スタッフ
作:アーネスト・トンプソン
演出:鵜山仁
キャスト
エセル・セイヤー:高橋惠子
チェルシー:瀬奈じゅん
ビル・レイ:松村雄基
チャーリー:石橋徹郎
ビリー:若山耀人
ノーマン・セイヤー・ジュニア:石田圭祐
※公演中なので、観ていない人は読まないでください。
あらすじ
舞台はアメリカ北東部、メイン州。森と湖に囲まれた、避暑地での出来事を描いた舞台です。
エセル(高橋惠子)とノーマン(石田圭祐)は、結婚48年の老夫婦です。
元助教授のノーマンは、エスプリの効いた冗談ともつかない話をする男。
暖炉に飛び込むやら、最後の誕生日になるなど
「死」を予感させる言葉が現実味を帯び、エセルはイヤな気がしていました。
彼らには、42歳になるバツイチの娘・チェルシー(瀬奈じゅん)がいます。
父娘の仲が微妙なため、8年間会っていませんでしたが、ノーマン80歳の誕生日を機に、別荘を訪れることになりました。
しかも、歯科医のボーイフレンド、ビル・レイ(松村雄基)と、その息子ビリー(若山耀人)を伴いやって来るというから、嬉しいやら戸惑うやらで複雑な2人です。
ややこしい性格のノーマンですが、ビルやビリーがイイ人間というのがプラスに働き、徐々に心を開いていきますが・・・
「黄昏」(「On Golden Pond」)は、42年前にブロードウェイ初演。
キャサリン・ヘップバーン主演で映画にもなり、アカデミー賞3部門を受賞した名作です。
感想
黄昏のチラシ広告を見た時の感想はこうです。
「アメリカの作品?嘘でしょ!?」
この、漂う倉本聡感といったらどうでしょう。
タイトルも漢字二文字ですしね。
実際の舞台を観ても、かなり和風でした。
勝手に想像するに、近似を得させるため日本に寄せている演出だとは思いますが、だったらいっそ、エセルをエリコ、ノーマンをノリオ、チェルシーをチエ、ゴールデン・ポンドを軽井沢に置換えても問題ないように思えましたね。問題あるか。
これといって大事件が起こるわけではないのですが、なぜかぐっと引き込まれる舞台でした。
その理由として第一に考えられるのは、エセルとノーマンへの共感です。
いつかどこかで出会ったような人物、且つ、自身が発したかもしれないリアルな言葉。
これらが思い入れとなって、2人を応援せずにはいられなくなってしまうのです。
苺を摘みに出かけ、突如、路が分からなくなるノーマンに、いずれ自分が通るであろう道を感じ、ノーマンが心臓発作を起こしたことで、エセルと一緒に狼狽していました。
ビリーと電話で話すノーマンの嬉しそうなことといったら、こちらまで笑みが漏れてしまいます。
孫の存在をきっかけに、“来年”を語るようになったノーマンに、お隣のご婦人も思わず「よかったわねえ」と呟いてしまうほど、良い“お茶の間”雰囲気が流れていました。
この舞台は休憩を含め2時間半あるのですが、台詞劇としては長い方です。
しかし、まったく退屈することなく集中することができました。
それは役者の力量が時間を上回っているからに他なりません。
全てのキャストが達者なのですが、全てのキャストにほんの少しだけ、辿々しい部分があり、それが絶妙な味になっています。
華やかさはありませんが、上質なものに触れ合えて、大満足でした。
キャスト感想
エセルを演じたのは高橋惠子さんです。
高橋さんといえば、隠しきれない色香が匂い立つ女優さんですが、今回の舞台では、そうではありませんでした。
かといって、枯れてもいません。
適切な表現かどうかわかりませんが、“妖精”のようにキュートで儚い感じがしました。
エセルの台詞は小言が多く、夫に対してあれこれ口うるさいです。
けれど、高橋さんの口を通して出た言葉は、日常的には聞こえず、耳障りがいいから面白いもんです。
度々でる蜘蛛の話も、暗示のような、不思議な感覚でしたね。
高橋さん演じるエセルのために、1日でも長くノーマンに生きて欲しいと願わすにはいられない、そんな気持ちにさせられました。
ノーマンを演じたのは石田圭祐さんです。
ノーマンは気難しい人物として、劇中扱われていましたが、そんなに気難しいですかね?
私は割と、否、かなりノーマンが好きでしたよ。
ツッコミタイプといいますか、すぐに言い返すノーマン、素敵じゃないですか。
死を恐れるが故に、死を口にしてしまう天邪鬼さも可愛らしいです。
石田さんの人柄が出ているのか、“死”についてのギャグも暗くなりませんね。
妻に対する甘え、娘に対するぎこちなさ、孫に対する悪友感のメリハリがはっきりしていて、わかりやすく、見事だと思いました。
かなりの台詞量ですが、難なくこなし湖の畔の世界へと誘ってくれます。
この夫婦が上手くいっているのは、小競り合いにせよ会話が絶えないからなのでしょうね。
よし、明日からは、更に会話することとしましょう!
チェルシーを演じたのは瀬奈じゅんさんです。
和風家族に、なぜかひとりアメリカーンな瀬奈さんですが、私の幻聴じゃなければ、第一声、袖から「ただいまー」と言いましたか?
“8年ぶりなのに我が家”といった、その挨拶の声色がとても自然で良かったのです。
また、年老いてきたエセルを実感し、何度も抱きしめる、台詞にはない気持ちの表現、こういうの大好きです。
脚本上には余計な展開がないけれど、役者が文字ではないことを表現することに、舞台の意義を感じました。
余計なお世話としては、頻繁にブラウスの裾を引っ張るのは、ノーマンと話す緊張の場面以外ではクセとしてうつるので、気を付けたほうがいいかもしれません。
郵便配達員のチャーリーを演じた石橋徹郎さんは、諦め半分の複雑な心境が手に取るようにわかりましたし、ビリー役の若山耀人さん、めちゃくちゃ良かったです。いわゆる子役演技ではなく、どこまでもナチュラル!逸材ですね。
ビル役の松村雄基さん、堅物でピッタリの役じゃないですか。
ビルを観ながら、直筆ファン会報を思い出したのは、きっと私だけ、ですよね。
最後に。
劇中「一緒に寝ることをお許しいただきたい」というようなくだりがあります。
別荘を訪れたビルが、まだ結婚していない間柄のチェルシーとベッドを共にすることを、父であるノーマンへ告げる場面ですが、私はとんでもない勘違いをしまして。
「ビル!恋人のお父さんと一緒に寝る気!?こわっ!」
・・・いや、だって、あの流れ、あの言い方は、そうとれますよ。
なに?そんなことはない?
ド変態ですみませんでした。
Fin
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