアでも変奏され続けているのではと思う。ガルシンの生きた19世紀と現在のロシアとが相似形を成していることに愕然とせざるを得ない。

3月(2冊)

 12日は、ファストフードチェーンであるモスバーガーの開業50周年の日であった。ファストフードというものを積極的に食べなくなって久しいが、そんな私がほぼ唯一食べているのがモスバーガーである。トマトが入っているのが好ましい。

 上掲は2006年に出た1冊である。50周年ということで新たに刊行された本もあるが、贈る本としてはこっちかな、という個人的な印象で挙げる。

 16日、福島県沖でM7.4の地震が発生した。3月11日に近いこともあり、ぎくりとした人も多かったのではと思う。幸い大事には至らず、2022年も何とか暮れようとしている。

 上掲は、京大教授であった火山学・地球科学の専門家である著者が行なった最終講義を書籍化したものである。いずれ必ず来るであろう大災害に対し、もっと学ばなければという気持ちにさせてくれる。それは絶望ではなく希望と捉えたいと思わせてくれる1冊と思う。

4月(4冊)

教えて南部先生! 18歳成人Q&A

教えて南部先生! 18歳成人Q&A

Amazon

 1日、改正民法施行により成年年齢が18歳に引き下げられた。また、女性の婚姻可能年齢が16歳から18歳となり、男女で共通となった。成人となるのが2年早まることとなり、関連する各所では想定される事態への対応に追われることとなった。

 上掲は、18歳成人たちに向けて書かれたと思われる解説書である。もちろん私自身は関係ないが、当事者たちが把握していない事項は当然あると思われるので、周囲の大人も踏まえておくのがよいと思う。

 7日、漫画家の藤子不二雄A氏が死去された。かつて漫画家としてコンビを組んでいたF氏も1996年に亡くなっている。

 上掲書は、漫画家2人の出会いからプロとなって活躍するまでを描いた、自伝的漫画の草分け的な作品である。私はあまりしっかりとし印象を抱いていないが、漫画家、あるいは志した人達は忘れ得ぬ作品と語ることが多いように思う。改めて読みたい。

 16日は、川端康成の没後50年を数えた日だった。
 『千羽鶴』『山の音』など読みたい作品は枚挙にいとまがないが、今の気分としては生き別れになった双子の姉妹の健気な姿を、京都の四季折々の情景とともに描いた上掲作を挙げたい。

 25日は、26歳で亡くなった歌手・尾崎豊氏の没後30年の日だった。私は氏をリアルタイムでは追っていなかったが、「15の夜」「卒業」「I LOVE YOU」など名曲だと思うし、世の人も同感なのだろう、今もしばしば耳にする。

 氏は数冊の小説も世に問うており、上掲はそのうちの1つである。連打されるような独白は、氏の歌と地続きのように思われる。

5月(3冊)

 15日は、沖縄が本土復帰されてから50年という日だった。
 沖縄には1度だけ訪れたことがあるのみだが、多くの点で魅力ある場所だと思う。一方で、太平洋戦争など歴史的な経緯をめぐり、日本国について多くの課題を示している場所でもあろう。

 上掲は、沖縄(特に基地問題)を巡ってあまり言語化されてこなかったであろう言説をまとめたものである。本書のみを鵜呑みにせず、現地で実感することとセットにしなければとは思うが、まず一見識として把握したい。

 同じく15日、Youtuberの「柚葉」氏が、「ゆっくり茶番劇」の登録商標を取得したことを発表した。これが商標登録問題に発展し、各方面からの色々な発言もあったが、6月8日には商標が抹消された。
 まず「ゆっくり茶番劇」が何なのかを把握する必要があったが、大胆に要約すれば、“皆が共有していた面白い物事の呼称を独り占めしようとした”ということではないかと思う。

 上掲書はSNS時代にキャッチアップした著作権の考え方を示した本である。新しい技術に対して法律はどうしても後手に回らざるを得ないが、その状況下でもやってよいことと悪いことがあるのは認識する必要がある。

 27日、戦闘機パイロットを描いた往年の名作映画『トップガン』の続編である『トップガン マーヴェリック』が日米同時公開された。私は観ていないが、周囲の人たちの評判は概ね良いものに思われた。第1作は私も観ており、テーマ曲と思われる「Danger Zone」を聴くと何となく血が騒ぐ思いはする程度に気に入っている。

 新作に関連した本を挙げるのが最良と思うが、今のところよさそうなものが無いので、第1作のノベライズ版を挙げる。映画を補完する気の利いた小説だと思うが、目下Amazonでは随分とプレミアが付いているようである(そこまでして入手すべきかは疑問)。今の映画の公開が終われば少しは落ち着くだろうか。

6月(1冊)

 1日、改正動物愛護管理法が施行された。幾つかの改正ポイントがあるが、画期的なのはブリーダー・ペットショップ等で販売される犬・猫にマイクロチップの装着が義務付けられたことであろう。しかし依然として課題は残り続けているように思う。

 挙げたのは、今年刊行された“動物の幸せ”について検討を重ねたテキストである。無論これ1冊で事足れりとなるはずもないが、まず押さえる本として不足なしと思う。

7月(5冊)

 1日、日本国内の計6地点で40℃超の高温を観測した。1日あたりで40℃以上を数えた地点数としては過去最多という。もちろんエアコンをかけて過ごしたが、それでもちょっとした外出やトイレなど、この日の前後数日間はその高温ぶりを体感した。

 上掲は過ぎた年(2016年)におくる50冊としても挙げたものだが、この酷暑を逆に読書に活かそうと考えて読んだ。インドの幾つかの夜を介したある種の探求譚は、意外と日本の蒸し暑さにマッチした。特にゴアの病院を訪ねるエピソードは、作中の匂いや湿度が生々しく感じられ、印象に残っている。

 6日、沖縄県名護市の沖合で男性の遺体が発見され、翌7日に遺体は漫画『遊☆戯☆王』の作者である高橋和希であると発表された。シュノーケリング中に人命救助を試み、溺死したものとみられる。

 氏の漫画を特に愛好しているわけではないが、カードゲームによる対決をメインに据えた物語は、その絵柄とともに独特の魅力を成していると思う。

 8日、奈良県奈良市近畿日本鉄道大和西大寺」駅付近で、元内閣総理大臣である安倍晋三氏が銃撃を受け、病院に搬送されたが死亡した。銃撃犯は奈良県警に現行犯逮捕されている。

 総理としての安倍氏に対して私は良い印象を持っていない。数々の疑惑について本人から何の説明もなされていないためである。氏が命を絶たれたという事態には衝撃を覚えたが、第一に思ったのは「何も語らずいなくなってしまった」ということだった。
 銃撃犯の山上徹也容疑者は、母親が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に多額の献金をしたことで困窮、教団に恨みを抱いていたが、その教団と安倍氏が密接に関連しているとみて犯行に及んだとされる。誤解を恐れずに言うならば、安倍氏は自ら是とした世の中に巡り巡って殺されたと思う。

 上掲書は自民党が政権を奪取した2012年、第96代内閣総理大臣として2度目の総理となった氏が、かつての自著に増補などを施し「完全版」として上梓した本である。10年前に氏の思い描いた「新しい国」「美しい国」に今この国はなっているのか、確認してみたい。

 15日、日本共産党は結党100周年を迎えた。
 同党に反感を抱く人は少なくないし、そうなって当然の歴史的な経緯は確かにある。しかし一方で、その理想が字義通りに実施されるのであれば、貧困と格差が是正されるものとも私には思われる。問題は、その理想を遂行するには人類が未熟であるという点ではないか。

 今年刊行された上掲書は、一口に共産党といっても多様な立場のとり方がある中での、日本共産党のこれまでと現在を客観的に描出したものである。
 私は現在の日本の社会体制でひどく困っているわけではない(むしろ、まずまず巧くやっている)が、市井の人々を見るに、もっとよい方法があるのではないかと思っている。その参考として、現政権から最も隔たった政党を知るのは無益ではないだろう。その意味で本書は適当と思う。

 20日、第167回となった芥川龍之介賞直木三十五賞の選考委員会が開催された。芥川賞は高瀬隼子氏の『おいしいごはんが食べられますように』、直木賞窪美澄氏『夜に星を放つ』が受けている。

 上掲は芥川賞を受けた『おいしいごはんが食べられますように』。職場での平穏さの中に潜んだ、“理解できないもの”としての同僚への微妙な悪意を描いたものと見受けた。後味は悪そうだが、いちおう押さえておく。

8月(4冊)

 17日、東京地検特捜部は、東京オリンピックパラリンピック組織委員会元理事の高橋治之(現・被告)を受託収賄容疑で逮捕した。AOKIホールディングス前会長の青木拡憲らAOKI幹部3人も贈賄容疑で逮捕されている。
 昨年の東京オリンピックパラリンピック開催時には「楽しまなければ損」というような風潮が一部で広がり、どんなものかと思っていたのだが、やはりと言わざるを得ないこととなった。

 上掲は、今回の五輪の2年前に刊行された、1964年の東京オリンピックを舞台とした社会派犯罪小説である。記録映画の監督降板を始めとして、興業、土建、政財界などがそれぞれの思惑が交錯する様に、どこかで見たような感覚に襲われるだろう。

 22日、ディープラーニング(深層学習)によるAIモデル「StableDiffusion」の初版が公開された。細かな説明を大幅に省略すると、誰でも普通のパソコンを使い、「乗馬する宇宙飛行士の写真」などの文字情報を入力することで、それに応じた画像を生成することができるようになった。オープンソースであることもあり、以後は画像だけでなく音楽・動画・プログラム・文章などについても同様のサービスが実現されるとみられる(既に部分的には実現されつつある)。

 私の仕事と絡めて考えれば、レイアウト上の埋め草として必要になる簡単なイラスト等を、誰に発注することもなく・瞬時に・幾度も生成できる、というのは、今後の書籍・雑誌の編集における大きな変革ではないかと思っている。無論、その代わりとして人間のイラストレーターの需要が減っていくことになり、そこには一定のフォローが必要かもしれないが、だからといってこの流れが遅滞はしても逆流するとは思えない。
 上掲書はやや煽り気味のタイトルではあるが、イラストAIの開発史や使用法、適法性など、割と包括的に書かれたものである。以後の世界への準備として目を通しておきたい。

 24日、京セラなどの経営者として知られた稲盛和夫氏が死去された。自ら設立した経営塾や著書を通じてその経営手法を普及させ、多くの尊敬を集めている。

 上掲は、代表的な著書の1つである。私はさほど氏から影響を受けた覚えがないのだが、“人として正しいか”に基づいて仕事の根本的な判断をしていくスタイルには共感できる。多くの人が“自分だけ良い思いをする”ことを追求した結果が現在の日本であるとするならば、誰もが氏の考えに学ぶ必要があるように思う。

 30日、ロシア(ソ連)の政治家ミハイル・ゴルバチョフ氏が死去された。1991年のソ連崩壊につながった「ペレストロイカ」と呼ばれる政治改革を進めた人物として知られる。
 氏については過ぎた年(2016年)におくる50冊でも触れているが、改めて氏の軌跡を思うと、挙げたくなるのはやはり自伝の類だろうと思い、今年刊行された上掲の1冊を選ぶ。もちろん、そこには現在のロシアに対して氏がどのように思っていたか確かめたいという気持ちが含まれる。

9月(4冊)

 4日は、日本で学制が公布されてから150周年となる日だった。この法令に関与しない日本人は原則的に存在しないと思うと、それなりの感慨も湧く。

 関連した書籍が出るとは思っていなかったのだが、まさかの大部が文科省から刊行されていた。さすがに個人で入手しようとは思わないが、恐らく文科省ウェブサイトのページで公開されているPDFと同じ内容と思われる。ちょっと気になるという方は、下記のリンクから閲覧されるとよいだろう。

 8日、自民党茂木敏充幹事長は、党所属議員のうち世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)と何らかの関わりがあったのは179人であるとの調査結果を公表した。安倍晋三氏の銃撃事件から浮上した問題を受けてのことである。

 近年のゲーム用語でデバフという言葉があるが、その意味するところは“不利な状態を発生させ、対象の能力を低下させる”というものである。この表現を借りれば、旧統一教会が政権与党に浸透している現状は、産業・立法・教育・医療・福祉・治安・国防等々、あらゆる面で日本にデバフがかかっている状態と言える。

 政治について、今の私ができることは選挙に行くこと以外ほとんどないが、著者の執念の結実と思われる上掲書を踏まえつつ、後悔のない投票をしたい。多くの人にとっても、それは同様のはずである。

 同じ8日、英国女王であるエリザベス2世が死去された。世界史上で第2位の長期在位君主であった。

 もっと女王の実像に迫るような本も色々と出ているのだが、この方に限っては何故か無粋に感じ、今年邦訳が出た上掲書を挙げた。派手ではないが、そこがまた英国らしい作風と思われる。

 13日、フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダール氏が死去された。私は大学で文化論の授業を受けていたが、氏の『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などはその授業の中で初めて接し、後者の1シーンにうすら寒いものを感じたのを憶えている。

 上掲書は「映画史」という書名ではあるが、実質的には映画にかこつけて著者が自分の考えを自由に語った講義録という方が適切だと思われる。恐らく奇書に類するが、氏を偲ぶのに相応しい1冊ではないだろうか。

10月(3冊)

 1日、アントニオ猪木氏が死去された。難病である心アミロイドーシスが直接的な原因とされるが、長くにわたる激闘や、40歳頃から糖尿病を患っていたことも身体の負担となったのではと想像する。プロレスラーとして、一時は政治家として、存在感を示した人物だった。

 挙げたのは、幾つかある氏の著書の1つである。おそらく、言わんとしていることは書名で全て言い尽くしていると思う。氏の精神を留めた本として記憶しておきたい。

 4日、北朝鮮が、午前7時22分に太平洋方向にミサイルを発射したことを受け、北海道、東京都、青森県全国瞬時警報システム(Jアラート)が発動されることとなった。その後もミサイル発射は続いており、これを書いている31日8時頃の3発を含め、1年間で過去最多となる73発を数えた。

 これを受けるような形で政府は防衛予算の急増などに動いているのだが、上に挙げた本はこれに待ったをかけるものである。北朝鮮がミサイルを撃つ資金が、どこから来ているのかから、解説を試みている。
 なかなか信じられないようにも思うが、本書を別にしても、日本から旧統一教会を経て北朝鮮に資金が流れている可能性が指摘されることもあり、ただちに眉唾物と片付けてしまうのも気が引ける。事実として73発のミサイルは日本に直撃はしなかったということともに、本書は記憶しておく必要がある考える。

 14日、経済産業省原子力発電所の運転期間を最長60年とする規制を撤廃する検討に入った。電力の安定供給と脱炭素を目指しての動きと思われるが、「大丈夫か」という思いは拭い難い。次に九州や北陸あたりで福島第一原発と同じようなことが起これば、人の多い地域が甚大な影響を受けるだろう。

 現状の原子炉は核分裂という反応によって成立しているが、これに対して比較的危険性が低いとされるのが核融合を用いた原子炉である。技術的に困難なため実用化はまだされていないが、核分裂炉の見通しが暗いのであれば、こちらの実用化を推進してくれればと思う。無論、その一方で省エネルギー再生可能エネルギーの普及を大々的に進めることも肝要だが。上掲書は基本的なものではあるが、まずは押さえたい内容と言えるだろう。

11月(5冊)

 1日、愛知県長久手市愛・地球博記念公園内に、スタジオジブリの世界観を体験できる「ジブリパーク」が開業された。この日は5つのエリアのうち「青春の丘」「ジブリの大倉庫」「どんどこ森」のみが利用可能となったのだが、私にとって暗い出来事が多かった今年の、数少ない明るいニュースに思われた。

 上はイージーな企画だが、こうした場合はやはり挙げたくなる施設の公式ガイドである。なかなか愛知まで行くことはないので、とりあえずパラパラとめくりたい。

 同じ1日、東京都で、性的マイノリティのカップルの、パートナー関係を公的に認める「東京都パートナーシップ宣誓制度」が運用を開始した。

 制度が始まったからということではないが、日本の性的マイノリティ(LGBTQ+)の割合は約10%であるとする上掲書を踏まえれば、仕事や私生活での普通の気遣いとして、理解が求められる社会になりつつあると感じる。気負わず、その理解に進んでいければと思う。

 6日、創設70周年を記念し、海上自衛隊が国際観艦式を相模湾沖で開催した。20年ぶりとのことである。

 艦船や兵器には、それが実戦投入される事態の是非とは別に、人々(主に男性)を惹きつける魅力があるのは事実である。私も人に誘われた形ではあるが、富士演習所の総火演などを観覧した覚えがある。
 願わくば、現役の艦艇が除籍になる折には、上記のガイド本とともに「観艦式が主要な任務だった」と愛好者たちに懐かしまれる未来を期待したい。

 同じ6日、本格的VRMMORPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)作品である「ソードアート・オンライン」が正式サービスを開始した。その後、プレイヤー全員がログアウト不能に陥り、一連の事件に発展したのは記憶に新しい。無論、それらはすべてライトノベル作品『ソードアート・オンライン』の作中での時系列による出来事である。

 つまりは小説内で描かれた西暦2022年に現実が追いついたということだが、実際ここ数年でバーチャル・リアリティヘッドセットは身近なものとなり、プレイヤーがアバターとしてバーチャル空間にダイブすることは現実のものとなりつつあるように思う。その先に何があるのかは分からないが、私は今のところ明るいニュースと考えている。

 29日、東京都八王子市の東京都立大学南大沢キャンパス内で、同大学教授で社会学者の宮台真司氏が首などを切りつけられ負傷する事件があった。犯人は今のところ捕まっていない。断定的な物言いで知られ、ご本人も反感を買ったりや脅迫状を受け取ったりすることには慣れていたようではあるが、襲われることは想定していなかったようである。

 事件に乗じて本を差し出すのも少し妙な気がするが、やはり氏の著書をと思い最初期のものを挙げる。権力という機能を数理的に考えた、氏の博士論文である。

12月(2冊)

 8日、山形大学の坂井正人教授らの研究グループは、ペルーのナスカ台地とその周辺で168点の地上絵を新たに発見したと発表した。人間、ラクダ科の動物、鳥、シャチ、ネコ科の動物、ヘビなどと思われる絵を確認したという。

 有名なナスカの地上絵であるが、本でしっかりと確認できるものを探すと、さほど数がない。上掲書は『地球の歩き方』編集室によるもの。今回の発見でアップデートされたものが出たら読みたいと思う。

 20日日本銀行金融政策決定会合を開き、長期金利の上限を「0.25%程度」から「0.5%程度」へ引き上げた。2013年春から続けている大規模な金融緩和の修正にあたり、事実上の利上げと受け止められている。その後は大幅な円高、株安となっている。

 以前は長期金利についての報道などはあまり興味を持たなかったが(それでも利上げとなれば相応の反応をしたか)、後述のように今年から投資を本格的に始めたこともあり、無視できないニュースとなった。

 上に挙げたのは、債券に精通した著者による債券・国債の平易な解説書である。年明け以降の動向を追うためにも、基礎的な理解は得ておきたい。

興味と関心から(5冊)

 以下は特に時事的な事情に拠らず、個人的な趣味で気になったり読んだりした本を挙げる。

株式投資の手始めに

 今年、自由になるお金が幾らかまとまってできたので、本格的に株式投資を始めた。以前から証券会社に口座を作って細々と行ってはいたのだが、フリーランスの自分もいずれ引退する時が来ることは明らかだし、多少は資産形成なるものをしておかないと、と思った次第である。

 買った株は基本的に長期保持して配当を貰うのが私のスタイルである。昨秋の刊行以来、ベストセラー入りした上掲書と重なる部分が大きいと人に言われ、目を通してみた。確かに指摘の通りで、ジェイソン氏の薦める米国ETFへの投資も取り入れることにした。

 しかし一方で、ストイックすぎるとも感じた。株式投資をたしなむ人々の間では元棋士桐谷広人氏も人気のようだが、私もまた“ジェイソン流”とのバランスを取る意味で、株主優待を重視する“桐谷流”も適宜参考にしつつ、投資を続けている。

腱鞘炎を患う

 5月の連休が始まろうかという頃、左手の親指に違和感を覚えた。それはすぐに痛みに変わり、腱鞘炎と診断されて、長い闘病生活が始まった。
 塗り薬などは効果が無く、患部へのステロイド注射も試みたが奏功しないため、一時は手術も選択肢に挙がったが、家人がどこかで聞いてきた食事療法(脂質を控えるなど)が効いたのか秋の終わりには包帯を解くに至った。年末のいま、ひとまず痛みは再発していない。
 編集者という仕事は、純然たる文筆業などに比べればそこまで指を酷使するものでもないが、それでも不便きわまりなかった。イラストや漫画を描く人にとっては死活問題だろう。

 上掲書の著者である漫画家・太田垣康男氏は、連載中に利き手の腱鞘炎を患い、細密だった画風から大幅変更を行ったことで知られる。上に挙げた『機動戦士ガンダム サンダーボルト』13巻は、まさにその画風変更の前後が収められた巻である。賛否があったと想像するが、それでも氏は変更した画風で連載を続けている。
 これまで私はあまり読まなかった方ではあるが、同じ病気を患った親近感と、その不屈ぶりに尊敬を抱いた。私も不屈でありたいと思う。

動画配信者たち

 居間のテレビにはAmazonの「Fire TV Stick」が繋がれており、最近はYouTubeを観る機会も増えた。テレビではまずシリーズ化されないだろう、少し変わった趣味や生活を発信するチャンネルを主に観ている。以下3点、そうしたYouTuber達から影響を受けて手に取った本を挙げたい。

 野山や川や海で調達した食材を料理して食すことを指す「野食」という言葉を聞いたのはいつだったか。野食ハンターを自称する茸本朗氏の名前と同時であったように思う。魚や木の実はもちろんのこと、亀や昆虫や毒草など、氏のチャンネルではフィールドで手に入る生物をあの手この手で料理し、食す様を多少コミカルな語り口で見せてくれる。
 単なるゲテモノ食いではなく、生物資源学的な知見に基づく説明や意見も付帯している点が素晴らしい。折からの物価高騰を受け、私が食い詰めた際にも、たとえ街中であっても食べ物があることを示してくれているとも思われ、動画の更新を楽しみにしている。

 氏には幾つか手掛けた本があり、上に挙げたのはその1点である。どちらかというと野食の失敗談を語った本であり、動画と同様、笑いながら野食の知識を深めることができる。

 40代、工場勤務で独身アパート暮らし、月給は手取り16万円程度の男性。絶望ライン工氏を端的に紹介するとそういうことになる。しかし、感情の起伏に乏しい、厳めしさすら漂う語り口とともに映像に現れるのは、黒ラベルの美味しさであり、古き良き日本を思わせる家庭料理のメイキングであり、愛犬と戯れる罪のない様子であり、「絶望」を名に戴きながらも楽し気な日々の暮らしであり、かつて音楽制作を生業としていたと目される氏による詞と曲である。

 氏は読書家でもあるようで、いちど愛読書を紹介する動画を公開された。上掲は、その際のラインナップの中で気になった、私にとって未読の1冊である。
 東北の小藩を脱藩し、江戸で浪人暮らしをする同書の主人公・青江又八郎の境遇は、会津若松から上京し、色々あって工場勤務をしている氏のそれと少し重なる。全4作のシリーズであるが、まずは1作目、ライン工氏が説明してくれた、カメラが春の風景に引いていく幕切れを味わいたいと思う。

 宮沢賢治が山や河原での石拾いを趣味としたことはよく知られたことである。その鉱物への興味は、作品の中でもしばしば嗅ぎ取れるところだろう。まさしく賢治と同じ系統の興味で石を拾い、愛でているYouTuberとして時乃小石氏の名前を挙げたい。
 石拾いの様子や、家に持ち帰ってからの手入れの映像とともに、音声読み上げソフトによる少女めいた声で流れるのは、鉱石についての専門的な説明と、森や川への慈しみあふれる氏の態度である。

 氏の動画を観ても、鉱石に対して私の興味がそこまで掻き立てられることもなく、私の価値観とは無関係に珍石を入手しては喜び、手入れをして発表する氏を生暖かく眺めていたが、ふと氏に繋がる本が書棚にあったことを思い出して取り出した。

 『少年アリス』(当該記事)などの作者であり、自身もやはり賢治的な意味での鉱石愛好家である長野まゆみ氏が、現実の鉱石の写真から物語としての鉱石を掘り出した。これが上掲書の端的な説明と言えるだろう。読み返して改めて、時乃氏の動画に私が惹かれるのは、自らの中にも賢治的な鉱石への興味が沈潜しているためなのだと了解した。石を愛でるかのように秘蔵していきたい。

 以上、過ぎ行く年におくる本を挙げた。とりあえず今回は、大晦日のうちに公開できそうで安心している。
 今年もまた忙しなく、色々と齧り読む割に読了は滞りがちだったが、以後の活性化を自ら祈念しておく。

 それでは、よいお年を。来年もよろしくお願いいたします。

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