ダンシャリアンシリーズは「小説を読もう」に加筆修正してUPしています。
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「・・・詐欺の被害総額は過去最高を記録、今後新たな対策が必要とされます」


 平坦な顔つきの女性キャスターが、一息つくと、画面はお天気コーナーに切り替わった。「今日の空模様をお伝えしまーす」と人気タレントがファーのついたピンマイクを風に吹かせてにこやかに話し始める。


 連(レン)は乱暴にテレビのコンセントを抜くと部屋を見渡した。


 壊れた冷蔵庫は中身とともに処分した。
 テレビ台を捨て、土日ごとに荷物を整理をしていたら、必要な物などどんどん無くなっていく。近くのコンビニ横にコインランドリーがあるし、朝はコーヒースタンド、夜は安い定食屋の日替わりで事足りる。
 そう気づくと、途端にガスコンロも洗濯機もいらなくなる。そうなればガスも要らなくなり、風呂も銭湯に切り替える。無駄にスポーツクラブで汗を流すより、銭湯への往復が立派な運動になる。


 もともと収納の少ない部屋だったから、風呂場の浴室乾燥のためのポールをハンガー掛けに使ったら、家具も不要になった。小物も同じ場所に置いておく。


 おしゃれに興味はあったけれど、シンプルなシャツとパンツ、そして靴と靴下を素材とブランドにこだわって統一したら、いつも同じ洋服でも逆に個性に思えてくる。
 連は土日のたびに今の自分に不要なものは何だろうかと考えるようになった。それに比例するように減っていく生活費を確認するのが楽しい。スマートフォンの家計簿アプリで次はどこを削るか考えるのが日課になった。


 連は没頭した。上島から勧められた被害届は出さず、被害者の会に近寄ることもない。被害額について考えるのもやめた。一切を取り払った無駄のない空間で、さらに無駄を捻出する。何と清々しい瞬間だ。

 今日はこのテレビを業者が引き取りに来る。また部屋が広くなり、余計なことを聞かなくても済むようになるのだ。自分の身の回りがどんどん快適になっていく。本当は会社のデスク内も何もなくしたいぐらいだけれど、さすがにそうもいかず、常にきっちり揃えることで勘弁してやっている。


 困るのは、実家からの荷物だ。
 何度断っても、電話の向こうの母親はまた送ってくるだろう。本気で怒って見せても、全然懲りてない。どうしてあんなにも過干渉なのだろう。対して父親は教師にならないと告げた時にも、大学卒業後も帰省しないと告げた時にもあっさりしていた。


 そろそろ自分も独立して、いい加減親の心配から逃れたい、そう思えば思うほど深みにはまっている気がする。今回も楠美が結婚するなんて聞かなければ、もう少し冷静になれていたかもしれないのに。

 とにかく、今は節約してなくしたものを取り戻すのだ。ボーナスが出たら、両親に旅行をプレゼントしよう。自分は立派な社会人として独立した、そう思ってもらいたい。

 そんなことを考えている時、ようやく連は気持ちが安らぐ。
 捨てるという行為が前向きであると自覚すると同時に、とても安心する。



「何、やってんの
?


 声に振り向くと、目を丸くして立ちすくむ連がいた。とし美は楠美、連と交互に顔を眺める。あの頃みたいだ。連が夏休みに楠美を連れてやってきてくれた日。地元では割とお洒落な方のイタリアンに家族で出かけた。

「どうしたの、楠美も、母さんも」

「ねぇ、連。あなた、騙されてないわよね」

「連、正直に答えて。あの日、カフェで一緒にいたあの女、詐欺で捕まった工藤正子って女じゃないよね」


 連は女
2人の顔をじっとりと眺める。目が四つ、自分を心配する真剣な眼差しが四つ、そこにはあった。


「何、何、どうしたの」


 
2人とも、って言うかこっちこそびっくりなんだけど、何、楠美も久しぶりなのにさぁ、何俺より母さんに先に会っちゃってんの。まさか、待ち合わせ?んなわけないよね。母さんも母さんだよ、いきなり騙されてるとかさぁ、何言ってんだかって話だよ。まったく。


「連・・・どうしたの、ねえ本当にそんなひどいこと、されたの
?

 とし美からぐっと腕を掴まれ、その右腕を見た瞬間に、目からボロボロっと涙がこぼれる。あれ、やばい。何だこれ。

「連、やっぱり。あの女だったんだよね。マジで?で、いくら取られたの?警察には?

 うるせーよ、楠美。ちょっとは落ち着けよ。そんないっぺんにしゃべったら聞こえねぇだろ、答えらんねぇだろ。もう。


「あらあら、どうしましょう」
 とし美が慌ててバッグからハンカチを取り出す。昔からよく知っている小さな小花のついたいかにも女ものってやつ。いつの間か開放された腕が連の隣で所在なくぶらぶらしている。



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