おとぎの国の穴場スポット。そんな形容がふさわしいクリニックを見つけた。そのクリニックが近所にあることを、私は最近まで知らなかった。
きっかけはインフルエンザの予防接種である。
1か月ほど前、市役所から予防接種の通知が届いた。
そこには「かかりつけ医に電話連絡の上、ワクチン接種を受けるように」と書かれていた。
私が「かかりつけ医」にしているクリニックは別にあったが、電話を掛けると、「あなたは当院でほとんど受診していないので、一般の方と同じ扱いになります。12月になったらお出でください」と、つれない返事。
このクリニックにはこれまで障害者の認定書類を書いてもらうためなどで2、3度行ったことがあるが、いつも年寄りで混み合っていて、ほとほと嫌気がさしていた。
こんな横柄なクリニックなど、二度と行ってやるものか、と憤慨していたところ、妻が耳寄りな話を聞き込んできた。
「近所に、**クリニックという医院があるのだけど、ここはあまり流行っていないらしくて、いつも空いているらしいわよ。この前のコロナ・ワクチンのときなんか、『うちでどうぞ』と向こうから電話が掛かってきたというから、今度のインフル・ワクチンも、多分ここでやってくれるのじゃないかしら」
「うむ、それはいい」
私は答えたが、このとき私が脳裏に浮かべたのは、人気のない、うら寂しげな廃墟のイメージだった。
この私の予想は、良い意味で裏切られた。
実際に行ってみると、小綺麗な待合室に、6、7人ほどの老人が受診待ちをしていた。
妻が言うには、このクリニックは台湾人の医師が夫婦でやっているらしく、そういえば受付の中年女性の日本語が少しぎごちなかった。
看護師はいないらしく、ワクチンの注射はドクター自身が打ってくれた。
これが、痛くない!全く痛くない!絶妙な注射技術である。
「あの、先生にかかりつけ医になっていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか」
感激して私が言うと、
「ええ、かまいませんよ」
50代と思しき白髪混じりのドクターは答えた。
私の言葉がドクターにどう響いたかは分からない。帰りがけに、車椅子の私を、ドクターはわざわざ駐車場まで見送ってくれた。多謝。
このクリニックは車で5分ほどの場所にある。帰途、運転しながら妻が言うには、このクリニックの医師は往診もしてくれるらしい。
ついでに、看取り医にもなってくれるのだろうか。