ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

トランプとツイッターと「表現の自由」問題

2021-01-20 14:58:53 | 日記
自由は国民一人ひとりに対して認められ、国家によって保障されるべき基本的人権の要である。個々人の自由の権利、つまり個々人の自由権と、国家との関係をどう考えたら良いのか。これは決して見過ごせない問題である。

先日の本ブログで見たように、(日本における)感染症法の改正問題を検討する場面で、我々はこの問題を突きつけられた。改正案では、国家がコロナ感染者を入院・自宅療養するように命じ、これに従わなかった者に罰則を科すことになるが、これは許されることなのかどうか。つまり、個々人には国家の命令を拒否する自由が「権利」として認められるのかどうか、という問題である。

自由には行動の自由、表現の自由、信教の自由など、さまざまな自由がある。感染症法改正の問題場面では、行動の自由と国家の命令との関係が焦点になったが、では、人権の要としての「表現の自由」の問題をどう考えるのか、これもまた重要な問題である。

私の念頭にあるのは、日本ではなく、アメリカでの出来事である。次のような報道が印象に残っている。

「米ツイッター社がトランプ米大統領のアカウントを永久停止したことを受け、トランプ氏は8日夜、別のツイッターアカウントから『ツイッターの従業員たちは民主党員や急進左翼と連携し、私や私に投票した7500万人を黙らせるため、私のアカウントを削除した』と反論した。ツイッター社は直後に、これらの一連のツイートを削除する措置をとった。」
(朝日新聞DIGITAL 1月9日配信)

トランプ大統領のツイッターアカウントを停止するのは、トランプ大統領の意見を公共の言論空間から排除することであり、トランプ大統領から「表現の自由」を奪うことに等しい。これは許されることなのかどうか。きょうはこの問題を考えてみたい。

産経新聞は17日付の社説でこの問題を取りあげ、次のように論じている。

「法による干渉は検閲であり、それこそ言論や表現の自由の侵害に当たる。そもそも米国憲法修正第1条は表現の自由を制限する法律の制定を禁じている。『自由』を守るためだ。」
(産経新聞《【主張】米大統領とSNS 排除理由の丁寧な説明を》)

右派の産経にしては珍しい、超リベラルな見解である。面白いことに、この問題に関しては、左派の朝日新聞のほうがコンサバな主張を掲げている。こんな具合だ。

「(ツイッター社の)再三にわたる警告の末の停止は少なくとも当面、やむをえまい。20日の大統領就任式に向けて全米で抗議行動が起きる恐れが指摘されており、緊急措置的な意味合いもあった。」
(朝日新聞DIGITAL 1月20日配信《(社説)SNSの規制 事業者の責任は重大だ》)

問題を見えやすくするために、次のようにラディカライズし、単純化することにしよう。
「暴動を煽り、国家秩序を破壊するような意見(意見A)の表明を公的な言論空間から排除することは、是か非か」

この問題を考えようとする場合、思い起こされるのは、ドイツのメルケル首相が述べた見解である。メルケル首相は、「意見Aの排除は、法に基づくべきだ」と述べたが、これは、「法に基づくなら意見Aの排除は是、法に基づかないなら意見Aの排除は非」と述べたに等しい。

そこで問題になるのは、ここでいう「法」の内容である。アメリカ合衆国憲法は「言論の自由」について、どう規定しているのか。「米国憲法修正第1条は表現の自由を制限する法律の制定を禁じている」と件(くだん)の産経の社説は記しているが、「表現の自由」の制限が認められるケースについてアメリカ憲法がどう規定しているかは、これだけからは分からない。残念ながら私はそのあたりの事情について、まったくのド素人である。

日本であれば、憲法には第12条、13条が明記され、「公共の福祉」に反する場合には「表現の自由」は制限されて然るべきだと解される。アメリカ憲法には、これに相当する規定はないのだろうか。

一つ言えるのは、朝日の社説が日本国憲法第12条、13条の規定を念頭において、「意見Aの排除は是」と断じていることである。これに対して産経の社説は、憲法12条、13条の規定を度外視し、「意見Aの排除は非」と断じている。

最近はボケたためか、記憶は定かでないが、日本国憲法12条、13条の大切さを教えてくれたのは、たしか産経の社説だった。その産経が、きょうの社説では憲法12条、13条をあえてシカトしているように見える。このことをどう考えればよいのだろうか。



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